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HSGK1/100「スピード・ミラージュ」(ボークス)
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「ハイスペック」の落とし穴
ガレージキットは難しそう。その世界に足を踏み入れるまで、多くのモデラーがそんな印象を持っているはずだ。ガンプラをメインに模型を楽しんできた私の場合もその通りで、「離型剤」「気泡」といったプラモの世界では聞きなれない言葉があふれるレベルの高い界隈だと感じていた。
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数年前までそんなだった私が今ではMHガレキばかり作りまくっている。なぜか。結論から言ってしまえば、ようは「思っていたほどではなかった」からだ。ガレキならではの作法を身につけてしまえば、予想よりも難易度は低めだった。そう感じているガレキ愛好家は意外に多いのではないだろうか。
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そうはいっても簡単ってわけではないけどね、と付け加えたくなるような難しさはある。けれど、そんなハードルの高さを補って余りある造形の素晴らしさが完成の報酬として目の前に現れるのだからやめられない。
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特に最近のメーカーによるガレキの精度はすさまじい。昭和生まれの私には、ガレキといえば月面のように気泡でボコボコ、離型剤まみれでギトギト、そしてありえないようなズレ、そんなイメージだったが、令和のメーカーガレキにそんなことはありえない。
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ボークスに限って言えばここ数年の再販物で気泡に出くわした例はほぼ無いといえるし、ズレは皆無、離型剤は使っているのかさえ怪しいレベル。表面処理が格段に楽になって塗装に専念できる状況になっていると感じている。
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ただし、実のところ、私も相棒である娘もこの状況が素直に「表面処理が楽になった」「ボークスのガレキは簡単」とは捉えていない。高精度の抜きだからといって、気泡が本当にゼロなのかといえばそうでもなくて気が抜けない。パーティングラインは非常に小さく薄くなりバリなんて皆無だが、あまりに小さくなったせいで捨てサフなどしないと見えないほどだ。
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小さく薄いパーティングラインを見落としてしまうと、塗装を2層3層と重ねた頃合いになってようやく見えてきてしまう。そうなったら、塗装を落として再び表面処理してまた塗装を重ねるしかない。まさに「ふりだしに戻る」だ。
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そんな抜きの良すぎるキットを僕らは、非常にやっかいな失敗を誘引する「高精度」として警戒していて、一昔前の気泡がたくさん、バリがいっぱいみたいなガレキに触れると「お前は最初から『ここが危ないよ』と注意を引いてくれてやさしいねぇ」という気分にさえなる。
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そんな「ハイスペックの落とし穴」に気をつけて、丁寧に着実に手を動かしていけば必ず良い結果を出してくれる。それがボークスガレキの素晴らしいところであり、とりわけ今回のスピード・ミラージュの完成度は恐ろしく高い。
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原型師の平井氏もこのキットに思い残すことはないんじゃなかろうか。見えない箇所の造形にさえ隙が無く、これを素体に改修を加える点がまったく見つけられない。鬼気迫るほどの完成度を前にして、作り手としては手を加えることができない若干の寂しさと自らの技量不足を痛感して落ち込んでしまいそうなものだが、凹んでばかりもいられない。「造形負け」しないよう、塗りに全力を注ぐのみだ。
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スピード・ミラージュはもともと色数の多い方で、MMクラウド・スカッツを作った際は塗り分けにかなり苦労したが、さすがHSGK。パーツ割りも工夫されており、MMのときの半分のカロリーで塗り分けできたと思う。それでも塗装に60時間以上費やしてしまったから、決して楽ではなかったけれど、それが苦しいかといえばそうでもない。塗りあがったパーツを組み上げていくときの「かっこいいィィィ」という幸福感。これがあるからガレキはやめられないし、その素朴な感慨を大事にしていきたいな、とも思う。(2022年8月完成)
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商品名:HSGK スピード・ミラージュ
ヴォルケシェッツェ・ステージ3
スケール:1/100
マイスター:平井興治(造形村プロジェクトチーム)
フィニッシャー:まさぼん
サイズ:全高28.5cm
材質:レジンキャスト
パーツ数:103
メーカー:ボークス
発売日:2022年5月再販