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見せてあげたいもの --- 「 ダウン症があるとかないとかどうでもいい、誇りがあればいい。」

僕はかつて研究畑にいた。博士号を持っているのだから、まあ当然である。そして自分は研究者に向いていないと考えて、技術畑の仕事についた。それでも、研究会やらシンポジウムやらに出席したり喋ったりする機会がまるっきりないということもない職場だったので、たまにそういった場に参加することがあった。

面白い研究発表を聴いていると、メモがはかどる。聴いた内容を理解しメモをとり、そこから発想を膨らませてアイデアを記録する。実に楽しい。
そういうときに、いつも思うことがあった。
こういう面白い場所を、奥さんや子供にも見せてあげたい。
一緒に楽しさを共有したい。

無論、僕の専門分野に奥さんが興味を持つとは思えないし、(当時は)そのうち生まれるであろう子供にいたっては情報系に興味を持つかもわからないし、そもそ学問というものに興味を持つかどうかもわからない。これは僕の身勝手でしかない。

そして現実にダウン症の子供が生まれ、まあ少なくとも技術的・学術的な場に息子を連れて行くことはないのだろうなと思うようになった。


先日、僕が勤務している会社が移転した。新しいオフィスは六本木近くにある高層ビルの35階で、窓からすぐ目の前に東京タワーが見える。
その光景を眺めつつコーヒーを飲みながら、ああ、この景色を見せてあげたいなあと思った。ついでにオフィスを見せてやってもいい。こんなところで仕事をしているよ、でも触らないでね。その機械、壊れると困るから。いや本当に困るから。売ってないから。とかそんな感じ。

当初の想像とは少し違うけれど、見せてあげたくなるものはたくさんあって、僕はたいして立派な人間ではないけれど、それでもそういうものをたくさん持っている。まだまだ見せてあげれるものはある。

それを見てどう思うか。何も思わないか。そこから先は本人が決めることであり、これはどういう子供であっても変わらない。当初の想像と何ら変わることはない。

彼のスケールにあったもの、僕が面白くて見せてあげたいと思うもの、現実に見せてあげられるもの。このあたりの積集合をうまいことみつけて見せてあげることはできるんじゃないだろうか。こんな出不精な僕でも、僕なりの範囲で。

そんなことを考えつつ、コーヒーを飲み終えて自席に戻り、この記事を書いている。

(2018年8月23日記)

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