富山が考えているチーム作りを起用法から考察する

ベテランと若手が多く、中堅層が薄い今シーズンの富山。

「あと2~3年後に引退する可能性のあるベテラン選手より、先々を考えて伸びしろのある若手にプレータイムを与えたほうがいい。」

そういう意見も多いだろうが、実際のところはそうなっていない。

今の富山は2年前のように若手を多用することはしておらず、ベテランを多く出場させている。

◆選手のプレータイム平均一覧(多い順)
スミス 28:35
BJ  28:27
CD  23:27
ケビン 21:49
KJ  21:37
水戸  18:26
小野  16:58
野崎  15:40
浦野    9:57

サンバ   9:39
飴谷    7:24
上田    6:18


◆【参考】過去の若手のプレータイム平均
・2019-20シーズン(ベックHC)
松山   1:13

・2020-21シーズン
前田 25:31
岡田 22:18
松脇 19:26

・2021-22シーズン
上澤 12:27
飴谷   6:05

今回の記事では、
1、若手を出し惜しむ理由
2、富山が考えているチーム作り
3、ミスをしたときの若手とベテランの処遇

この3点について岩沢の考察を語っていく。

富山の起用法に対するブースターのモヤモヤが少しでも晴れれば幸いである。

なお、1と2についてはわりと個人的に確信を持っているが3についてはまだ仮説であるため、この点もご了承頂きたい。


1、若手を出し惜しむ理由


冒頭でも記載した通り、
『あと2~3年後に引退する可能性のあるベテラン選手より、伸びしろのある若手を育てるためにプレータイムを与えたほうがいい。』
という方針は真っ当だ。

ある程度目の前の勝ち星を犠牲にしてでも若手の成長のための試合をしていった方が先々のことを考えると良いだろう。

しかし、富山は少々変わった境遇にいる。

では仮に野崎で考えてみよう。
彼に存分にプレータイムを与え、
北海道戦GAME2で見せたパフォーマンスをコンスタントにできるレベルにまで成長し、
シーズン後半には立派にグラウジーズを牽引し、
2022-23の新人賞も獲得したとする。

その場合、野崎は来年の夏に移籍する可能性が高い。
(多分また神奈川県のチームあたりに持っていかれるんじゃないか)

これは現状のリーグの構造上、なるべくしてなることだ。

このリーグにはNBAのようにサラリーキャップ(チームが使っていい選手契約年俸の総額の上限)はない。
移籍金制度もないため、育成した選手にオフシーズンに移籍されると文字通り富山には何も財産が残らない。

おそらく富山が若手を出し惜しんでいるのはここだろう。

これまで富山は幾度となくダイヤの原石の若手選手を開花させ、プレータイムさえ与えれば輝く中堅選手をリペアしてきた。
そしてその選手達はことごとく他のチームへと移籍していく。

このため彼らの置かれている状況においては
「ベテランよりも若手を使い、若手に成長に期待する」
という真っ当な方針へ舵を切ることが中々できない。


2、富山が考えているチーム作り


・若手と戦術の育て方

すると富山は今後、ダイヤの原石である若手達を成長しすぎないように抑制しなければならないのか?

実はそうでもない。大事なのは順番である。

ここからが大事な話だ。
詳しく説明していこう。

若手達が成長すること自体がマズイのではなく、
若手達を優先して育て上げ、優秀な個に育った若手ありきのチームになることがマズイのである。

それを富山は2年前のオフシーズンに思い知っている。

岡田、前田、松脇、橋本。
彼らに存分にプレータイムを与え、成長した彼らの個人技を存分に活かす戦術を組んだ。

しかし、"優秀な個"というのはオフに他チームから引っ張りだこになり、ロスターも戦術も白紙に戻ってしまう。

(ここで言う"優秀な個"というのは単独で引き抜いても多くのチームで活躍しやすい選手のこと。能力が軒並み高いユーティリティープレイヤー、単独でズレを作れるクリエイターなどのことを言っている。)

逆にわかりやすい長短を併せ持ち、活かすのにコツがいる選手は比較的引き抜かれにくくなる。(言葉に語弊はあるが)

ではその選手達でベースの戦術を作り、その上に+αのスパイスとして成長した若手達の個性を上乗せする形ならどうか?

これなら仮に"優秀な個"へ成長した若手がオフシーズンに引き抜かれたとしても戦術が白紙に戻ることはない。
根幹のチームカラーを継続できるのである。
(ロシターがいなくなった翌年に優勝した宇都宮は少しこれに近いのかもしれない)

簡単に言うと、
『富山は強いが、あそこの選手達は富山だから輝いている。単独でうちに引き抜いても上手くいくかわからない。』
ビッグクラブ達にそう思わせる必要があるのだ。

そのために、
「単独打開系の選手に頼る戦術はやめよう。」
と富山は考えているのではないだろうか?

こう考えると、
昨季成績が振るわなかった浜口HC体制を継続し、
宇都・ラモス・マブンガとクリエイターを続々放出し、
わかりやすい欠点を抱えた活かすのにコツが要る選手を残し、
アンセルフィッシュなデンプスを獲得したことにも合点がいく。


・では具体的にその戦術をどう作っていくのか?

ここで重要になるのが実はジョシュア・スミスという選手だ。

彼はここまで大車輪の活躍をしているが、ビッグクラブが彼の獲得に動く可能性は比較的低いと思われる。

なぜなら彼の個性は現代バスケのトレンドに反するものであり、さらに厄介な欠点も併せ持っているからだ。

本来ドライブやP&Rのために使いたいスペースも、彼のポストプレーのためのスペースとした方が得点効率が良い。
そしてDF面でのクイックネスの弱点はチーム全体で補う必要がある。

このためスミスを獲得するからにはある程度スミス中心の編成にする必要がある。

彼は現代バスケに則ったスタイルのチームが簡単にプラスαとして獲得できる人材ではないのだ。

今の時代、スミスという旧式センターを絡めたハイ&ローなどというオフェンスはどこのチームもやりたがらないし、簡単に真似することもできない。

だからこそ、富山にとっては都合が良い。
故に今グラウジーズが取り組んでいるスミスを軸にしたバスケットは強くなったとしても戦力が維持できる形と言える。


・しかし塩梅が難しい富山の状況

しかし、富山が置かれている状況は複雑だ。
今は前述の事情で2年前のように若手に時間を与える事ができない。

しかし、昨シーズンに大きく負け越すことによる"負け癖"のダメージを思い知っているため「まずはベテラン×スミスの土台からだ」と内容重視に割り切る事もできない。

目先の勝ち星も大事にしなければならないのである。

(おそらく北海道戦GAME2の試合はこのために絶好調の野崎で勝負するという苦渋の決断だったのではないだろうか?仮に勝っていたとしても首脳陣の理想の勝ち方ではなかったと思う。)

昨季に比べて今季の富山のスタメンや1Qの戦術の変更が早いのはこのためではないかと思う。

・資金が無くても継続可能な強いチームを作る
・しかし負け癖は避けなければならない
・若手を出したい展開であっても若手の才能に頼りきりな勝ち方はなるべく避けたい

こういう厳しい注文の中にグラウジーズの首脳陣はいるのではないか?

余談だが浜口HCは京都時代、晴山ケビンが千葉ジェッツからオファーを受けて悩んでいる時に「僕なら挑戦するよ!」と背中を押したそうだ。
選手ファーストな浜口HCにとって今は特に悩ましい状況なのかもしれない。


3、ミスをしたときの若手とベテランの処遇


最後にミスをしたときの若手とベテランの処遇について。

浜口HCは記者会見で度々このように話している。

「私は若手のミスは気にしないし、するものだと理解している。だから存分にトライしてもらえればと思う。しかし、ベテランのような本来ミスを計算していない選手にTOが出てしまうと非常に困る。」

しかし実際に試合を見るとミスをしてすぐに交代させられるのは若手であり、逆にベテラン選手ほどミスをしてもコートに残り続けているように見える。

ここには私も開幕節まで矛盾を感じていたが、もしかするとこの交代は罰という意味では無いのかもしれない。

それは若手にミスの内容をしっかりと振り返る時間を与える意図なのかもしれない。

またはプロの舞台の経験が浅いうちは「自分のプレーで星を落とした」というネガティブなイメージを残させぬように守っているのかもしれない。

「若手はミスしたらベテランにフォローしてもらえばいいが、ミスを計算していないベテランは自分で責任を持って取り返して来い」ということなのかもしれない。
(茨城戦GAME1で出だしにTOを使い、KJと小野を変えなかった時はこの意図を感じた)

他にも「ミスしても台所事情の厳しいチームだから出続けられる」という解釈を与えぬよう、ワンプレーに対して緊張感が生まれる環境を若手に用意する意図であるのかもしれない。
(実際この甲斐あってか、北海道戦のGAME2でスタメン出場した飴谷と野崎は「これが最後のチャンス」だと言わんばかりの攻めたプレーセレクトでチームに流れをもたらすインパクトを残した。)

試合の展開上、出しておいたほうが良さそうな時でも若手を長時間出さない。

それはある意味では若手を大事にしているからこそなのかもしれない。
良くも悪くも選手ファーストな浜口HCならありそうな判断である。


バスケットボールは団体競技であるが、そうは言っても個人能力の影響は大きい。

富山が強くなるための一番の近道はビッグスポンサーを獲得し、多くのチームが欲しがる優秀な個をかき集めることなのかもしれない。

しかし、ある意味富山の資金難は魅力であるようにも思う。

富山が毎年用意してくる資金差を覆すプランは面白く、
背水の陣のような状況で戦う姿はどこか応援したくなる魅力だ。

今の方針で富山が強くなったとき、勝ち始めたとき。
私達は組織力で戦力差を覆すような、団体競技の魅力が詰まったような、劇的な試合が見られるのではないか?

今はその時を待ちたい。

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ここまで読んでいただきありがとうございました。

岩沢マサフミ
https://twitter.com/masa1030_gura


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岩沢マサフミ
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