光学印象法が保険収載される可能性と、「技工くん」のビジョン
1月26日に、厚生労働省のHPにアップされた中央社会保険医療協議会の議事次第の「優先的に保険導入すべきとされた新規技術の保険導入及び既存技術の診療報酬上の評価を行う。」の項目例に「 CAD/CAMインレー修復に対する光学印象法」が明記されました。まだ確定ではありませんが、光学印象法が保険収載された場合は長期に渡る大きな変化が、歯科医療において緩やかに始まります。
光学印象の保険収載の影響
近年の光学印象やCAD/CAMは、目覚ましい発展を遂げてきています。一方で、国民皆医療保険制度に歯科医療が大きく組み込まれている日本において「テクノロジーの発展 = 国民に面として提供できる歯科医療の進化」でありません。テクノロジーとして十分に発展し、学会などから提言されて認められたものが保険収載されて行きますが、光学印象の保険収載は、臨床現場で使用される材料や医療機関で独立して使用される医療機器とは異なる様々な課題を抱えています。
これまでの歯科医療関連の保険収載の歴史から見ると国内メーカー。ついで外資メーカーの順に、保険適応になっていく可能性があります。あるいは、医薬品医療機器総合機構記載の全ての機種が同時に保険適応になる可能性もあります。そのいずれにせよ、iOSはメーカー各社が独自のクローズド・プラットフォームを形成してきました。それ自体は、プリンターなどと同様に多くのテクノロジーの発展において多くの産業で見られた流れと同じであり、悪いことではありません。一方で、歯科医院と歯科技工所という多数対多数の既存の商取引のネットワークが存在する世界においては、
・ 保険インレーに関わる歯科医院と歯科技工所間での連携条件
・ 国境を超えた歯科技工物のサプライチェーンをどう捉え、保険領域の医療安全保障上どのように捉えるか
など、様々な課題があります。それらについては、グレーゾーンだらけにならないように規制から入り、実情が形成されていくに伴い時間をかけて間口の広がりを見せていくことになるでしょう。その先に、他の技工物にも光学印象の適応範囲が拡大されていくことになるのでしょう。
歯科技工産業としての効率化・生産性の向上を考えると、これは避けられない流れになります。一方で、歯科医院・歯科技工所の光学印象・歯科用CAD/CAM装置の保有状況から考えると、今回の「 CAD/CAMインレー修復に対する光学印象法」がいきなり一般化することがありません。それが冒頭に記載した「緩やかに始まる」という言葉の意味です。
東京歯科保険医協会が昨年10月に出した報告書によると、デジタルデータから自費の補綴物を製作している歯科技工所は26%であり、保険の補綴物を中心に大半は旧態依然としたアナログなオペレーションで受発注・生産・管理されています。この現状が一瞬で切り替わることはなく、保険収載に伴い歯科医院・歯科技工所双方において、光学印象・歯科用CAD/CAM装置の導入が一定加速するところから始まります。同時に、高齢化が進み個人事業主が多いことから、投資意欲を持てず導入をしない選択肢をとる歯科医院・歯科技工所も多くあり、これまでと変わらない世界も残り続けます。
歯科医院・歯科技工所共に、5年後・10年後のオペレーション・ビジネスモデルを考えた投資判断をするべきタイミングに入ったとも言えます。
過去の投稿にて、2040年に向けて、歯科技工へのニーズは堅調に推移することや、歯科技工産業を取り巻く環境について記載しました。
言い換えですが、いずれにせよ歯科技工物の生産は、光学印象法/CADCAMによりDX化されたオペレーションと、保険においてDX化非対応の歯科医院・歯科技工所を維持していくためアナログなオペレーションが混在していくことになると私は考えています。
「技工くん」のビジョン
私がUCLA時代にお世話になった教授から学んだことに、
というものがあります。光学印象の保険収載に当てはめて考えるのであれば、部分最適化に繋がるテクノロジーとは、メーカー各社が独自に発展させてきたiOSのクローズド・プラットフォームを指しており、世界を前進させる素晴らしい価値を提供しています。私の見解では、2024年現在は部分最適化に繋がるテクノロジーの開花期であり、全体最適のテクノロジーについては夜明け前だと感じています。
それでは、全体最適につながるテクノロジーとはどういうものでしょうか。
そのためには、歯科技工に関わる各プレイヤーについて、理解する必要性があります。ここからは、私の講演内容から抜粋していきます。
こちらは、歯科技工に関わるプレイヤーと動向です。
その上で、メーカー各社が独自に発展させてきたiOSのクローズド・プラットフォームは、開発者起点で歯科医院と歯科技工所を繋ぎ合わせていきます。ここにおける課題は、
などがあり、これらをクリアーしていくことは、未来の歯科医療のために大切です。ごく一部、オープン化させる動きをとるメーカーも出てきていますが、日本の特殊な市場環境にアジャストできるのかはこれから次第というところでしょうか。
そこにおいては、部分最適化と融合していく法令に基づいた運営と医療データの集約による全体最適化のテクノロジーが求められます。また、日本特有の自費診療・保険診療への対応や、単純な善悪の判断を超えた海外技工の流入についても考慮していく必要があります。
環境として、短期的に変化しえないことと、時間と共に見解を含めて徐々に変化していくことがあります。それらと相互に影響しながら、日本に合わせた部分最適化と融和していく全体最適化が求められます。それこそが、これから発展していくテクノロジー領域であり、「技工くん」のビジョンのコアになる考え方です。
光学印象法の保険収載の本質は、歯科技工に関わる面としての労働力の維持と生産性の向上です。それを実現していくためには、歯科医院の業務効率を高めながら、歯科技工士が集中するべき領域に集中できるように産業全体の効率化・生産性の向上を実現し、歯科技工を人々の健康に寄与する医療として維持し、高めていく必要があります。
それを実現化させるデジタル・プラットフォームは、1社独占や単独で構築できるものではありません。
大きくは、iOSメーカーやレセコンメーカーのみならず、歯科医院DXを進めている企業、歯科技工のソフトウェアや業務システムを開発している企業など、一見、無関係あるいは競合しているように見える企業群が連携することが大切と私は考えています。
WHITE CROSSの「技工くん」は、全体最適の一部に特化した、オープン・プラットフォームです。「歯科技工士法施行規則 第三章第十二条」で規定されている技工指示書の記載項目や、技工指示書の発行・保存などを丁寧に確認しながら開発してきたシステムです。
同時に、自社での顧客の囲い込みは行わず、iOSメーカーやレセコンメーカーに対してオープンに連携することにより、メーカーにとっての利益に繋げながら、先述の課題をクリアーさせていきます。その先に、歯科医院・歯科技工所の利便性を高めながら、日本における面としての労働力の維持と生産性の向上を実現していくことをコンセプトとしています。
今回の「 CAD/CAMインレー修復に対する光学印象法」の可能性は、「技工くん」の事業計画を立てていた数年前の段階で予見していた未来でした。ただ、それがいつ来るかについては予測できませんでした。
世界が10年後にどうなるかのイメージは、多くの人がなんとなく掴むことができます。ただ、1年後、3年後にどうなっているかの予想が一番難しいと言われています。
「技工くん」をサービスインさせたのは、昨年8月でした。全体最適においては、システムとしての堅牢さと法律順守が求められます。そこについて確認をしながら、医療現場でしっかり使用されるレベルのサービスとして育てるにはベストかつラストチャンスのタイミングだったと思います。光学印象法の保険収載の可能性が出てくるのは、もう数年かかるか・・・とも思っていましたが、その可能性が出てきた今、これ以上遅いと間に合いませんでした。
この辺りは、先日WHITECROSS上で行った、木戸淳太先生主宰のSpotlight Online の無料セミナーでも一部話をしています。WHITE CROSSユーザーでしたら、どなた様でもご視聴いただけますので、お暇があればご覧ください。
いずれにせよ、「技工くん」を通じて作り上げたいのは、ただ1サービスを歯科医院や歯科技工所毎にご導入いただくだけの世界ではありません。囲い込むのではなく、起業して以来作り上げてきた歯科医療界で最も人が集まる環境である「WHITE CROSS」と連動させながらプラットフォームとして歯科医院・歯科技工所・連携するメーカーなど使用する方々に向けてオープン化していく。その先に、ヒト・モノ・カネ・情報などの流れのハブを作り上げてくことこそ、歯科医療の社会的価値を高めるために私が描いてきた絵のベースです。それを通じて、歯科医療が面として効率化され、良くなっていくことを願っています。
技工くんに興味をお持ちの歯科医院様・歯科技工所様へ
技工くんは、「歯科技工を包み、高める」をコンセプトとして事業展開をしています。
お問い合わせいただけましたら、大切に対応をさせていただきます。今いまの導入はまだでも、情報として知っておきたい方に対しても、喜んで対応をさせていただきます。
歯科技工に関わる業務の無駄を減らし、歯科医院・歯科技工所それぞれが本業に集中できる世界を作ることで、目の前の迫った歯科技工問題を解決する一助となれるよう、日一日全力で取り組んでおります。
ぜひ、そのような世界を共に作っていきましょう。