乗り物と空力ブレーキの話
通常、ブレーキといえば自動車で採用されているディスクブレーキやドラムブレーキを連想する方が多いと思います。
また、多くの鉄道で採用されている回生ブレーキや航空機の着陸時に使用されるスラストリバーサー等、用途に合わせて様々な種類のブレーキが存在します。
様々なブレーキのひとつに空気抵抗を一時的に増やすことで速度を落とす空力ブレーキというものも存在します。
空力ブレーキの特性上、高速移動中では特に減速効果を発揮しますが、速度が落ちるに連れて空気抵抗が弱まることでブレーキ性能も弱くなる為、通常は単独で使用されずに他のブレーキと併用して使用されることが多いです。
あくまでも補助的な役割であるために一見目立たない存在の様に思えますが、空気抵抗を増やす為に変形するその姿はむしろ目立ちまくりであり、常時と異なる姿に魅力を感じる方も少なくないと思います。私もそうです。
今回は乗り物の種別毎にどの様な空力ブレーキが在るのかを少し紹介しようと思います。
航空機
実用で最も空力ブレーキが使用されているのが航空機です。
旅客機の着陸時に主翼を観察していると接地後に主翼上部がパカッと持ち上がるのを見ることができますが、アレが正しく空力ブレーキです。
スポイラーと呼ばれる装置で、主に航空機の空力ブレーキとして使用されています。最も目立つ場面は着陸時ですが、飛行時も微かに動いて空気抵抗を増やす事で航空機にブレーキを掛けています。
また、スポイラーは航空機の揚力を抑える役割もあり、着陸時に航空機が再離陸してひっくり返らない様にしていたりします。
更に戦闘機の場合はスポイラーとは別に空力ブレーキを持っている場合があります。
例えばF-15は中央背面に大きな可動板を着けており、着陸時や急制動時に可動板が大きく持ち上がる事で大きな空気抵抗を得て制動しています。
鉄道
鉄道の場合は(恐らく)実用化されている空力ブレーキはありませんが、主に高速走行を行う新幹線やリニアモーターカーで何度か空力ブレーキが検討され、実用化に向けて実際に試作された事があります。
試験新幹線であるE954形が空力ブレーキを搭載して、メディアではネコミミ新幹線として紹介されたのは有名な話ですね。試験の結果、空力ブレーキが無くても十分な制動力があるという結論に至り、残念ながら新幹線の空力ブレーキは実用化されませんでしたが。
また、リニアモーターカーでも空力ブレーキが試されているようで、E954形の様な空力ブレーキを持つ試作車を過去に何度か作っています。
自動車
自動車ではモータースポーツの明瞭期に早速空力ブレーキを持つマシンが登場しています。
例えばメルセデス・ベンツ・300SLRは、ル・マン24時間レースでの高速走行時からのブレーキ対策として空力ブレーキを併用していました。
しかし、F1を中心として空力開発が本格化し始めた頃、パーツの耐久性の問題から「可変する空力パーツ」はレギュレーションで禁止となり、現在でもDRS(ドラッグリダクションシステム、可変リアウィング)等、レギュレーションで許可された箇所以外の可変空力パーツは禁止されています。
空力ブレーキはレギュレーション上では可変空力パーツに該当する為、モータースポーツの世界では空力をブレーキとして利用する例は明瞭期を除いて殆どありません。
一方、スポーツカーの世界では最近でも空力ブレーキを採用している例がいくつかあります。特にマクラーレンは空力ブレーキを搭載したマシンをいくつか出しており、高速走行からのブレーキ時にリアウィングを立たせてディスクブレーキと共に空力ブレーキを効かせることが可能です。
とはいえ、あくまでもスポーツカーで殆どは公道を走行するものの為、空力ブレーキが有効に使用できるケースというのはまともに走っていればそうそうお目にかかれませんが。
また、モータースポーツにも例外的に空力ブレーキが使用されているケースとしてドラッグレースがあります。ドラッグレースのマシンは減速時にパラシュートが用いられますが、アレも立派な空力ブレーキの一種です。
バイク
実はバイクでも空力ブレーキが存在します。
それはバイクのパーツではなく、ライダーそのものが空力ブレーキになります。
特にレースで良く見られますが、ライダーは身体に受ける空気抵抗をできるだけ小さくする為にストレート等では基本的に前傾姿勢ですが、コーナー手前では上体を起こします。
上体を起こして空気抵抗を増やすことで、バイクのブレーキと共に空力ブレーキも自らの身体で効かせているという訳です。
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