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一年前の自分に冷笑されるような生活を送って

 共通テスト出願の時期に正式に報告をしようと考えていたが、私の先延ばしがちな性分のために2か月以上も遅れてしまった。まずは、受験が終わった2月26日当日から夏に至るまで、安易に「3浪」という言葉を持ち出しては恰も受験を継続するかのような態度をツイッター上で取り続け、仮面浪人をしないと決めてからも、何ひとつ撤退に関して言及することなくここまで来てしまったという不誠実を詫びたい。以下で、拙筆ながら、最後の「受験擦り」をさせてほしい。冗長になるといけないので、無駄な感傷は省いて、事実を無機質に陳列するような文章になるかもしれない。

 悲劇的な結果に終わってしまった。なんと言っても敗因は二浪時代に一番注力した数学だった。その点数は200点満点中の10点、まさしく「橋にも棒にも」という有様だった。不合格だった時点で、計算ミスのあった設問に部分点が与えられていないことは察知していたが、まさかここまで低い点数だとはおもわなかった故、開示を見た際、アルミホイルを噛んだときのような鈍い電撃が脳裏を打った。
 それでも、まだこの時点では京大を、京都の街でおくる最後の青春を諦めきれていなかった。家族の前で「三浪」という言葉を出すと厭な顔をされてしまうので、これは密かな野望として。
 この頃の自分にとって、京大はすべてだった。今までの死にたがりがちな人生も、底をつきかけた脆弱な自己肯定感も、京大に所属することによって瞬く間に好調となって、ようやく確かな成功体験のもとに人並みの人生を送れると思い込んでいた。だから、京大に入れていない自分とは、これすなわち行くさき延々不幸の続く人生であって、断じて許すことができなかったのだ。なんだかんだこのような状況が、最低でも大学前期の授業が終わる七月いっぱいくらいまでは続いたはずだと記憶している。

 では、なぜ共通テストに出願することなく、実質的に「京大志望仮面浪人」として再起を図る道を投げうってしまったのか。
 過去の京大で大学生活を送るためにであれば、所属大学でのすべてを放棄したって構わないとする自分からは、喝を入れられるまでもなく、呆れて冷笑されてしまうであろう、「他に楽しいことが見つかった」という理由だった。
 きっかけは入学式のサークル勧誘の波だった。FF諸君の勧めもあり、私は入学式のあと、いろいろのサークルの勧誘活動へと飛び込んで行った。しかし、時間や金銭の都合上、仮面を考えている自分にとっては所属することが難しそうなサークルばかりで、気づけば閉門の時間も近づき、とぼとぼと人の波の中を進んでいた。そんな状態であったから引き込みやすいと思ったのであろう、半ば強引にとあるサークルのブースへと連れ込まれ、活動時間だとか内容だとかの説明を受ける運びとなった。あまり迷惑を掛けたくないので活動内容に就ては言及しないこととするが、自分が未経験の内容であって、かつ、週6日の活動のうち好きな時間に参加すればよいというシステムだったので、とんとん拍子に体験へと参加、そのまま入会することとなった。
 それでもって薄々仮面浪人をして来年にはこのサークルも離れることとなるのだろうと思いながら、二浪であることを秘匿して、週2日ほどサークル活動に参加する生活が夏まで続いた。
 慣れとは怖いものだ。はじめは未経験の分野だったこともあって、手順を覚えるのに必死であまり気の進まない活動であったが、慣れていくうちに、今度は技術的なレベルの向上に興味が湧いてきてしまったのだ。それでもって受験の天王山にあたる8月に約1週間も合宿に参加して、もうこの時点で京大のことは忘れてしまっていたのだ。つまりは、京大からそのサークルの活動へと、生活の拠り所が転換したのである。

 今日の心配事は、あくまでも依存先が転換しただけであって、依存先が増えたわけではないというところである。二浪の自分を受け容れてくれて、楽しく、奥深いその活動に勤しむ日々を送っているわけである。しかし、私の不躾な性格が祟って、同期や先輩に失礼なことを言ってばかり、自己肯定感の低いのが祟って二浪であることをフルに自虐してあっけらかんとできず、自虐をする割に根暗になりがちで扱いづらいキャラクターになりがちであったりと、いつ人間関係で不和が生じてここに居られなくなってしまうか、余談を許さない状況が続いている。もうこの大学は一年で辞める場所でもないわけで、いくら自己本位の私であっても、イナゴのごとく場を荒らし尽くして消えるのは気が引ける。
 孤独な受験勉強の時代を終えて、良くも悪くも人間が密に接し合う社会での生活を、ようやく私は2年遅れでスタートさせた。人間関係というものが、一度の試験で「合格/不合格」と判定される受験とは異なって、連続的なものである以上、何事も運のせいにしてはいられない。二浪で受験に失敗した私は天才なわけでもないのだから、はやく私も真人間にならなくては。

 

 


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