49話-七帝柔道体験記 中編
私の二度目の七帝柔道との遭遇は仙台にいた頃。
東北大学があり、草柔会に何人か東北大学柔道部の方がいた。
その中でも印象に残ったのは高橋実さんだった。
高橋さんは当時茶帯だったが、東北大学が七帝戦を優勝した時に超弩級と言われる選手で、抜き役でも実力が特出した人につけられる呼び名を持つ選手だった。
私は運良くこの東北大学の超弩級に二人出会っている。
もう一人は伊東透さん。
この二人は東北大学でも歴代屈指の強豪と言われていた。
二人とも違う得意技があった。
高橋さんの得意技は帯取り横返し。
どこからでもテッポウで返してしまう力があり、私も何度も投げられた。
組手が出来たら自分から潜り込んできてテッポウで返してしまうという変則技だったが発想が面白かった。
伊東さんは一度しか会わなかったが、一度スパーした時に一度脇差しでパスされたのを覚えている。
伊東さんは足抜き名人だった。
しかし、こちらは正統派足抜きで脇をしっかり差してくるタイプで、そのタイトさはバルボーザ先生に近いものがあった。
私も二度ほど東北大学に練習しに行った。
私の技術は珍しかったらしく、この二人をひっくり返したと言う噂で東北大学が騒ついたとかつかなかったとか…
しかし七帝柔道にはない発想の足絡みだったので教えに行った。
その練習の中で思ったのはいかんせん亀が固くて取れない。
襟自ら引っ張って奥襟がタイトになり奥が掴めない。
亀の体勢に手を突っ込むと肘や手を使って掻き出される。
こちらの攻め手に合わせて察知して守る。
それに特化していた。
これが高専亀か!と思った。
ハーフガードの二重絡みでずっと耐える選手もいた。
東大には二重絡み職人がいると言う話をその時はしていた。
結局会えなかったがそんな選手もいるのかと興味をそそられた。
及川さんと言う人のフックガードも凄かった。
スネの筋肉が柔らかいのか足の甲がどこまでもくっついて来た。
どうやって鍛えたのか聞くと、卓球のピン球を足の甲に乗せフックを作りキープをすると言う練習をやっていたらしい。
私は若い大学生の発想に何度も感銘を受けた。
しかし強くなるとはこう言う事なんだと思った。
創意工夫。
強い選手の中にいれば強くなるのは当たり前。
しかしそれは強い選手との練習に引き上げられて慣れているだけ。
本当に強い選手や魅力がある選手は、独自の視点でいつもその一歩を踏み出せる人間だと思う。
一流選手に何としても勝とうと大学から始めた奴が工夫して追いつく事が出来る。
ここには創意工夫の核があると私は思った。
みんなそれぞれの得意技を持ち、自分の役割を果たす。
この七帝柔道の美学に私は柔術に自分が感じていたものと似たようなモノを感じた。
そして私が絶対解けないと言われた二重絡みの解き方をパッ教えたら学生達は「凄い!岩崎さんは天才だ!」と騒いでいた!
「いやいや頭は君らの方が何倍も良いやろ!自分で考えろや!」
と高卒の私が東北大生に言ってたのは良き思い出だ。