メタバースをどう実現する?オープンな仮想世界を叶えるために必要なこと
年始の所感でも少し触れましたが、今回はメタバースについてもう少し詳しく皆様にお話ししたいと思います。
昨年の10月、当社はFacebookからMetaにコーポレートブランドを変更し、ソーシャルテクノロジー企業としてメタバースの構築に貢献するという新しいビジョンを発表しました。発表から半年ほどが経過し、今では耳にしない日がないくらい、より多くの注目が「メタバース」へ集まっているように感じます。
私自身、業界のいろいろな方々と会話したり、取材を受ける中で改めてメタバースについて、そしてその特徴や可能性について考える機会がありますが、私が特に鍵となると考えているのが、距離を超えた空間の共有(実際にその場に一緒にいるかのような感覚)、没入感、そしてインターオペラビリティの3つです。
最初の2つに関しては文字通りですが、インターオペラビリティとは何かと、よく聞かれます。インターオペラビリティは、複数のデジタル空間、サービス間を自由に、且つ簡単に行き来できるようにし、複合現実などにより仮想空間と現実世界もシームレスにつなぎ合わせる「相互運用性」です。また、デバイスの種類によっても縛られることなく、様々な入り口からメタバースにアクセスができることを指します。VRヘッドセットを使えば、完全な没入感を得られ、AR対応のメガネを使えば、現実世界にいながらAR体験をできる、などということです。
今回は、当社がメタバースの構築に向けてどう取り組んでいくか、どんな未来を想像しているかを詳しくご紹介したいと思います。
Metaが考えるメタバース:相互運用性のある、誰もがアクセスできるもう一つの世界
過去10年、まだ世界はデスクトップPCによるブラウザ中心のインターネットが主流でした。そこからスマートフォンが登場し、瞬く間にモバイルインターネットへと移り変わりました。これからの10年においてもインターネット世界はさらに進化していくと思います。
当社はその次なる進化こそがメタバースだと考えています。
一言で「メタバース」と言ってもどんなものか想像できない人も多いのではないでしょうか。私が家族や友人に「メタバースとは何か?」と聞かれたときは「PCやモバイルのスクリーンで見るのではなく、実際に自分が入り込むことのできる空間である」と説明しています。
物理的な距離にかかわらず、大切な人と本当に一緒にいるような感覚で同じ空間を共有できたら、世界は大きく変わると感じています。
ただメタバースが私たちの生活に定着していくのを当社だけで担うのは現実的ではありませんし、不可能です。「インターネット」が特定の企業、団体に属するものではないようにメタバースもオープンなものであると考えています。世界の様々な企業、開発者が協力しあい、そして政府や学術研究者も一丸となって、上述したように、ありとあらゆるデバイスでメタバースを利用できるインターオペラビリティ(相互運用性)が今後は大事になってくると考えています。オープンなメタバースでは、仮想空間と現実も、シームレスに移動できるようになるでしょう。
さて、ここからはメタバースがどのように私たちの生活を変え得るのかをより想像しやすいように具体的な例を交えてお話していきます。
自分の分身「アバター」と自分で創るオリジナルの「ホームスペース」
まずはメタバースに存在する自分自身のアバターが必要です。当社でもよく、バーチャル会議ツール「Horizon Workrooms 」を使って会議をしますが、まず自分の分身であるアバターを作成します。アバター同士で交流していると、相手の身振り、手振り、まばたきも伝わるので、実際に隣にいて会話をしているような感覚になります。
将来的に相互運用がかなったメタバースでは、洋服や靴、アクセサリーなど、様々なアイテムを買うことによって自分の好きなようにアバターをカスタマイズし、どこでもそのアバターで自分を表現できるようになるかもしれません。
メタバース内に自分のプライベート空間「ホームスペース」を持つこともできます。アイテムを購入したり、好きなアートを飾ったりしてカスタマイズしたホーム空間に、友人を招いておしゃべりしたり、一緒に動画を視聴したり、他のアプリ体験に一緒に移動することも可能です。
Metaは、すでにそうした体験ができる「Horizon Home」のサービスを一部の国で提供しており、日本でも近日リリース予定です。
仮想空間でエンターテイメントを楽しむ
ライブやイベントに参加し、臨場感を得ることができるのは現地に行ってこそ、と思っている方も多いでしょう。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響でそれらリアルイベントに長く参加できない日々が続きました。でもメタバースでならどうでしょう?
ヘッドセットを着用するだけでスポーツ観戦、あるいは好きなアーティストのライブを最前列で楽しめたり、ライブ終了後にアーティストに会えるバックステージパスを購入できるNFTを獲得するということも可能になります。
仮想空間でならライブ会場でもみくちゃにされることも、行列に並ぶことも必要ありませんし、誰かの頭でステージが良く見えないなどの不便もなくなります。
ジムに出かけることなくプロのインストラクターのフィットネスレッスンを受けられる
これまではジムに行くために着替えをして、身だしなみを整え、ジムへ移動しなければなりませんでした。私自身も、トレッキングで山に行ったり、海沿いをランニングするのが趣味でよく行くのですが、天候が悪い日はやる気を失ってしまうことも多々あります。
そんな運動の機会もヘッドセットを装着するだけで簡単にできるようになります。さらには居住地に左右され、本当に受けたいトレーナーのレッスンが受けられなかった人も、憧れのフィットネストレーナーのレッスンを受けたり、トップアスリートと一緒にトレーニングできるようになるかもしれません。
働き方を大きく変えるメタバース
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、Facebook Japanでは2年近く完全なリモートワークをしていましたが、その間にやはりどうしても社内の横のつながりや雑談などカジュアルに社員同士で交流する機会が減ってしまい、組織に属している感覚が以前と比較すると失われてしまうという課題も生まれました。そこで、社員が任意で参加して気軽に交流をできる「コーヒー・チャット」と私たちが呼んでいる時間を作りましたが、Horizon Workrooms での開催も大変好評です。将来的には、仮想空間と現実もシームレスに繋がり、物理的に離れていても、まるで現実に同僚と会って共に仕事をしているような感覚で働けるようになるでしょう。
メタバースで進化する教育・研修
教育・研修分野もメタバースによって大きく変わるかもしれません。
教育においても、宇宙や古代ローマに行って実際にその様子を観察したり、全員が同じ教室内にいなくても一緒に化学実験などを行うことができます。
また、医療分野では臓器の位置などを正確に再現した人体模型の中に入り、手術の練習を行うことができるようになるでしょう。これまでは医者の技術に頼っていた部分がメタバースを応用することでより精度の高い知識を身に着けられるようになります。
ホテル業界では既に仮想空間での人材育成の研修を採用しているホテルもあります。一流のホスピタリティの学びにメタバースが活用されています。
仮想空間で収入を得る
メタバースの世界には様々なビジネスチャンスが存在しています。
一部の人だけでなく誰もがメタバース内で収入を得る機会の可能性が考えられます。
デジタルオブジェクト、サービスや体験、ゲームのような世界全体を構築するクリエイターなど、メタバースには様々なクリエイターが集まるでしょう。ビジネスも同様に、デジタル空間やデジタル世界を構築し、物理的なものもデジタルなものも販売できるようになります。相互運用がかなったメタバースでは、一つのプラットフォームに縛られることなく、販売したり購入したりできるようになります。
日本にも、Instagram などを活用して生計を立てているクリエイターがたくさんいますが、メタバースの世界でも活躍できる日が近いかもしれません。
メタバースの実現に伴う今後の課題とは?
夢のようで、もうそこまで来ているメタバースのこれからをお話ししましたが、この世界を構築するにはまだまだ多くの課題もあります。
例えば、インフラの問題です。メタバースの構築はまだ初期段階。多くの技術やインフラはこれから構築していく必要があります。より高速な通信環境の構築も必要不可欠です。特にメタバースをごく自然に体験するには現在もだいぶ軽量化されましたが、Questヘッドセットの更なる軽量化も必要になると考えています。また、様々なルールメイキングやガイドラインの整備も必要です。
こうしたハードウェアやソフトウェア含め、メタバースの基盤となるようなテクノロジーの開発はMetaが大きく貢献できる部分となると考えています。また、Metaが最も貢献できるのは、創業以来、人と人のつながりに注力してきたソーシャルテクノロジー企業の強みをいかした、次世代のオンラインソーシャル体験の開発です。
みんなで作るメタバース
ただし、メタバースはMetaのみの技術やサービスで実現できるものではなく、様々なプレイヤー、そしてパートナーとの協業が不可欠と考えています。人々の生活に日本でもVRやARに絡む取り組みが急速に立ち上がってきており、今後様々なパートナーと会話を重ねながら、オープンなメタバースの構築を目指していきます。