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【記事0003】山内CATHEDRAL別注デッドストックシルク・シャツジャケット(2020aw)【生地0002】
2生地目は、「山内 CATHEDRAL別注デッドストックシルク・シャツジャケット。
このシャツジャケットは、山内がコレクションラインで発表したデッドストックシルクとは異なる生地が使われている。
コレクションラインのものは、表地のシルクにところどころフシのある、上品さがありつつも男らしさをまとった山内らしい生地であった。
今回、紹介するCATHEDRAL別注デッドストックシルクは、そのフシが全くなく、より一層の光沢感と上品さをまとった生地である。
しかも、シルク100%の生地。
シルクってどちらかというと繊細な印象で、カットソーやシャツに使われるイメージだった。
でも、こちらはシャツジャケット。
バサッと羽織って、ガシッと決まる。
本題に入る前に、シルクについて調べてみた。
シルクとは、蚕が作り出した繭を原料とする天然繊維で、次のような特徴がある。
●約20種類のアミノ酸が結合してできており、肌に近い繊維といわれている。
●天然繊維のなかで随一の細さで、「繊度(繊維や糸の太さ)」が、0.9〜2.8デニール。
●繊維の引っ張り強さは強く耐久性があり、繊維が伸びたものが戻りやすく、衣類や生地が洗濯や着用によって変化しづらい。
●自然にできる布のたるみが、波打つように美しいひだを描き、ドレープ性に優れている。
●水分を適度に吸収するが放湿速度も比較的早いため、布地がべたつきにくく、肌触りがなめらか。
●生地が薄い割には、保温性が高く、羊毛に次ぐ「湿潤熱(しつじゅんねつ)」が発生する。
▲日光の紫外線に弱いため、黄色に変色したり他の繊維に比べると脆くなりやすい傾向がある。
▲カビにくいが、防虫性に劣り、虫に食われやすいのでタンスなどでの保管管理には注意が必要。
他にもあるが、大体こんなところ。
調べてみて意外だったのが、洗濯や着用によって変化しづらい丈夫さを持っていること。
シルクというと繊細で扱いの難しいイメージがあったのだが、日光や保管管理を除けばそういうことでもないようだ。
個人的には着用によって生まれたシワや色の変化は、経年変化のひとつとしてポジティブに捉えているのであまり問題はない。
そういう考えもあって、毎年、特に気にせずこのシャツジャケットを着回しているが、今のところ日光による変色や脆さは現れていない。
むしろ、「シルクってこんなに扱いやすいのか。」と思っている。山内で使われているシルクは一般的なものとは一線を画すということなのか。
また、ハンガー管理なのだが防虫については特に気にしていないし、問題もない。
ハンガーにかかっているヘリンボーンの彼を見ると、つい手に取ってしまう。ヘビーユーズな僕の相棒。
今回のシャツジャケットは、表地がシルク、裏地がコットンとポリエステルなので、前述の特徴のうち、特に発揮される点は、「波打つようなひだが作る美しいドレープ」と、「肌触りの良さ」だろう。
実際に着用していて、この2点の満足感は山内のアイテムの中でも群を抜く。
ちなみに、特徴の点で触れた、「シルクは0.9~2.8デニール」という部分。デニールという単位はタイツなどで目にするが、僕が男性ということもあってかあまりピンとこない。
1デニールとは、「1本の糸が9,000mで1gの重量の太さを指す。」とのこと。
繊維や服飾を専攻していない、携わってきていない人間からするとイメージがわかず、「うーん、難しい…。」と唸ってしまうが、髪の毛が50~60デニール、シルクが0.9〜2.8デニールなので、ざっくりとした計算だがシルクは髪の毛の21〜66分の1ほどの細さということになる。
なるほど、めちゃくちゃ細いのだな。
繊維の世界とは奥が深い。
こう奥の深い世界を見てしまうと、知識欲がレンジで加熱しすぎたミルクのようにボコボコと沸き立ってくる。
のだが、ここから先は蚕の種類や「家蚕(かさん)」と「野蚕(やさん)」の違い、繭からシルクを紡ぎ出す工程の話へと派生してしまい、本題から明後日の方向に進んでしまうので追々、記事にしたいと思う。
ということで、本題の洋服紹介に入る。
まずは、正面から。
大きくとった襟が特徴的。
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つづいて、少し斜めから。
良〜い面構えである。
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そして、後ろ姿。
肩甲骨あたりを横に走るヨークの真ん中に特徴的なプリーツがある。
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中心から“ハの字”に広がるプリーツ。
それを追従するように左右に一本ずつ、「生地が“ハの字”に流れ落ちている」。
お次は生地に近づく。
ジッと見ると目がチラつく。
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もっと近づく。スマホマイクロスコープの出番。
ギチッとガチッと詰まっている。
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さらに近づく。
糸一本いっぽんの細さが凄まじい。
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この目に見えない世界に命を懸けている人たちがいるのだから、尊い。
細部にフォーカスしていく。
ボタンは水牛ボタン。
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胸の箱ポケットをチラリ。
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左右ポケットの左側をチラリ。
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背中のプリーツをちょいとひとつまみ。
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うーん、素敵。
ちょっと分かりづらいけど、袖は二枚の生地を使った「二枚袖(にまいそで)」。
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「カフス(袖のボタンを止めるところ)」に入る2本のタックのようなひだ。
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うーん、エレガンス。
シャツジャケットというくらいなので、洋服の設計図であるパターンはシャツも踏襲している。
襟の裏。ジグザグステッチを追いかけるのが楽しい。
ちょっと見づらいけど、ジグザグステッチの谷の部分に襟を支える「月腰(つきこし)」がある。
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ここはジャケットの仕立て。
こうやって目を凝らすと色んな要素が掛け合わさっていて面白い。
ボタンは手付け。高さがモリモリ。
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「カフス(袖のボタンで留めるところ)」のボタンも抜かりなく。
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山内といえば裏の丁寧さ。
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なんだかどっちが表か分からないくらい綺麗。
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品質タグ。
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の裏。
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縫製者は、「佐野加代子」さん。
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佐野さん見てますか。とても素敵な服をありがとうございます。
そして、着画。正面から。
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袖の作りがドレスシャツのよう。
「二枚袖(にまいそで)」と「カフス(袖のボタンを留めるところ)」に入った二本のタックのようなひだが、立体的な袖まわりを打ち出す。
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斜めから。良〜い面構えだぁ。
お袖の波打つようなドレープがお美しい。
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背面。“ハの字”に入ったプリーツから生まれるドレープ。
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プリーツがある分、上半身の可動域に対して余裕が生まれる。
山内の服は見れば見るほど、触れば触るほど発見を与えてくれる。
多くは語らない。でも、人に寄り添い、人生を豊かにする。
繊維は、服は、縫製は、人生を豊かにしてくれる。
今回のシャツジャケットは、Instagramの投稿No.0002。
ぜひ見てください。