2020.08.01よんなな会@オンライン(講演メモ_02)
厚生労働省参与・畑中洋亮さん
新型コロナウイルス対策本部で行った「神奈川モデル」について
<畑中さんプロフィール>
現在38歳。以前まで、神奈川県新型コロナウイルス感染症対策本部の医療危機対策統括官を務めていた。現在は厚労省の参与として、コロナ対策の情報戦略関連の仕事をしている。自身で会社の経営をしていること、ICT技術の活用に長けていることを役立てようと行政にも関わってきた。
<講演要旨>
以前に所属していた財団での経験を活かして神奈川県庁の顧問をしていた。その当時は、神奈川県下の病院(350病院)情報について電話調査していたことがあった。医療機関の現場情報はある程度理解していた。
その後、横浜港での豪華客船のコロナ感染、県内病院での医療従事者の感染確認などの情報を聞いて、医療現場の危機が迫っていると感じた。現場の実情をできるだけ早く把握して、即時対応をすることが必要と考えた。すぐさま副知事に連絡をしてコロナ対策本部に参画することとなった。
(神奈川モデルについては、日経メディカル記事も参照)
まずは、県庁として把握すべき情報を整理して収集した。
情報収集のための調査実施に当たっては、今までの現場の運用の実情に合わせて、FAXなどアナログ的な手段を中心にして進めた。
というのも、自分が得意なICT技術を駆使して現場の情報を集めることもできたとは思うが、現場のホンネは「非常時こそ、普段使っていないシステムを使いこなすのは困難。」
それは東日本大震災の時、現場のために避難物資の状況把握に役立てられればと思ってICTを活用して利便性の高いシステムを組んだものの、なじみのないシステムということもあって現場でうまく使ってもらえなかった経験があり、当時、悔しい思いをしたことがあった。
情報の利活用は、
「調査」→「集約」→「公開」&「共有」。
調査後の情報の「集約」は県庁で一括してまとめて集めた。県庁が責任もって徹底的に把握するようにした。非常時だとたいていは様々な主体がバラバラで情報を集めて、集約しきれなくなってしまい、集めた情報を生かしきれないことが多い。今回はこれを避けるべく、徹底するようにした。
情報の「公開」と「共有」については、必要な情報が見やすいように東京都のオープンソースをまるまる活用させてもらった。県民や国民が関心を持つ、感染者の状況、医療機関の状況をまとめて公開した。
(現在の神奈川県の新型コロナウイルス感染症の最新動向サイト)
そして、事業所側の感染症対策については、結果、今時点で県内30%近くの事業所に登録していただけた。これは県庁の中でも特に力を入れて動いたもので、全庁を挙げて職員が延べ3000人態勢で営業活動に回って協力を求めた。
<質問タイム>
Q.市区町村との連携はどのように進めてきたか。
A.まず危機感を共有することが必要だと考えて、首長同士のレベルで理解してもらうように伝えた。加えて現場レベルでも理解してもらえるように、各自治体のリエゾンを出してもらうように求めた。コロナ対策本部での動きはすべてリエゾンの方に随時共有される体制をとったのがよかったと思う。
<講評>
神奈川県では、感染症対策取組書に登録してくれた事業所さんを4万件集めた。県内企業とのチャンネルを4万件確保したことは大きい。
様々な第三者(議員や市民など)を通じて入ってくる情報が、どこまでの粒度なのか、現場へ足を運ばずチャンネルが少ない状態だとその温度感を掴み切れない。県庁が現場のリアルを直接把握するために動き、情報を集められるようになったのが良かったと思う。
<感想>
危機管理状況下での対応は、スピード感や組織や立場の壁を超えるといった臨機応変さを発揮する必要があるとわかりつつも、現場でそれを機能させることはなかなか難しいと思います。
しかしそのような中で、神奈川県庁が新型コロナウイルス対策で発揮した「神奈川モデル」は、(私自身は、実際の現場のオペレーションが細かに分かっていない面も多々ありますが)、県庁-基礎自治体、県庁-県内事業所、県庁-各医療機関、本庁-各保健所、などの関係先との綿密な連携とる際に生じる課題を克服しようとする取り組みなのだなあと思います。
県庁の職員さんが、ひたすら県内事業者さんへの呼びかけを足で稼いでいくこと、責任をもって情報を集約して整理して共有するまで引き受けてくれることはなかなかできません。
おそらく多くのケースではこうした状況になると規模や対象数が膨大になってしまうので、都道府県庁にできることといえば、基礎自治体との関係性にに”配慮して”、作業を基礎自治体に依頼する(投げる)か、自らが手間をかけすぎない範囲で足を使わなくて済む方法に終始しがちだと思います。にもかかわらず積極的に音頭を取ろうと動けたことの意義は大きいと感じます。
そのような勝手なイメージを取り払うだけの対応に至ったのは、30代の若さとバイタリティがありながら、民間経験者の立場で県庁の中枢に入って、陣頭指揮をとられていた行動力と対策本部のチーム編成が良かったからこそなのだろうなあと講演を聞きながら感心していました。
以上です。
読んでいただいてありがとうございました。
2020.08.02 一部加筆修正しました
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