”飛龍伝2020”を観てきました(Jan.31)
先日、新国立劇場まで舞台を観に行ってきました。
つかこうへい作、岡村俊一演出、そして欅坂46菅井友香が主演の舞台
「飛龍伝2020」です。
一応、演劇がさかんな大学の文学部出身なので、つかこうへいさんの作品はある程度知っているつもりでしたが、「飛龍伝」シリーズは手に取ったことがなかったです。
個人的には、「学生運動」というテーマが敬遠させていたのだと思います。
▼ つかこうへいについて
1970年代に演劇界に突如現れた伝説の脚本家、演出家。
慶応大学出身で、同学の学生劇団「仮面舞台」や、早稲田大学の劇団「暫」(しばらく)に参加するなど、大学在学中からその才能を発揮したと言われています。
世間に広く知られるようになったのは、1973年に発表し、岸田戯曲賞を受賞した「熱海殺人事件」からで、1980年初演の「蒲田行進曲」では、直木賞を受賞しており、他にも代表作に「幕末純情伝」や「ロマンス」といった作品で知られています。
私の故郷大分ともゆかりがあり、1996年には大分県大分市と協力し、大分市つかこうへい劇団を創設したことでも知られています。
▼ 「飛龍伝」について
本作は、1973年発表の「初級革命講座 飛竜伝」の内容を大幅に改定したものとされています。
「初級革命講座 飛竜伝」は、学生運動に参加したのちも、革命の夢を捨てられない男性を主人公にした物語であり、そこに全共闘の女性委員長を登場させ、機動隊隊長との恋愛を織り込んだ「飛龍伝’90 殺戮の秋」が「飛龍伝」シリーズの原点となっています。
当初は、平田満、三浦洋一ら3人の出演者で演じられた隠れた名作という位置づけの作品でしたが、1990年、当時、銀座セゾン劇場のプロデューサーであった岡村俊一との出会いによって、大劇場用にショーアップされた群衆劇へと変貌し上演され、その年、読売文学賞を受賞し、つかこうへいの代表作となった作品です。
また、同作の主人公役は名だたる女優が担ってきたことでも知られています。初代 富田靖子、2代目 牧瀬里穂、3代目 石田ひかり、4代目 内田有紀
5代目 広末涼子、6代目 黒木メイサ、7代目 桐谷美玲と名だたる女優が演じています。
あらすじ
春、駿河台方向から聞こえてくるシュプレヒコールの中、一人の少女が進学のため愛と希望を胸にいだき上京した。四国高松から上京した神林美智子(菅井友香)である。しかし、時代は学生運動の真っ只中、やがて美智子は、全共闘作戦参謀の桂木純一郎(味方良介)に出会い、その理想と革命に燃える姿に憧れ、恋に落ちる…。やがて、美智子は全共闘40万人を束ねる委員長に、まつり上げられてしまう。
11・26最終決戦を前に、作戦参謀部長の桂木の出した決断は、美智子を、女として機動隊員の部屋に潜入させる事であった…。そして、その機動隊員とは、四機の狂犬病の山崎こと、山崎一平(NON STYLE 石田明)だった…。
革命の夢と現実と、美智子を愛する者達に翻弄されながら、11・26最終決戦の日は近づいてくる…。 (公式HP 「飛龍伝2020」より)
▼ 主演 菅井友香(欅坂46)について
女性アイドルグループ、欅坂46のキャプテン
趣味の乗馬や軽井沢の別荘といったエピソードや、物腰柔らかな立ち振る舞いの「お嬢様」なキャラクターとして知られています。
一方で、所属している欅坂46の楽曲は力強いものが多く、普段の姿とのギャップが魅力になっています。
彼女の純粋無垢な雰囲気は、上京したての神林美智子のようです。そしてパフォーマンス中の雰囲気は、全共闘の委員長としてデモの中心に位置する神林美智子さながらです。
納得のキャスティングと言えます。
▼ お芝居についての雑感
とにかく、力強さと勢いがある舞台でした。
準主役のNON STYLE 石田明と味方良介の存在感
舞台の終盤である役割をはたす細貝圭の圧倒的な表現力
脇を固めるつかこうへい劇団出身の舞台俳優たちの爆発力や、若手俳優たちの瞬発力
そして何より、菅井友香の瑞々しさ、脆さと強さが同居する危なっかしさ、儚さ…
登場する人間が皆それぞれ、理想と現実、愛情と役割の間で揺れる姿が見事に表現されていました。
▼ 脚本についての雑感
「学生運動」に対して、いいイメージは全く持っていませんでした。
実際、過激化し、肥大化した運動は、「革命」のためにあまりにたくさんの人の命を犠牲にしたからです。
その意味では、つかこうへいさんも学生運動全体に対しては、非常にシニカルな視線を向けていると思います。
機動隊の隊長に、機動隊と学生との装備の差を語らせ、「敵うはずがない」と言わせたり、終盤の決戦で学生たちがなす術なく次々と斃れていったりすることで、描いています。
また、主人公の美智子にこう語らせます。
40万人の為なら、たったひとりの優しい人を傷つけてもいいんですか?
これが、学生運動に対しての答えだと思います。
しかしながら、運動に身を投じる一人ひとりの登場人物には、愛情をもった描き方をしています。ここが私とは違うと感じました。
確かに、本気で「革命」に身をささげた学生もいたでしょう。でも、中には、それを利用して、自分が偉くなりたいと思っていた者も、ただ何となく流されて参加していた者もいたと思います。
「革命」に本気だったかは、人それぞれだと思います。でも、彼らが皆真剣に生きていたことだけは、間違いないことです。
つかさんが描きたかったのは、こういうことではないでしょうか。
歴史の中に埋もれてしまっていたような名もなき人たち、それぞれが持っていた想いに目を向けて、想像することが大事なのではないかと感じました。
▼ 終わりに
やっぱり、舞台というのはいいものです。
演者の姿、飛び散る汗、零れる涙、息遣いやセリフに詰まるところまで、「生」でないと感じられないものが舞台にはあります。
劇中で使われていた浜田省吾の「もうひとつの土曜日」を聴きながら、家路につきました。
君を想う時 喜びと悲しみ ふたつの想いに揺れ動いている
君を裁こうとする その心が 時に俺を傷つけてしまう
浜田省吾 「もうひとつの土曜日」