神谷バー
大好きでよく行く神谷バーについて書く。日本最初のバーである神谷バーは伝説の人、神谷傅兵衛氏によって明治13年に創業された。この方、単に酒場のオーナーではおさまらず、実業家として明治36年に茨城県牛久にブドウの栽培からワインの醸造、貯蔵、瓶詰出荷まで一貫した日本初の本格的ワイナリー「シャトーカミヤ」を創業している。その後三河鉄道の創立に参加し社長になるというサクセスストーリーをお持ちの方だ。
神谷バーの現在の建物は大正10年に竣工した鉄筋コンクリート造6階地下1階の建物で、平成23年に国の登録有形文化財に登録されている。文化庁のデータベースには「正面には矩形の大きな窓と円形の高窓を穿ち、隅には付柱を飾る。3・4階を通す、三連の半円アーチ窓が外観を特徴付ける」とある。おいらは昔、取材でバックヤードを見せて頂いたのでこの建造物の細かな造りや全体像が掴めているのだ。
ともかくこの建物は大正12年の関東大震災を耐え、昭和20年の東京大空襲でもしっかりと残った歴史ある建物だ。現在は正面左側に昭和55年に新館(1階売店とその裏のスペース及びその上の2階)が増築された。神谷バーの住所は浅草1丁目1番地1号で吾妻橋交差点角に立つその勇姿は、戦前からずっと浅草のシンボルであり続けている。現在は伝兵衛さんから5代目にあたる神谷直彌社長。36歳の時に先代から経営を受け継ぎ、以来21年間神谷バーを守っている。
それでは飲ん兵衛の聖地たる1階の神谷バーに入ろう。入ったら正面にサンプルケース、右に食券売り場があるのでサンプルケース内の料理や飲み物を見ながら注文する。すべて食券式の注文スタイルだが、食券売り場で買うのは最初だけでよい。
あとは席で係員を呼び止めて注文すれば、暗算で合計金額を係員が言うので、その場で払らう。係員が券を買って来てテーブルにおいていく。そして食券と引き換えに料理や飲み物が出される。だが、初めに食券を買わずに席に座って注文するのは禁止。係員も相手にしてくれないよ。初めて神谷バーに行く諸君もそれを覚えていれば一人前である。
本館側は禁煙60席で売店裏に当たる新館側は喫煙86席ある。混んでくると相席は当たり前なので詰めて座るのが基本だが、遅れてくる仲間のために少々席を確保しても許される。
神谷バーは人がたくさんいるざわざわした臨場感が醍醐味。となりのテーブルの人と仲良くなり一緒に呑むなんてのは日常茶飯事。女子だけのグループなどはまわりの常連のおじさまからお酒が振る舞われることもある。こうした常連のおじさまたちはほぼ毎日来ているらしい。
混んでいる時は数人ならすぐ相席できるがそれ以上の場合、まず別々の場所で呑み始め、まわりの空きそうな席に声をかけておくと良い。テーブルに相思相愛とあって、デンキブランのチェイサーに生ビール大ジョッキを勧
めているが、これは確実に店の売らんがなの陰謀(笑)である。
2階は洋食のレストランカミヤである。昭和35年からスタートしたこの洋食部門はいかにも浅草らしいビジュアルと味を保っている。レストランカミヤに限らず浅草の洋食店のレベルは高く個人的には日本一だと思っている。
レベルの高い専門店に負けない味。それは専門なコックがきちんと洋食を作っている実績である。本当にここは何食べても旨い。
レストランカミヤで飲めるアルコール類は1階の神谷バーと変わらないから食事がメインの場合はテーブルスペースがやや広めのレストランカミヤが良い。テーブルを長く並べた本館側56席、4人がけテーブルがメインの新館側70席あって共に禁煙だ。レストランカミヤには宴会用のお得なパーティーメニューもあり、落ち着いた雰囲気の本館側テーブルで40名ぐらいまでのパーティーもできる。会計方式は一階の神谷バーと違い最後に清算となる。
エレベーターまたは階段で3階に行くと神谷バー本館の特徴的な3連の半円アーチ窓の下に出る。この3階が割烹神谷である。割烹神谷は昭和45年からスタートした和食部門で、こちらも腕の良い板さんが割烹にふさわしい
料理を提供している。
暖簾をくぐると落ち着いた禁煙16席、他に禁煙の個室26席、さらには中階段を上がる中3階に喫煙30席と家族連れや会席に向くテーブル配置がなされている。コースの懐石料理や定食である御膳、会席弁当なども良いのであるが飲ん兵衛的には単品メニューが豊富ということが魅力だ。1階や2階では味わえない刺身盛りやくじらベーコン、天婦羅盛り合わせなど和のおつまみで呑むのも良いものだ。(注:令和4年10月現在割烹神谷は休止中)
昭和55年に落成した新館の顔が、神谷バー賣店である。売店ではなく賣店なのである。デンキブランや神谷ワイン、1丁目1番1号(焼酎)、鶯宿梅(オウシュクバイ=梅酒)、ハチブドー酒などの各ボトルを販売している。
こちらは午前10時から営業している。おすすめはデンキブランのグラス(2個入り800円)とデンキブランストラップ(500円)である。他にオリジナルの絵葉書、風呂敷、ワインケーキ等がある。