時間逆説について今一度

ちょっと前に映画「フラッシュ」を見てSFにおけるタイムパラドックスについてオタクくせぇ考察をしたくなったんだけど、そもそも前提となる「時間の捉え方」ってもんが曖昧だったので知っている作品を分類しつつ好き放題モリモリ書いてみよう。


そもそもタイムパラドックスとは

一言でいうと、過去・未来に干渉することで現在の状態と矛盾が生まれるってこと。なんだけど、大きく分けて「過去を変更する」ことで生じる場合と「未来を確定する」ことで生じる場合の二通りがある。
話がややこしくなるので以降の話は「過去を変更する」ことで生じる矛盾を、タイムトラベルが登場する作品でどのように扱い、どう整合を取っているか分類してみようと思う。(これおかしくね、とか違くねってのがあったら教えてください。僕とお話しようよニチャァ)
未来を確定する矛盾とかタイムパラドックスの詳しい説明はウィキペディアでも見てくれ。

①過去を変えると未来も変化する

ある原因に結びついて結果が生まれてる、という因果律の考え方に則った考え方。最も感覚的に分かりやすい世界観。
要するに細かい事は置いといて「あの時ああすれば」の「あの時」に戻ってやり直しちゃおう作戦。大体思った通りに未来が変わらず困ったことになるのが定石。分かりやすい反面、タイムパラドックスも起きやすく深く考察していくとおかしなことになる場合が多い。
例としてバックトゥザフューチャー、ターミネーター、時をかける少女、クレヨンしんちゃん(雲黒斎の野望)、X-men(future & past)なんかがこれにあたる。
ジョージとロレインが出会わなければマーティは生まれないんだから出会いを邪魔することもできないだろって矛盾にノータイムでぶち当たるのにそれを考えさせない映画の展開力ってすんげえよな。あと兄、姉、マーティと順番に写真から消えたけど未来が消えていくって意味ならマーティから消えた方がなんかしっくりこない?
ターミネーターは後述の⓷っぽさもあるんだけど調べたら歴史改変前のジョンコナーの父親は未来の兵士ではなくサラコナーの職場の男性っていう設定がある(?)とか何とかって噂を聞いたのでここに分類。でも父親に関係なく反乱軍のリーダーやってるってことは②でもあるのか?
時をかける少女は身体はそのままで精神だけが時間を遡ってるので正確にはタイムリープであってタイムスリップとは別らしい。そう考えると過去に情報を送る、未来からの情報を受信するって機能があればタイムトラベルに必要な要素ってそろってるのかもしれないね。

②細かな違いはあっても大局的には未来(運命)を変えることはできない

①の世界観から重要な出来事(人の生死等)には干渉できないというというルールを付け加えてパラドックスしないようにした世界観。
何が「重要な出来事」にあたるかは観測者の主観で決まる時点ですでにガバガバな世界観なのはご愛敬である。
シュタインズゲート、ドラえもん、ジョジョの奇妙な冒険(バイツァ・ダスト)なんかがこれに該当する。
一応ドラえもんでは、のび太が誰と結婚してもセワシ君が生まれることに関して、東京から大阪に向かうのに新幹線に乗っても自動車に乗っても最終的に大阪に着くという事実は変わらないという説明があった。剛田家のDNAを受け継ぐのと源家のDNAを受け継ぐのはどう考えても違うので、この説明はちょっと無理があると思う。あるいは未来的な価値観において遺伝的な差は後天的に矯正可能という認識なのだろうか。
シュタゲも時をかける少女と同じくタイムリープだし、すっごい頑張れば人の死とかも変えられたけど…まあええやろ。
バイツァ・ダストはなんかちょっと違う気もするけど時間移動によって起こる矛盾を不思議な力が働いて解決するってことでこの扱い。何が『運命』にあたるかなんて……主人公の主観で決まる『未来』なんて……ここにあるジョジョの話をしたいって心に比べればちっぽけな問題なんだッ!!

③過去の変えた結果が現在である

過去を変えること自体が既に織り込み済みで、世界はお前の行動なんてお見通しなんだぞという世界観。
ジュブナイル、メンインブラック3、涼宮ハルヒシリーズ、プリデスティネーションあたりがこれ。
未来の自分から受けた干渉を同じように過去の自分に対して行ったり、最初の時点で結末のヒントがこっそり置いてあったりする。
一応タイムパラドックスは発生しないことにはなるし、なんか綺麗な終わり方をしてるようにも見えるけど、冷静に考えるとニワトリが先か卵が先かみたいなループにハマるっていう割と初歩的な矛盾があると思うのだ。
登場人物視点で物語を追っていると何が何だか分かりづらくなるのと、性質上最後のオチで伏線回収しなければならないので脚本家は大変だと思う。でも、あの時のアレはこういうことだったんか~ってなるの気持ちいいよね。SF考察オタクが大好きなやつ。皆もSOS団を結成して未来人を探しに行こう。
ジュブナイルは見方次第では①にもあたると思うけどボイド星人を撃退した未来からテトラが送られてきたため、「タイムスリップを前提とした未来」があるっていう捉え方なのでここに分類。
メンインブラック3では、ボリスが過去を変える前にKが過去の後悔の話をJしてるあたり、ボリスが過去に戻らなくてもJの父親は撃たれたと考えることもできなくないけど、エンディングの予測不可能な因果律と店に戻ってチップを払ったKのシーンから、そういうのも全て織り込み済みですよ、MIBはねっていう解釈の方がなんか良い感じだと思うのでそういうことにする。
プリデスティネーションは人間が単性生殖してたりする時点で時間的な矛盾はもはや些細な問題なので細かい話は無しで。いや、面白かったけどさ。何度も時間跳躍するから訳分かんなくなる。

④タイムマシンの行き先は過去ではなく非常によく似た平行世界である

自分が経験してきた過去ではなく、別の平行世界に干渉するため「自身の現在」に影響はなくタイムパラドックスも発生しないという世界観。自分の過去を変えられない代わりにタイムパラドックスも起きない。矛盾しない世界。
アベンジャーズエンドゲーム、未来人ジョンタイター、時空のおっさん(梯子)とかのやり方。
要するに過去のような別世界に行くイメージだから正確にはタイムスリップとは違うかもしれん。干渉された平行世界の未来?そんなもん知らん。インフィニティストーンを奪われた並行世界はどうなるんだマジで。D4Cですら遺体は1つだったんやぞ。
まったく同じように見えて少しずつ元の世界とズレていたり、元の場所には戻れなかったり、薄っすら気味の悪さを孕んでいることから、怖い話系はこのパターンを取ることが多い。
未来人ジョンタイターはこの平行世界論に加えて自転・公転による地球の位置もタイムスリップにおける重要な要素ってなことを言ってて目から鱗だったように記憶している。ジョンタイターの書き込み自体は現実のウェブ掲示板に書き込まれたものだけど、現在では創作によるものだっていう見立てが有力らしいね。時空のおっさんにも通じる話だけどネットの話は事実かどうかよりも、虚実ないまぜを前提に面白いかどうかで判断したほうが人生楽しく過ごせると思うんよ。

⑤未来を知ると覚悟や義務感が生まれる

タイムトラベルとは違うし過去を変える話ではないけど、時間的な矛盾回避として使われる理論だから紹介。
未来の出来事を知った時点でそれを運命として未来を受け入れるように精神が変化する。そのため未来を知っても現在の行動は変化がなく矛盾も生じないという世界観。
メッセージ、ジョジョの奇妙な冒険(メイドインヘブン)のやつ。
ただしこれは①の「因果は変えられる」というのが前提にあるので②~④のような世界観では未来を知ること自体に意味はない。
分かりづらいので具体例を出すと

1.未来での自身の死を知る
2.行動を変えることで死が回避される(①の世界観)
3.最初に知る未来の情報が変わる
4.死を回避する行動が取られない
5.1に戻る(以下無限ループ)

となるところを

1.未来での自身の死を知る
2.全てを覚悟し受け入れる

で済ませちゃうってことね。
メッセージもあのバカウケみたいな宇宙船の中で言語学者が何か小難しいことを色々やってたけど要約すると、ゆるやかに絶滅に向かってる宇宙人が人類に四次元的感性をプレゼントする代わりに助けてもらおうとしたけど翻訳ミスが原因で世界大戦が起きかけた話、だったわけで。
四次元的感性が備わるとまだ産まれてない未来の娘の死まで何か受け入れる感じになってたあたり、結局宇宙人の絶滅は避けられなさそうだよね。

インターステラーも重力の影響で時間の進みが遅くなる(一般相対性理論?)はギリ何とか分かったけど終盤で過去の自室に干渉して情報を伝えるっていうタイムリープ的なアレは理解が追い付かなかった。誰か一緒に観ながら解説してくれ。
ちなみにテネットはもうどういうことなのかさっぱり理解できんかった。
まあ私の知ってるタイムスリップものは大体こんなもんかな。


さて、ここまででもうんざりするような長さだが冒頭で話題にだしたフラッシュの話がこれから始まる。

マルチバースと時間軸

フラッシュではタイムスリップについて最近流行りのマルチバースを混ぜ込んだ話がされた。話の流れを整理すると、

  • 能力で過去に戻り母親を死から回避させた。

  • 現在に戻る途中で別世界の自分に襲われ、その時点での過去改変の結果を確認することに。

  • 母親は生きているが自分が能力を得なくなることに気づき、別世界の自分が能力を得る手助けをした。

  • 因果を超えて母親より過去の事象にも影響が出ており完全な別世界になっていることに気づく。

  • 自身を襲った別世界の自分=能力を得る手助けをされた過去の自分の未来の姿であると明かされ、どう過去を変えても別世界同士が崩壊に向かってしまうと伝えられる。

  • 母親を死から回避させることを諦め、全てを元通りにしたつもりだったが母親以外への影響は完全に元通りにはなっていなかった。

といったところだろうか。
タイムスリップの影響について作中ではキートンバットマンがスパゲティで雑な説明をしてたが、過去のある時点でトマト缶の位置を変えると、変更後の位置にトマト缶が移動してることに矛盾がないようにある時点よりも更に過去も変わってしまうということが言いたかったんじゃないかと思う。多分。
別の世界(マルチバース)が生まれたという点においては④の平行世界に近いともいえるが、他の世界とある時点で繋がって干渉しているという点で扱いは別になる。
加えて、タイムスリップ中にバリーに襲撃されたことが、バリーに能力を与え襲撃をさせるきっかけになってる、みたいな因果の循環が発生してる点では③にも近いが過去を変えた影響があらゆる面で出ているので織り込み済みとは言えないだろう。
つまるところ結構新しい切り口でタイムスリップを扱っているという印象を受けた。
(ベン・アフレックとマイケル・キートンを出すためとか言うと全部台無しなのでそういうこと言わない。)

ここまででもう何言ってんだコイツって感じだと思うから、何が言いたいか仕切り直すと、原因があって結果が生まれるっていう因果律を前提として生きてる我々にとって因果律から外れた話はエンターテイメントではなくなってしまうという話だ。
先ほど書いたように「過去改変が因果を超えて全く関係ない出来事にも大きな影響を与える」っていう考え方を取り入れたのは目新しいと思う。アメコミヒーロー映画としてDCユニバースもやればできる子じゃん。こういうのでいいんだよ。と思った。
ただし、SFとしてのタイムスリップの扱いで言えばこういうのはやめて欲しいのだ。だってフラッシュのタイムスリップ論理は「過去を改変すると何が起こるか分からないから総当り的に良い感じの未来が出るまで手を加え続けたけど上手く行かないので諦めました」なんだもの。
じゃあ頭のいい誰かが何が起こるか解き明かしてくれてハッピーエンド、なら良いのかというとそれも違う。SFとしてのカラクリが難解すぎると監督の意図したエンターテインメントが伝わらなくなるんよ。時間を過去から未来の方向にしか捉えられない我々には時間を別方向から見る視点は存在しないのだ。
理論はさっぱり分からなかったメッセージもインターステラーも時間に関する理論的な背景が何かしらあるんだろうし、もはやストーリー追うのが精一杯だったテネットだってきっと物理学やら量子力学やらを参考にして現実の科学をベースに物語が作られているんだろう。でも結局、学問的に正しいからといってMIB3のチップの支払いを忘れると宇宙が滅ぶみたいなルールで話をされたら一般的な感覚ではついていけないのだ。学識的な好奇心は刺激されたが、どれもこれもSF作品としては面白くなかったというのが素直な感想だ。(まあ単に私の理解力が足らねえってだけかもしれんが)
フラッシュは面白かったが、それはSFとしてではなく派手なアクションと爆発、過去作品のリバイバルキャストが魅力的なヒーロー映画だったからだ。今後、マルチバースを言い訳にイマイチなストーリーをアクションと過去の名作の威光で誤魔化す映画が増えてしまうと、SF考察オタクとしてはマルチバースも程々にしてほしいなあと思った次第。

あぁ好きなこと書いた。
以上!!

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