【全員知るべき】結局AIAgentとは何か、本質解説します。具体的事例と実践例も図解
全体像から理解するAIエージェント
まずは「AIエージェント」とは何かを整理しましょう。AIエージェントの本質は以下の4つです。
目的指向性
ゴール(目的・課題)を持ち、それを達成するための行動を考える。
自律性
外部からの強い制御がなくても、自分で意思決定を行う。
学習・適応
過去の経験から学び、行動の方針をアップデートする。
環境とのインタラクション
外部のツールや情報ソースとやり取りしつつ、必要に応じて計画を修正する。
こうした特徴があることで、AIエージェントはただの固定ルールに従うプログラムではなく、状況や課題に合わせて柔軟に行動できる存在になります。
Anthropic社によれば、「エージェント」という言葉は開発者によって少しずつ使われ方が異なるそうです。
完全に自律的で長期間動き続けるエージェントもあれば、
あらかじめ決められたフローをモデルがある程度サポートするものもある。
しかしAnthropic社は、どちらもエージェンティック(Agentic)なシステムと呼びつつ、以下のような2種類で区別をしています。
Workflows(ワークフロー):
LLMとツールがあらかじめ決められたコードの手順でオーケストレーションされる。Agents(エージェント):
LLMが自分で手順やツールの使い方を決める、動的なシステム。
Anthropicの提案: 「Building effective agents」概要
Anthropicのブログ記事「Building effective agents (2024年12月20日)」では、さまざまな企業が大規模言語モデル(LLM)を使ってエージェントを実装した事例から得られた知見を公開しています。内容を整理すると、主に以下のトピックに分かれます。
When (and when not) to use agents
When and how to use frameworks
Building blocks, workflows, and agents
Agents in practice (Appendix 1)
Prompt engineering your tools (Appendix 2)
ここでは、それぞれのポイントを簡単に噛み砕いて解説していきます。
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1. When (and when not) to use agents
いつエージェントを使うべきか、あるいは使わないべきか?
Anthropicが強調しているのは、「まずはシンプルな方法を試そう」 ということです。たとえば、単純な問い合わせに対する回答や、少し工夫したプロンプトで解決できるようなタスクは、複雑なエージェントを導入せずに済むことが多いという指摘です。
エージェントは、
ツールを何度も呼び出す
繰り返し推論や再計画を行う
などのため、コスト(推論回数・APIコールなど) が増えたり、応答が遅くなる危険があります。
逆に、柔軟な意思決定や不確実性への対応が必要な場合にはエージェントを使うメリットがある、とのことです。
よって、Anthropicは「不要なところまでエージェントにしない」 ことを推奨しています。LLMを1~2回呼び出すだけで解決できるなら、そのほうがシンプルでコストも低いというわけです。
これは非常に基本的なことで重要です。
2. When and how to use frameworks
フレームワークはどんなときに使えばいい? どんな注意が必要?
LangChainなどのフレームワークが多数登場していますが、Anthropicの推奨は以下です。
まずはLLM APIを直接使ってみる
すでに多くのパターンは数行のコードで実装できる。
フレームワークを使うなら、中身をよく理解する
仕組みを知らないまま使うと、思わぬエラーやデバッグ困難を招く。
フレームワークの抽象化が邪魔になることもある
実際のプロンプトやレスポンスを隠してしまい、微妙な調整がしづらくなる。
フレームワークは便利ですが、「どのようにプロンプトが生成され、ツールが呼ばれているのか」 をしっかり把握できる人が使わないと、かえって開発が複雑になる可能性があります。
3. Building blocks, workflows, and agents
Anthropicでは、エージェント構築における「段階的」なアプローチを提案しています。
3-1. Building block: The augmented LLM
拡張されたLLM(Augmented LLM)
まず土台となるのが「LLMに外部のリソース(ツール、メモリ、検索など)を組み合わせたもの」です。これを「Augmented LLM」 と呼びます。
たとえば、LLMが自分で検索クエリを作り出し、APIを呼び出すことで外部情報を取りにいけるようになる。
メモリやチャット履歴を活用して、過去の会話内容を参照・学習する。
これらを使いやすく整理したインターフェースを持たせることで、LLMがスムーズに外部リソースを活用できる。
3-2. Workflows: 固定プロセスでのLLM活用
Anthropicは、タスクを複数ステップに分割する実装例を「Workflows」として紹介しています。これらはいわば、事前にある程度「コードベースでつながり」を定義してしまうイメージです。
Prompt chaining(プロンプトの連鎖)
1つのタスクを複数ステップに分解し、各ステップでLLMに処理させる方法。
ステップの合間にプログラムによるチェックやゲートを挟めるため、ミスを早めに発見しやすい。
Routing(振り分け)
ユーザーの入力をLLMや他の分類器で判別し、最適なタスクフローやツールに振り分ける。
異なる種類の入力が混在している場合に有効。
3.Parallelization(並行処理)
複数のLLM呼び出しを並行して行い、結果を集約する。
例)セクション分割: 長文を複数のセクションに分けて同時に処理し、最終的に合成する。
例)投票: 同じ入力に対して複数回LLMを呼び出し、過半数の意見を採用する。
4.Orchestrator-workers(オーケストレーターとワーカー)
中央の「オーケストレーター(LLM)」がタスクを細分化し、必要に応じて「ワーカー(別のLLM)」へ割り振っていく。
事前にどんなサブタスクが必要になるか分からないようなケースに有効。
5.Evaluator-optimizer(評価者と最適化者)
あるLLMが出力した結果を、別のLLMが評価・フィードバックし、それを受けて再度最適化する構造。
人間がレビューする代わりに、別のLLMがレビューしてくれるイメージ。
3-3. Agents: 動的に手順を決めるシステム
上記ワークフローは大枠が決まっているものですが、Agents(エージェント) はもっと自由度が高いシステムを指します。Anthropicがいうエージェントとは、
人間の指示(プロンプト)や会話からタスクを理解し、
そのタスクを達成するために、自分でツール選択やステップの組み立て、ループ処理を行い、
必要に応じて都度外部の情報(“ground truth”) を取り込み、
タスクが完了するか、制限回数・時間に達するまで動き続ける
という流れを持っています。
完全自律で動くため誤作動のリスクやコスト増がある一方、最小限の人間の指示で大きなタスクを丸ごと任せられるメリットがあります。
4. Agents in practice (Appendix 1)
Anthropicが顧客とのやり取りから特に有益と感じたエージェント適用領域として、下記の2つを挙げています。
Customer support(カスタマーサポート)
チャットボットのように見えるが、背後で顧客データやオーダー履歴、返金APIなどをLLMが直接使いながら対応してくれる。
成功の可否が明確(問題解決できたかどうか)なので、KPIもとりやすい。
Coding agents(コード修正・生成エージェント)
ソフトウェアの変更やテストを繰り返すタスク。
テスト自動実行やコード解析などをツール連携しながら回すためにエージェントが適している。
成果物が明確(テスト合格・PR作成など)であり、人間による最終チェックを挟めば比較的安全。
実際、「エージェントを使ってGitHubのプルリクエストを自動で作り、テストに通るまで直していく」といった仕組みが実用段階に来ています。
5. Prompt engineering your tools (Appendix 2)
エージェントは、外部ツールを使うことで大きく能力を拡張できますが、Anthropicは「ツール定義(プロンプトエンジニアリング)が極めて重要」 だと言います。
ツールの使い方、引数の意味、返却フォーマットなどをLLMが理解しやすい形で定義しないと、誤った呼び出しが発生しやすい。
特に、コードのdiff形式やJSON形式など、LLMにとって書きづらいフォーマットを強要すると精度が落ちることがある。
「こんな入力が来たときにこう返す」「ファイルパスは絶対パスにしないといけない」など、誤りを起こさない設計(ポカヨケ) を組み込むとよい。
Anthropic自身も、SWE-benchのエージェントを作るときにツールへの入力フォーマットやパラメータ名の最適化に多くの時間を費やしたそうです。これはまさに、エージェントと外部システムの橋渡しとして、「ツール定義がHCI(Human-Computer Interface)並みに重要」という考え方を示しています。
実用的なAIエージェント構造例
ここでは、Anthropicが示す「Building blocks, workflows, and agents」を踏まえつつ、具体的なシナリオ例をもう少し詳しく図解します。
例1: 複雑な問い合わせ対応のエージェント
ユーザーが問い合わせてくる内容が多種多様で、しかも状況によって使うツールが変わる…というケースを想定します。
Routing (振り分け)
まずは問い合わせ内容を分類する(例: 返金リクエスト、配送ステータス確認、技術サポートなど)。
Orchestrator-workers
メインLLM(オーケストレーター)が「返金が必要か?」「配送状況をチェックする必要があるか?」を判断し、各タスクをワーカーLLMに投げる。
ツール呼び出し
返金ツールや顧客データベースを使い、必要な処理を実行。
Evaluator-optimizer
ユーザーへ提案する前に、別のLLMが内容をレビューし、誤りや不適切表現がないか評価。
ユーザーへ回答
問題が解決しない場合は再度別のステップに戻って処理を繰り返す。
このようにRoutingとOrchestrator-workers、そしてEvaluator-optimizerを組み合わせたフローが、Anthropicが紹介している複数のワークフローを統合的に使う例です。
例2: コード修正エージェント (Evaluator-optimizer活用)
ソフトウェア開発で多いのは、「特定の機能を改修して、テストが通るようにする」タスクです。エージェントで行うと下記のような流れになります。
Orchestrator(メインLLM)が改修対象ファイルを判断
ワーカーLLMが各ファイルの修正を行う
テストツールを呼び出して結果を確認
Evaluator(別のLLM)がテスト結果や修正内容をチェックし、修正案をフィードバック
テスト合格 or ループ回数上限まで繰り返し
エージェント導入のメリットと注意点
ここまで見てきたように、エージェントには高い柔軟性とタスク自動化のメリットがあります。しかし一方で、コストや応答遅延、誤作動時のデバッグ難易度などのデメリットもあるため、Anthropicは次の3つの原則を提唱しています。
できるだけシンプルに設計
無闇にステップ数やツールを増やさず、本当に必要な構成だけで始める。
透明性を確保する
可能であれば、エージェントの思考プロセス(計画段階)を明示する。何を意図してツールを呼び出しているのか、あいまいにしない。
エージェントとツールのインターフェース(ACI)に工夫を凝らす
ツールのパラメータ設計やドキュメントを丁寧につくり、LLMが誤らないようにする。
たとえば、パス指定は絶対パスのみ対応にする、APIの引数をわかりやすく命名するといったポカヨケを施す。
組み合わせとカスタマイズ
Anthropicは、「ワークフローとエージェントの境界は厳密ではなく、必要に応じて組み合わせ可能」 と言っています。例えば、
ワークフロー的に何ステップかに分けつつ、その一部でエージェント的な柔軟ツール呼び出しをする
Routingだけワークフローで固定、実際のタスク実行をエージェントに任せる
Evaluator-optimizerのところだけ別のLLMを使う
など、「ビルディングブロック」のように好きな要素を組み合わせて使う、という発想です。
また、必要以上に複雑化しないように、「最初はシンプルに作り、結果やKPIを見つつ必要な部分だけ拡張する」 のが実務的なアプローチになります。
まとめ
今回は、Anthropic社の「Building effective agents」を参考にしながら、AIエージェントの本質や具体的な構成例を詳しく解説しました。ポイントをざっくりおさらいすると:
エージェントの本質: 自律性を持ち、外部ツールを活用しながら学習・行動する。
シンプルなアプローチ優先: まずはワンショットや簡単なワークフローで解決できないか検討する。
さまざまなワークフロー型: Prompt chaining, Routing, Parallelization, Orchestrator-workers, Evaluator-optimizerなどで必要に応じて分割し、LLMを複数回活用。
完全に動的なエージェント: 上記ワークフローより自由度が高く、柔軟にツール呼び出しや計画を変更しながらタスクを進める。
フレームワーク使用の注意: 使いすぎるとデバッグしにくくなる。まずはLLM APIを直に試して中身を理解する。
Prompt engineering your tools: ツール定義とLLMのインターフェース設計(ACI)が、エージェント性能を左右する重要ポイント。
導入事例: カスタマーサポートやコーディングエージェントなど、会話とツール操作が一体となったタスクで特に効果を発揮。
組み合わせは自由: 必要な機能・精度・予算に合わせてワークフローとエージェントを組み合わせることが現実的。
AIエージェントが普及するにつれ、「何でも自動化できそう」という期待感と同時に、複雑さ・コスト・ガードレール設計などの課題も明らかになっています。Anthropicが提案しているように、まずはシンプルに始める→効果を測る→必要なら段階的に拡張というステップを踏むことで、堅実かつ実用的なエージェントを作れるでしょう。
最後に、エージェント開発のTipsとしては以下のようなものがあります。
ヒトがやるべき重要なチェックポイント(コンプライアンスや大きなコストがかかる操作など)は手動承認を挟む
テスト環境を用意して、Agentが外部リソースを破壊しないように注意
ツール呼び出しのログを記録・可視化し、いつでも追跡できるようにする
フレームワークに頼りすぎず、LLMのプロンプトとツール定義を常に意識する
これらを踏まえれば、業務の一部を効率化・自動化しながら、必要なコントロールを保つことができます。エージェントを導入する際は、ぜひ本記事で紹介したAnthropicの知見を参考にしてみてください。
追記: もう少し噛み砕いたQ&A
Q1. エージェントとただのチャットボットは何が違うの?
A. チャットボットは基本的にユーザーとの会話だけで完結しますが、エージェントは会話だけでなく、外部ツールやデータへのアクセス、連続したタスク実行などを自律的に行う点が大きく異なります。
Q2. ワークフローとエージェントの違いは?
A. ワークフローは事前に決められた順序や条件分岐に沿って処理を進めます。エージェントは、LLMが自由に「いつ・どのツールをどう使うか」判断しながら進めるため、より動的で柔軟です。
Q3. フレームワークは使ったほうがいい?
A. 開発を素早く始めるには便利です。ただし「プロンプトやツールの中身が見えにくい・デバッグが難しくなる」というリスクもあるので、フレームワークの下で何が起きているか把握できる人が使う方が良いとは思います
Q4. ポカヨケ的なツール設計って具体的には?
A. たとえば「ファイル名を間違えないように、API引数名をabsolute_file_pathにする」「入力例を豊富に提示する」「diff形式ではなくフルコード置き換え形式にして、LLMが行数を数えずに済むようにする」など。LLMが失敗しにくいように、使い方を厳格化・明示化します。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
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