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【感想】カンテレ月10ドラマ『魔法のリノベ』第8話
魔法のリノベ(9/5):第8話。時系列操作は無いものの時間を強く意識させる上田誠らしさ溢れる回。『結婚できない男』や今泉力哉の『猫は逃げた』を思い出す展開も。あと美術が良いという共通点を持つ『石子と羽男』との間で東京タワーとスカイツリーという対照性も面白い。 https://t.co/xSn4cjQb67
— 林昌弘,Masahiro Hayashi (@masahiro884) September 5, 2022
第1話から毎週観ていたのにnoteに書くのは第8話が初になってしまった。
もちろん駄作だと思っているわけではないのだが(それならとっくに脱落している)いざ書こうとすると
リノベーションや都市再開発などテレビの主要な視聴者層が高齢化したのを逆手に取った題材
美術の素晴らしさ(毎話リノベする家のビフォーアフターを用意しておきながらエンドロールで後日談的にサラッと使うだけという粋なやり方)
上田誠脚本と俳優陣のアンサンブルが織りなすコミカルな会話劇
原作との相違点(実写に適するように小梅のキャラクターを少し柔らかく改変している)
別にそれ第N話に限った話じゃないよねという総括的な内容になってしまう。
ところがこの第8話は上記以外の魅力も感じたので(前述の魅力はもちろん前提としつつ)書いてみる。
上田誠脚本と時間
本作の脚本を手がけているのは上田誠。
言わずと知れた劇団ヨーロッパ企画の主宰である。
個人的にこの人は「時間」を扱った作品が印象に残っている。
ヨーロッパ企画のYou宇宙be(11/27):フジ深夜に突如現れた新感覚SFバラエティ。上田誠らしい時間ものコント(トネッテwww)から発明ものコント、果ては草しか生えないゲームまで。上田誠と松居大悟の対談企画も!松居「舞台は空間を描く芸術で映像は時間を描ける芸術」 https://t.co/GPZ89kBzu4
— 林昌弘,Masahiro Hayashi (@masahiro884) November 27, 2020
ヨーロッパ企画のYou宇宙be(1/30):新感覚SFバラエティ第3弾。上田誠脚本・山口淳太監督のタイムリープもの『エンドレスチャンネルエイト』また撮るのが大変そうな…w生配信ダイジェストも面白かった。どこでもドアを近場に置く思考実験を試みる上田さんの発想力エグいなw https://t.co/mmncV0o9fX
— 林昌弘,Masahiro Hayashi (@masahiro884) January 31, 2021
サマータイムマシン・ハズ・ゴーン(10/8):ヨーロッパ企画の時間SFオムニバスドラマ。脚本は上田誠。あの傑作『ドロステのはてで僕ら』の系譜に位置する『乙女、凛と。』がアツい!『あいつのミラクルショット』はおぎやはぎ矢作が1人2役。堅実平凡な矢作とカッコいい矢作w https://t.co/3fkcGuG5ap
— 林昌弘,Masahiro Hayashi (@masahiro884) October 9, 2021
ただし、今作は漫画原作があり、しかも題材的にSF要素を入れるのは難しいよなと思っていた矢先に「先週の第7話の裏で実は…」と時計の針を巻き戻す展開が!
序盤で時間が巻き戻った時むちゃくちゃテンション上がってしまったw
その後も定期的に日時を表示するデジタル時計が出てきてニヤリ。
演出(撮影)がいつもと違う?
本作のチーフ演出は瑠東東一郎。
代表作はやはり『おっさんずラブ』
きちんとコメディを撮れる人を監督に据えている。
第7話までも家の撮り方はもちろん外ロケでの街の撮り方も良いなと思ったことが何度もあった。
ただ、実は第8話の演出担当は本作では初登板となる片山雄一。
基本的には第7話までの路線を踏襲しつつも(そりゃ中継ぎで登板して好き勝手やれるわけがない)随所に「お?」と感じるショットがあった。
まずは序盤の玄之介(間宮祥太朗)と竜之介(吉野北人)が口論になるシーン、少し低い位置のカメラから上に鉄橋が入る画角のショット。
さらに続けて螺旋スロープ。
実に変態的な(褒めてます)建築物の撮り方で素晴らしかった。
あとは中盤の玄之介と小梅(波瑠)がバディ再結成したのを見たミコト(SUMIRE)が竜之介に電話するシーンのカメラワーク。
玄之介と小梅を引きで映すカメラが横に移動しながらピントが徐々に手前に合っていきミコトのシーンにそのまま切り替わる。
あそこ良かったなぁ。
見る・見られるのモチーフでもある。
電話のシーンでのスプリットスクリーンの使い方もベタっちゃベタだけど面白い。
ラストカットは中盤にもサブリミナル的に挟まれていた東京スカイツリー。
で、感想ツイートにも書いたけど恋愛が結ばれたシーンとスカイツリーと言えば…
『石子と羽男』とのシンクロニシティ
個人的に本作と『石子の羽男』は何かと類似点やシンクロニシティがあると勝手に感じている。
(念のため書くとパクリや盗作といった類の話ではない)
美術のクオリティ(潮法律事務所やまるふく工務店のあの雑多な感じ)
その美術を存分に活かした空間演出
登場人物のコミカルな会話劇
相談の裏に本来解決すべきもっと根深い問題が隠れているという作劇
寸劇(『石子と羽男』はアバンタイトル、『魔法のリノベ』はドラクエのシーン)
飯ネタ(『石子と羽男』は爆食の町が舞台。『魔法のリノベ』もシャリバテ対策をはじめ食事シーンが頻出。福田里香先生のフード理論も思い出す)
幽霊物件の案件(『魔法のリノベ』の第3話と『石子と羽男』の第6話)
そして『石子と羽男』の第6話のラストで石子(有村架純)と大庭(赤楚衛二)が付き合うことになったシーンを彩ったのが東京タワーなら本作は東京スカイツリー。
被らなくて良かったw
普通同じ期にこういう似たドラマがあるとつい比較して一方は良いけど一方はダメとなりがちなのだが、両作品とも面白いのが嬉しい。
※途中で挙げたフード理論 by 福田里香先生は書籍やウェブ記事で多数紹介されてます。
逃げる猫
さらに細かいというか最早こじつけなシンクロニシティが第8話中盤の「逃げてしまった猫を探す」というシークエンス。
もちろんあれはストーリー上必要なイベントなのだが、勝手ながら個人的にはイースターエッグに見えてしまったw
まずは本作と同じくカンテレ制作の平成名作ドラマ『結婚できない男』の第8話。
こちらは猫ではなくて犬が逃げ出してしまって探すというシーンがある。
さらに今年3月に公開された今泉力哉監督の映画はそのものズバリ『猫は逃げた』
タイトル通り逃げた猫を探すシーンがクライマックス。
さらにさらにヴェネツィア国際映画祭のコンペに正式出品されていて先週9/9(金)に公開されたばかりの深田晃司監督の新作映画『LOVE LIFE』
とある結構緊迫したシーンで猫が逃げ出して物語が転がっていく。
トレンドなんだろうかw
あとミコトの「普段呼んでるようなトーンで探すんです」にはこれを思い出した。
犬を飼っている人に一言。
名前を呼ぶ時は“ちゃん”を付けるのは止めてください。
“ちゃん”を付けると、犬は“ちゃん”までが自分の名前だと思い込んで“ちゃん”を付けないと振り向かない場合があります。
犬には…
夏ドラマも終盤戦に入ってきて本作も残り2話ぐらいか。
例によって個人的に恋愛要素にはあまり興味が無いので、お仕事ドラマとして都市再開発を批評的に描いてほしいなと。