【記事0002】山内ヤクウールテーラードジャケット(2023aw)【生地0001】
記念すべき1生地目は、お気に入りの「山内ヤクウールテーラードジャケット(2023aw)」。
ヤクとはウシの親戚で、野生のものは中国西部の「崑崙(コンロン)山脈」に生息している。
生息地域は標高4,000m〜6,000mというものすごい高さ。
富士山の標高が3,776m。
それよりもっと高いところに生きている。
ここで富士山の山頂を想像してみてほしい。
高くそびえる山。その頭に被さる雪の冠。
この時点でかなり寒いだろうなって想像がつくけど、それをさらに超える寒さがヤクの生きる場所。
少しデータが古いが、1991年9月〜1994年8月までの3年間における「崑崙(コンロン)山脈」の最低気温は、標高2,800m地点で-26.7℃だったそう。
標高が100m高くなるごとに約0.6℃下がるといわれているので、標高4,000m〜6,000mとなると、
標高4,000mで、
( 4000 - 2,800 ) ÷ 100 × 約-0.6
= 約-7.2℃ - 26.7℃
= 約-33.9℃
標高6,000mで、
( 6000 - 2,800 ) ÷ 100 × 約-0.6
= 約-19.2℃ - 26.7℃
= 約-45.9℃
単純計算が過ぎるけど、要はめちゃくちゃ寒い。
余談だが、僕が住んでいる埼玉県に、「鳩山町(はとやままち)」という場所がある。
気象庁のホームページで2024年の最低気温を調べたところ、1月12日に-7.6℃となっており、埼玉県内では一番寒かったという。
つまり、ヤクたちが住むところは、冬場の鳩山町(はとやままち)約6個分ということ。
恐ろしい。
話が脱線したので戻そう。
ヤクはこれだけ過酷な世界を生きている。
そして、そんな環境を生き抜くために、次の特徴を持つ体毛を備えている。
●保温性と通気性に優れている。
●繊維が細く、チクチクしにくい。
●摩擦に強く、毛玉ができにくい。
●自然なブラウン色で、染色せずに使うことができる。
特に、保温性と通気性は、カシミヤを凌ぐといわれている。
そんなヤクの毛は、「空にもっとも近い繊維」と称されている。
ヤクの毛の採取方法は、
●毛の生え変わりの時期に櫛ですいて採取する。
●自然に抜けた毛を採取する。
の2種類のみ。
羊毛の採取でイメージすると、バリカンでジョリジョリやってるところが想像つくが、ヤクの場合だとバリカンはNG。動物愛護の観点から、バリカンはヤクを傷つけてしまうから禁止されているのだ。
しかも、採取は1年のうち、5月から8月までの間に1回のみ。そして、大きなヤクの身体から衣類として使用できるのは、一頭からわずか300g〜500gほどしか取れない。大変希少な繊維である。
ただ、その毛を衣類として使うためには、糸にする必要がある。
毛を糸にしたものは、「梳毛糸(そもうし)」と「紡毛糸(ぼうもうし)」の2種類。
「梳毛糸(そもうし)」とは、ウールなどの動物繊維を並行に引き揃え、短い毛や不純物を除去してから撚った糸。
反対に、繊維を引き揃えずに太さもまばらなまま糸にしたものを「紡毛糸(ぼうもうし)」と呼ぶ。
語弊を恐れず簡単にいうと、
「梳毛糸(そもうし)」は手が込んでいて、上品で真っ直ぐな糸→スーツなどに使われる。
「紡毛糸(ぼうもうし)」は手は込んでいないが、野性味があってふっくらした糸→セーターなどに使われる。
という認識。
一般的に見るヤクウールの衣類は「紡毛糸(ぼうもうし)」で、セーターとして見ることが多いかも。
今回紹介する「山内ヤクウールテーラードジャケット(2023aw)」は、前述のヤクウールとウールの名産地である「愛知県一宮市」にある「尾州(びしゅう)産フラノツイル」を50%ずつで「梳毛糸(そもうし)」にし、その「梳毛糸(そもうし)」2本を撚って1本にした「撚糸(ねんし)」を使用している。
さらに、その生地に「縮絨(しゅくじゅう)」と「起毛(きもう)」加工を加えている。
「縮絨(しゅくじゅう)」とは、圧力や摩擦を加えて繊維を収縮させ、生地の厚みや強度を増やす加工のことで、次のような特徴がある。
●生地がしっかりとする。
●寝ている毛が立ち、肌触りが良くなる。
●生地が肉厚になり、強度が増す。
●生地が緻密になり、表面がなめらかになる。
●生地がゆがんだりシワになりにくくなる。
というもの。
「起毛(きもう)」は読んで字の如し。
これらの加工を従来の2倍行うことで、格段に上質な手触りを実現している
これだけの情報を読んでくれた読者がいたとしたら書き手冥利に尽きるというものだが、これだけは言わせてほしい。
山内はサイコー!!!
本題に戻ろう。
近くで見るとこんな感じ。
そして、スマホ用のマイクロスコープで見るとこんな感じ。
縮絨と起毛加工による糸の開きがわかる。
更にアップ。
元々の生地の目の詰まりは写真の左上側が分かりやすい。
ぎっちりと織られたものが、写真の下側の見ると分かるように「ほぐれている」。
これがもう、手触りが気持ち良いのなんの。
気が付けばスリスリしてる。
ちなみにブラウンに見える毛が無染色のヤクウール。
透明に見えるのが尾州(びしゅう)産フラノツイル。
目に見えない世界が、目に見える世界をこれだけ形作る。物事の本質を感じてしまう。
つづいて、山内といえば考え尽くされた服の設計図、「服のパターン」。
これだけ凄い生地で仕立てられたテーラードジャケット。
でも、着心地はカーディガンのように気負わず羽織れるよう設計されている。
シンプルな「ノッチドラペル」。
ボタンは高級な水牛ボタン。
切り替えを利用したポケット。
後ろは縦の切れ込みと縫い目のないノーベント。
袖口はボタンホールのない筒袖(つつそで)。
袖は縫い合わせが二箇所ある二枚袖。これが立体的な腕をラインを作る。
山内といえば表から見える縫い目、「ステッチ」の美しさが特徴なのだけれど、このジャケットはそれが全て内側にくるよう処理されている。
でも、目を凝らせば見えてくる山内の美しさ満点のステッチワーク。
襟の裏にあるジグザグステッチ。
ジグザグステッチの下にあるステッチは「月腰(つきこし)」の代わりなのかな?
月腰って襟の下にある生地の縫い合わせのことで、襟の返りを良くしたりするのだけども、このステッチのおかげで襟の返りがとっても立体的。
ポケットのかんぬき。
立体的なボタン付け。
ああ、美しい。
そして、着用者に最も近づく「裏側の作り」も美しい。
裏地は全面にある総裏地。ウールとキュプラが組み合わされたもの。
胸の内ポケットも表と同じく切り替えを利用したもの。
品質タグ。
縫製者タグ。縫製者は、「岡本 尚子」さん。
動きの中で魅せる「ドレープ(布のひだやたるみ)」。ちなみにシャツは同素材で展開された山内のシャツ。
肩パッドはないけど着ると肩が少し高くなる設計。
リラックスしつつも背筋が伸びる着心地。
料理で言えば、高級な食材を一流のシェフが調理したようなもの。
素晴らしくならないはずもない。
山内の服は身も心も満たしてくれる。
大っぴらにするわけではなく、所有者に寄り添うものづくり。
日本人って素晴らしいな。
山内の誠実さって美しいな。
もう一度言う。
山内はサイコー!!!
今回のテーラードジャケットは、Instagramの投稿No.0001。
https://www.instagram.com/p/DEvhyMMzUU4/?igsh=MXFtdXF0M3c0YW52dA==
https://www.instagram.com/reel/DEvh1D1TI2k/?igsh=cXU4NjcwZGR4cDBz
ぜひ見てください。