美しい風を掴む女性〜鈴木美帆子 前編
はじめに
今回ご紹介いたしますのは、2019年アメリカ『TIME』誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたこんまりこと近藤麻理恵さんの片づけ「こんまりメソッド」普及のために設立された会社、KonMari Media Japan株式会社で、コンサルタントコミュニティディレクターを務める鈴木美帆子さんです。
男女を問わず、とにかく周りから愛されまくる彼女の、ここでしか聞けない驚きの山あり谷あり暴風雨あり!?な、なんとも愛おしい半生から、その愛される秘訣を紐解きましたので、ぜひ最後までお付き合いくださいますよう、よろしくお願い致します。
目次
【前編】
プロローグ
1章 お母さん
2章 理想の男性
3章 お父さんの作戦
4章 国際結婚
【後編】
5章 キャリアを築く
6章 美帆子の志
7章 豪華客船
あとがき
プロローグ
「自ら選んで堂々とやってるはずなのに、経済的に自立してないことがどうしてこんなにも精神的な自立を妨げるんだろう。」
ごく普通な主婦だった彼女がずっと抱いていた疑問は、ついに志へと変わっていく。
彼女、鈴木美帆子は、学生、社会人、専業主婦、兼業主婦、経営者、女性のライフステージでよく挙げられるもの、その全ての道を通ってきた。どの道も華々しく、またそのどれにおいても悩みや苦労を経験してきた。その中で育まれてきた優しさとしなやかさを兼ね備える彼女の次なる目標は「経済的に自立して、精神的にも自立した女性を増やす」というもの。これまでの人生で、やりたいと思ったら、とにかくその方法をくまなく探しだし、自分らしい方法でそれを叶えてきた彼女。この目標も例に漏れず、彼女は今全力でその道を模索し動き始めている。
「美しい風をいっぱいに受けて進んでいく女の子」という字を名前にもつ美帆子は、その名の通り、追い風も逆風も自分が「これだ!」と感じた風をいち早く察知して、アプローチする角度を変え、使う帆を変えながら、全てを自分の動力に変え前進していく。
KonMari Media Japan(以下、KMJ)のスタッフとして、『こんまり®流片づけコンサルタント養成講座』の受講を検討している方向けの個別電話相談の中で、その時その人にとって必要なお話やアドバイスをしていると、それがキッカケになって前進する人がいるんです。そんな時の『背中を押せた!』っていう感覚が、今私の中で1番のときめきなんです。」と美帆子はとびきりの笑顔で話す。
自分らしさを咲かせたい女性を応援したい、そんな想いを胸に今彼女は、その帆いっぱいに美しいときめく風を受け、新しい世界の大海原を進んでいく。
1章 お母さん
日本有数の美しい古都である鎌倉にある、代々継がれてきた酒屋を営む昔気質で頑固を絵に描いたような商売人の父と、優しくて健気で人に尽くすことが大好きでおっとりとした母のもとに生まれた。名前は鎌倉鶴岡八幡で数ある候補の中から、両親が「これだ!」と選ばれた名前が「美帆子」だった。2人兄妹の兄とは9才離れた待望の女の子は、それはそれはみんなに可愛がられて育った。中でもお母さんは美帆子を蝶よ花よと彼女を溺愛した。お母さんは若き日に自身が学びたかったが金銭的な事情や、女性だからと叶わなかった学習への意欲を情操教育に託した。愛娘がお腹にいる頃から熱心に英語のテープを聞かせ、少しでも英語が話せるようになったらそれをとても喜んで、通りすがりの外国人を見つけては
「ほら!みーちゃん!!英語でお話してみて!!」と娘の背中を押した。
小さな美帆子もママが喜ぶのが嬉しくて、誠実にそのオーダーに応える。
「ハロー、アイムみほこ!」と彼女が話すと、
異国の地で、小さな女の子に突然話しかけられた大人たちは「なんてかわいいのー!お話が上手ね!」と大喜びし、それを見ていた母は「みーちゃんは本番に強いね。」という成功体験を積ませた。後から考えると、これが良い意味での洗脳だったのかもしれないと彼女は振り返る。
お母さんもまた当時を振り返り、自分自身が商人の家にお嫁に来て、やりたいことを全くやらせてもらえない環境から、娘には好きなことを好きなだけできる女性になってもらいたいという、夢を託したのだと話す。
大人に褒められると得意になって、美帆子はどんどん英語が好きになっていった。幼稚園に上がる年になると、母は近くの幼稚園を勧める周りの意見を押し切って、家から車で通わなくてはならないが、教育熱心なママたちが集う、英語が学べるナーサリー(保育園)に入園を決めた。
ナーサリーではバトン、剣道、英語のレッスンがあり、特に英語レッスンは先生が完全英語しか話せない本格的なものだった。
そんな園生活の中、美帆子が大嫌いだったのがお昼寝の時間だった。どうすればお昼寝をしなくて済むのか考えていたところ、小さな子どもたちのクラスがお昼寝の時間、年長さんは英語のレッスンを受けていることを知る。そして、美帆子と同じ年中クラスにいた、園長の孫で主任の娘だった仲良しのお友達だけが、特別にお昼寝を免除され、その英語レッスンを受けていることを知った。
「クッソー、いいなぁ」と思った幼い美帆子は、家でそれをぼやいた。
「Sちゃんだけ受けていいな。年長さんと英語習ってるんだよー」と美帆子。
戦略家のお母さんはこのぼやきを見逃さなかった。
「みーちゃんも英語習いたいなんて素敵なことを考えたわね。じゃあナーサリーの先生にみーちゃんからまずお話ししてみなさい。」とお母さん。
翌日、お母さんに言われた通り素直な少女美帆子は先生にお願いする。目を輝かせて、英語を勉強したいと話す幼気な園児の気持ちを無下にするわけにもいかなくなった担当保育士は、お母さんに電話をし事情を話した。
するとお母さんはこう切り返す。
「あら、お騒がせしてしまいまして。私としましても娘がそこまで言っているのなら、ぜひその気持ちを応援してあげたいと思うんです。先生どうぞよろしくお願いします。」してやったりだ。
この瞬間完全なる母と美帆子の勝利が決まったのであった。あっという間にことは運び、仲良しのSちゃんと2人、一つ上の年長クラスに混じって英語を習った。もちろんお昼寝は免除である。
それから先これまでの人生において、お母さんは常に美帆子の絶対的な味方だった。たとえば何か問題を起こすことがあったとしても
「あなたは大丈夫。あなたは特別だから」という母から常に送られる揺るぎのないメッセージは、美帆子の大きな自信に繋がっている。
余談だが、このナーサリーでのお昼寝回避作戦からはじまった英語の先生のご縁は彼女が高校を卒業するまで続き、長きにわたって美帆子は英語を習うことになる。ナーサリーを卒園した後でわかったのだが、「英語しか話せない=外国人だ」と思っていた先生は、実は日本語を余裕で話す、純粋な日本人だということがわかった。そして、どこまでも優しい母が唯一、美帆子に強く言ったのが、英語教室を休みたいと話したときだった。この話を切り出した時、お母さんは形相を変えて商売用の大きな電卓を幼い美帆子の目の前ではじき、
「みーちゃん、英語レッスンのお月謝が月8000円なのね。って言うことは月4回だから1回2000円なの!と言うことは15分500円かけて、あなたは英語を勉強しているのよ。わかる?!」と話した。小学生の頃、美帆子にとって500円はお友達の誕生日プレゼントを買う予算と同じ金額だったことから、それがどれほどの額なのか想像しやすかったこともあり、幼い彼女にとっては衝撃だった。
「レッスンの時間は1分たりとも無駄にしてはいけない!」
そんな思いが強く心に刻まれ、それ以来英語教室の授業にはとても熱心に向き合うようになったという。そんな美帆子を見て、お母さんは、
「みーちゃん一所懸命ねー。えらいねー。」とまた褒めてくれるのであった。
成長するにつれ月謝も上がっていく。ということはもちろんこの一回あたりの単価も上がるので「この時間で必ず聞きたいことは全て聞き尽くすぞ!」と、毎回心してその時間に臨むようになっていった。この経験から美帆子は支払った分は絶対に元を取ろうという商人気質の根性で何事も挑むようになり、学びを最大限に得ようと貪欲に取り組む積極性を身につけたのだ。
2章 理想の男性
小学校入学と同時に美帆子の黒歴史が幕を開ける。
未就学児の頃はどこへ行っても大人たちに「かわいい」「よくできる」と言われてきた美帆子。無意識の内に自分はどこかで特別なのだと思うようになっていた。
しかし、子ども社会というのはなんとも残酷で、それは時として大きなトラウマを作る。彼女のそれは、なんてことのない小学校に入学したばかりの1日の終わりの会で始まった。美帆子の席のすぐ隣の席にクラスでも注目される男の子がいた。その前の席には、クラスのマドンナ。さようならの挨拶の時、起立し礼をしたマドンナのスカートがひらりとめくれて、パンツが丸見えになった。幸か不幸かそれを偶然目にした隣の男子を偶然目にしてしまった美帆子。
「きゃー!今パンツ見てた!!エッチー!!」と美帆子はからかった。
すると教室を出た所でちょっとついてきてくれと、男子が顔を真っ赤にしながら、美帆子を呼び出した。(あれ?これってもしかして、私が告白されちゃうの?)と心のどこかで乙女な何かが呟き、恥ずかしさから少女美帆子はちょっとうつむきながらついていった。昇降口の外、
「なぁ、鈴木」と声をかけられ目を挙げると、パンツを下ろしてすごい形相で彼は立っていた。
「やーい!これでお前もエッチだからな!」
なんと美帆子はからかった彼から返り討ちにあったのだ。
「パニックっちゃって、なんとか事態を理解しようと小学一年生の頭をフル回転させ、たどり着いた答えが、『きっと彼は、パンツを見られたことを暴露されて傷ついたマドンナの仇を取ろうと、ブスな私を懲らしめるために、あんなことをしたんだ。』だったんですよね。今考えるとただからかわれたことに腹を立てて仕返しをしただけだろうし、ブスって言われたわけでもなかったのに。でもここで、完全に自信を無くしちゃって。」と美帆子は苦笑いしながら当時を振り返った。
この経験がトラウマになり、男子生徒とはなかなか話すことができなくなった美帆子は、ぱっとしない学生時代を過ごした。ただ、はっきりものを言う性格もあって、決して目立たない存在ではなかった。
異性と話せなくても思春期の女の子、心の中には理想の男性像があった。その根幹には9歳上の
お兄ちゃんに言われた言葉があった。
「美帆子、電車で女の子を立たせるような男とは付き合っちゃダメだよ。女の子はヒールを履いていたりして、それだけで大変なんだから。それをしっかりわかってくれる男を選ぶんだよ。」
幼いが少しおませだった少女の心に、9歳年上で大人でレディーファーストな尊敬する兄の慈愛に満ちたこの言葉はしっかりと深く刻まれ後に美帆子を悩ませることになる。
3章 お父さんの作戦
学生時代、勉強が嫌いじゃなかった美帆子は、学校の中でも勉強ができる生徒だった。英語をずっと習い向き合い続けていたこともあり、勉強することに慣れていたのかもしれない。変わらず英語も大好きで、英語に特化した高校の校風に、ナーサリーから続けていた英語教室での学習もあいまって、美帆子のMade in Japanな英語のスキルはどんどん磨かれていった。海外への憧れもあったが、学生時代にそれが叶うことはなかった。というのも、昔気質な父は美帆子が勉強することをとても嫌がったからだという。
「女の子は勉強なんてしなくていい。必要最低限の教育を受けたら、そのあとは近くで嫁に行けばいいんだ。」と口にするのだった。
本意はわからないが、あまりにもかわいい愛娘が勉強をして遠くに行ってしまうことが寂しかったのかもしれない。学生時代、自他ともに認める秀才であった美帆子はそんな父の考えを理解できずにいた。高校卒業も迫り大学への進路を決める頃、父は強く高校付属の短大を勧めた。進学校だった高校の中でも勉強ができた美帆子だったので、大学でも学びたいという気持ちはあったのだが、家計を引き合いに出され、短大を出てすぐに働いてもらわないと困ると言うのだった。結局押し切られて短大に進学した美帆子を見て、父はしてやったりと思ったのかもしれない。しかし、美帆子の海外への思いは短大へ進学しても抑えきれなかった。
高校3年生の夏、ひょんなことから異性と話ができるようになった美帆子。帰国子女の男子とデートをすることになった。場所は鎌倉の花火大会。張り切って浴衣を着て出かけた。途中コンビニに寄り飲み物を買い、一つの袋に入った袋を持って2人で歩く。
「え?」
美帆子は違和感に気付く。そう、袋を持っていたのは美帆子。浴衣を着て、荷物を持ち、履きなれない下駄で歩く女性美帆子が袋を持っている。これはおかしいと、やんわり袋を持って欲しいと頼んで、その違和感から目をそらした。
花火が見える浜辺に着き、持ってきたピクニックシートを取り出し、地面に敷く。
「え?」
またもや美帆子は違和感に気付いてしまう。そう、ピクニックシートを敷いているのは美帆子。浴衣姿の自分が地面に這いつくばって、シートを敷いている。彼はというと、隣でボーッと突っ立っている。
「うん、ない。」
この時点で彼女はこの日の目的をデートではなく、楽しい友人とのお出かけにあっさり切り替えた。
海外の文化にふれ、多少なりともレディーファーストな文化にも触れているであろう、帰国子女ですら日本人男子は結局このレベル。美帆子が兄に言われていた、レディーに対する姿勢のカケラもない。そんな悩みを抱える彼女の目に飛び込んできたのが、ある女性雑誌の何気ないコラムだった。日本でどんなに冴えない女の子でも海外留学すると、彼氏ができて帰ってくるという内容を見て、彼女の悩みは確信に変わる。
「外国人だ!!」
そのコラムには美帆子がコンプレックスに思っていた切れ長の目も、海外ではクールビューティーと称され、モテる要素だと書かれていたり、読めば読むほど自分が海外で受け入れられるであろう確信が深まっていった。
かくして父の娘をそばに置く作戦とは裏腹に、美帆子はどんどん海外に興味を持っていった。
失敗すらも糧にすることが美帆子のポリシーである。短大に進学後は第二外国語の体得に燃えた。高校時代、第二外国語として履修したフランス語を体得できなかったことがどうにも悔しかった美帆子は、短大ではなんとかもう一ヶ国喋れるようになりたいと考えていた時、スペイン語は簡単という噂を聞き履修選択した。短大で習うだけでは足りないと、母の友人のスペイン語教室にも通った。その講師のパラグアイ人の女性はとても陽気な人で、レッスンの後必ず踊る。サルサやラテン系の音楽、文化に触れるうちに美帆子はすっかり虜になりっていった。
4章 国際結婚
学生の頃から心掛けていることがある。それは進みたい道がいくつかあったら、必ず現地へ行ってその場に流れる空気が自分の肌に合うか徹底的に体感することだ。
「ホームページの情報って、どこも必ずいい状態のものを出すじゃないですか?そうじゃなくて、バックヤードだったり、お手洗いだったり、そこにいる人たちの活気みたいな、全体の空気が本当に自分に合うのかが大事だと思うんです。だから、必ず選ぶ前に現地に行くようにしています。」と美帆子は話す。
短大卒業後に新卒で就職先もそうやって選んだ。接客業の中でも、トップクラスの接客がしたいとホテルマンを志した美帆子は、気になるホテルを全てリストアップし、片っぱしから現地に足を運んだ。中でも、フォーシーズンズホテルはバックヤードが美しいことに惹かれた。煌びやかな表舞台から裏に入っても美しいことが、社員を大事思う経営者の気持ちのように感じたからだった。調べたところ新卒の求人はなかったけれど、美帆子はこれくらいのことでは自身のときめきを諦めない。問い合わせフォームに応募したい思いと、自分のセールスポイントをまとめ送信し、担当者と何度かやりとりする中で、契約社員の求人説明会の情報を聞きだし、見事そこから採用をもぎ取った。が、そんな思い入れのある職場も、志し半ばで退職することになる。おめでたで寿退社することになったのだ。そして美帆子のライフステージは専業主婦へと変わっていたのだった。
美帆子のお相手は、短大時代に手伝ったイベントで出会った某大使館で働くラテン系の男性だった。16歳年上の彼はとても紳士な対応で、美帆子を一流のレディーとして扱い常にレディーファースト。彼女の小さな変化も見逃さず、いつも彼女をさりげなく褒めてくれた。しかもとても真面目で、約束の5分前には必ずくる。ラテン系の男性は30分遅刻なんて当たり前なのに!
「やっと理想の男性に出会えたと思ったんです。今になってわかるのが、日本の大使館で働く人だから、遅刻には気をつけていただろうし、レディーファーストってあくまで文化や習慣であって、決してその人の個性ではないんですよね。でも21歳の当時は『もう私にはこの人しかいない!』と思っちゃったんですよね。」と美帆子はどこか遠い目で当時を振り返った。
後編は
5章 キャリアを築く
6章 美帆子の志
7章 豪華客船
あとがき
をお届けします
interviewer:masaki
writer:hiloco Nakamatsu
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