8話-片脚にしがみつく日々
とあるDVDがその答えを持っていた。
ジェフモンソンと言うADCCグラップリングの世界王者が、2005年のADCC大会で戦っているDVDだ。
はじめは重量級の戦いなんて興味はなかったが、軽い階級より体が硬い選手が多くいるのではないかと思い直し見始めた。
その+99KGカテゴリーに、ジェフモンソンという男がいた。
見るからに柔軟性がなさそうな体つきだったが、超筋肉質な体でその階級にしては背は小さく、異質な存在だった。
結果は、ジェフモンソンがそのトーナメントを優勝。
強面な彼が汗だくになり、泣いているシーンは印象的だった。
彼のような体型の選手でも王様になることができると知り希望が持てた。
そして私はジェフモンソンを毎日研究し始めた。
レスリングのスキルと強固なトップキープ、それとたまにやるハーフガードからのタックル。
私はレスリングの練習がしたかったが、地方の柔術道場でレスリングの練習はほぼ出来ないと思った。
どうしてもスペースとレスリング経験者が必要になるからだ。
しかし、そのほかならマネできると思い、ハーフガードを練習し始めた。
レスリングができなくても、片脚タックルにしてしまってからのスタートなら練習できると思ったのだ。
そして、紫帯になった時からハーフガード修行が始まった。
もちろん当時はハーフガードのスペシャリストなどいるわけもなく、全て自分で一から考えて行った。
最初は足を抜かれないところからの練習だった。
ガンガンニースライスに来る相手の足にしがみついて、スパーリング時間中は必死に耐えた。
たまにそれで大きく体勢を崩す相手は、片脚タックルにして倒すこともできた。
しかし、私がそうして来ると皆に知れ渡ると、脇差パスの餌食になった。
そこで脇を差されるとハーフはダメだと知り、脇を守る練習を開始した。
足にしがみつく、脇を差す。これを毎日繰り返した。
その中でとある柔術ブログで、ジェフグローバーの記事を目にした。
ジェフグローバーはアメリカ人の軽い階級の選手で、ディープハーフガードの使い手と紹介されていた。
「ディープハーフガードってなんだ?」
と言うのが心に残り、次はジェフグローバーの研究を始めた。
その頃、ディープハーフの使い手は日本にはかなり少なく、その技術を正確に知っている人の方が少数派で、情報を集めるのにとても苦労した。
最初の認識は片脚タックルを背中つけてやるものと言う認識で、ジェフモンソンもそれをたまに使っていた。
なので、私の片脚しがみつきもディープハーフに進化して行った。
初めて一ヶ月入る形は大分、分かってきたが返す形に私は悩んでいた。
返す瞬間に脇を差されてしまう。
返したら三角締めのカウンターを食らってしまう。
これは伊東さんと白神さんには嫌という程やられた。
なので私はディープハーフの時に脇を差されてしまう左手を、相手の膝の後ろに隠してしまうことを思いついた。
そうすると、体を返して片脚タックルにはできないが下から足を持ち上げてしまおうと言う発想になった。
ディープハーフからベンチブレスして足を持ち上げて返せばいいやん!と。
実際やってみると、相手の体が跳ね飛ばした瞬間に離れすぎるので逃げられてしまう。
でも脇を差されると言うのと、三角締めになってしまうと言うリスクはこれで大分無くなった。
あと一歩という時に、私はベンチプレスの時重たい重量をやる時に腰をあげてブリッジするのを利用することを思いついた。
このディープハーフガードの形を作ったら、マウント返しのようにしてしまえばいいのではないか?と思った。
練習して二ヶ月目に差し掛かった時、私のディープハーフガードの原型はほぼ完成していた。
これが私がハーフガーダーになった経緯である。