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36話-遠い世界

二人の世界王者に完膚なきまでに潰された感想は、一体どうやってこの果てしないレベルの差を埋めれば良いのかと言う事だった。

その時の私には何も良い案などは浮かばず、過度な減量をしていた事や何もかもが些細な努力に感じた。

しかし恐怖から解放された私は、中村大輔さんや玉木強さんと雑談で気を紛らわした。

日本に帰った私はまた仕事に戻っていった。

そして3月また試合があった。

パンアメリカン選手権だ。

これは別名パンナムと呼ばれる大会で、世界三大大会の一つでアメリカのLAで行われる大会だった。

私はこれも行く準備を始めた。

とりあえず一度や二度ダメだったぐらいでは、まだ世界のレベルなんて測れないと考えていた私のやる気は萎むことはなかった。

また欽也さんを頼ってパンアメリカンに同行。

私は海外遠征に行く事に後ろめたさを感じないようにする為に、正社員からバイトに自ら降格していた。

この三代大会は本当に大切な機会で私は行かずにはいられない。

しかし会社に迷惑もかけたくないと話したら社長は未来のために頑張れと言ってくれた。

器のでかい人だと思った。

パンに行く前、東京の小岩で柔術プリーストのテクニック紹介の収録をした。

自分のテクニックが全国に配信されるのはとても嬉しかったが、花粉症により鼻が詰まり、鼻声で目が腫れていて別人のようになっていたのは良い思い出である。

アメリカに着いたらまた数人と行動し、会場を行ったり来たりして数日を過ごした。

今回のパンアメリカンのブラケットが出た。

相手はマリオ・ヘイス。

元世界王者、強敵だ。

マリオ・ヘイスは今の若い柔術家は知らない人が多いと思うが、2000年初期はマリオ・ヘイスは黄金のフェザー級を作り上げた立役者であり、それこそコブリンヤが現れるまでは無敵の強さを誇っていた。

得意技は三角絞めで、数々の相手が餌食になり、低い体勢から素早く引き込み、三角絞めに入れると言うスタイルだったが気性が荒く、反則してきた相手に反則を仕返して勝つと言うような面もあり、色々話題性に事欠かない選手だった。

私からするとレジェンド的な存在で試合前から興奮していた。

その試合が始まった。

引き込み合いになり、ヘイスが上に。

私はハーフからディープハーフに移行。

この時私がラペラを繋いでいると脇を強引に差し跨いで来た。

私はこれは十字固めに来ると読んだ。

そして十字のカウンタースイープ。

あまり見ない形でスイープしたが私の中では秘策であった。

私はマリオ・ヘイスの性格と得意技にヤマを張って

スイープを仕掛ける事を試合前から考えていた。

十字を耐え忍んでヘイスが体勢を変えた。

審判が2点を挙げる。

元世界王者からの2点を先制した。


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