22話-バルボーザ先生
マルコス・バルボーザ先生は元柔道五輪強化選手で、大学時代は天理大学に外人枠で在籍していた。
その時に日本語を覚えたらしく、生活に困らないぐらいの日本語は話せる。
たまに関西弁が出るのが可愛らしかった。
バルボーザ先生の最高実績は柔術世界選手権3位。
当時最強と謳われたグレイシー一族のホイラーグレイシーを倒して有名になった。
それから道場を開き、無数の強豪選手を生んで来た。
昔世界最強レベルに偏屈な無愛想男ムリーロサンタナが唯一先生と呼んだ人であり、たまに練
習したら達人のようなパスガードで有名選手をパスしているのをよく目にした。
小林さんの話だと、あのコブリンヤが茶帯の時に出稽古に来てバルボーザ先生にパスされていたとの話を聞いた。
そんな先生に私は何をトチ狂ったのかこんな質問をした。
「先生。俺、黒帯になりたいんだけどどうやったらなれますか?」
バルボーザ先生は笑いながら
「僕からポイント取ったらあげるよ」
と言った。
そして数日後バルボーザ先生から急にスパーしようと誘ってもらえた。
私はまさかこれは!?と思い一度トイレに行って気合を入れ直した。
スパーが始まり私はすぐハーフガードへ。
そして私の脇が取れないと察すると得意の頭突きパスに。
ものすごいプレッシャーだったが
私はニースライスにカウンターを合わせスイープ。
そのあとまた立ちになり
背負い投げで投げられてそのまま横四方へ。
達人のような動きでスルスルっと十字に入られてタップ。
残りの時間でまた私が下になり
バルボーザ先生のプレッシャーに合わせてブリッジでスイープ。
そこで先生が亀になり全く打ち崩せないでスパーが終わった。
「ハーフガード強いなお前!」と笑いながら言い去って行った先生。
私はテストだったのかなんだったのかわからないままで、もしテストだったのだとしたら私はどう映ったのだろう?と気になった。
バルボーザ道場に来て二ヶ月が経ちその日も練習が終わり帰ろうとすると、バルボーザ先生が帰り際に私の肩を叩き
「お前黒帯やる!」
と言われた。
私は何を言われたのか全く理解できなかったが、数秒後あんなに心のこもった「マジで?」を言ったのは後にも先にもない。
バルボーザ先生は笑っていた。