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横浜フットボール映画祭「LFG—モノ言うチャンピオンたち —」、すべての闘う女性たちにエールを

レビュー masako 

 アメリカ女子代表チームは、かねてより男女の賃金格差の是正を主張していたが、2019年、雇用主である米国サッカー連盟を訴えた。それは、女子ワールド杯フランス大会を3ヶ月後に控えた、国際女性デーの3月8日だった。この映画は、その彼女たちの苦難の道程のドキュメンタリーである。
 アメリカ女子代表が優勝し、晴れやかな笑顔でスピーチする、ミーガン・ラピノー選手の姿を記憶している人も少なくないであろう。
 私は、この映画を視聴者レビュアーとして拝見させてもらった。「女性である」ということで労働条件など、理不尽な思いを抱えて闘う女性、それは私自身を含めて、エールを送る映画だと思った。

トランプ前大統領とSNSでやり合ったり、堂々たる姿が印象深いラピノー選手であるが、「イコールペイ」の闘いは、長く苦しい道のりだった

 ここで話は少し個人的なことに移る。私は、5月にUSAの女子1部リーグ、NWSLに所属する、ロサンゼルスのAngel City FCとノースカロライナ州のNC Courageの計3試合を観戦した。プロボノ(※1)活動で制作しているファンマガジンの取材と、それぞれに所属する、元日テレベレーザの遠藤純選手(ACFC)と三浦成美選手(NCCourage)のファンとして、さらに、二人に、ベレーザサポーターさんのメッセージの寄せ書きを届ける目的があった。

Angel City FC遠藤純選手、NC Courage三浦成美選手、サポーターのメッセージを届ける

 NC Courage の試合は、ホームでAngel City FCを迎える1戦である。North Carolina のローリダーラム(Raleigh-Durham)空港で、ACFCのジャージを着た女性をお見かけした。私は、嬉しくなり、スマホにあるAngel City FCの試合後の遠藤純選手の写真を見せながら、ご挨拶した。すると彼女は、「私は、ジェネラルマネージャーです」とにこやかに応えてくれた。彼女の優しい対応にホッとしながら、私はショックを受けた。日本で、このような、現場のトップに女性がつくことはほぼない。保守的な大企業や政治、大学教育でさえ、女性の管理職は、男性社会に逆らわない、お飾りであることが未だに多いだろう。頑張っておられる方も、あまり日の当たらぬ場所で、孤軍奮闘の感が強い。
 ホテルで慌てて調べると、彼女は、Angela Hucles Manganoという元オリンピック女子代表で、アメリカ女子サッカー界でも著名な人物だった。さらに、LGBTQであることを公表し、SNSアカウントにはお子さんの写真もあった。日本女子サッカー界とUSAとの差は常日頃より見聞きしていたが、日本の女子選手の境遇を思いうかべると、その差は愕然とするものがあった。思わず、「女工哀史」という言葉が浮かんでしまった。

AGFCの本拠地、BMOスタジアムの華やかなゲートの一つ

 NWSLに所属する選手の年棒は、長らく、そう高いわけではなかった。リーグをクラブ全体で運営し、選手はサラリー制をとっている。代表選手も、各クラブにバランスよく配置されている。これは、男女とも一度リーグが破綻した経験から、どうすれば生き残れるか、よく考えられた知恵なのだ。アメリカは、組織を作らせると世界優秀だ。
 サラリー制ではあるが、男女とも、選手のプレー環境は十分整えられ、大学進学の配慮もなされている。クラブ運営も無理のないスタジアム基準やその確保、リーグとしての集客やスポンサー獲得のためのノウハウなど、リーグとしての発展を考えるシステム構築がある。同じくサッカー先進国ではない日本も見習うべき点が多々あると私は思っている。ご興味のある方は、MLSに勤務された実業家である中村武彦さんの著書「MLSから学ぶスポーツマネジメント 」(※2)をお勧めする。

中村武彦著「MLSから学ぶスポーツマネージメント」(東洋館出版社)

 加えて、この映画にも出てくるが、NWSLは、1999年女子W杯優勝のメンバー、ミヤ・ハム選手や、ブランディー・チャスティンなど、少女の憧れとして発展してきた(※3)。

ファンにサインするラピノー選手。NWSLでは少女たちの憧れとして発展してきた

 私が見たAngel City FCは、オーナーに女優のナタリー・ポートマンさんも名を連ね、ファンションメーカーとのタイアップで、選手のスタイリッシュな着こなし写真がどんどん配信され、ロサンゼルスという都会にふさわしい、華麗でリベラルなブランディングが繰り広げられている。

ACFC BMOスタジアム。演出と選手の親しみやすさに、思わず応援したくなってしまう

 NC Courageは、オーナーに大坂なおみさんも加わっている。ACFCのような規模ではないが、豊かな東南部の学園都市にふさわしく堅実な雰囲気で、ハーフタイムには、ピッチでマスコットとたくさんの子供たちが記念撮影をしていた。

NC Courage、ハーフタイム。アメリカのスタジアムは「楽しもう」の精神にあふれている

 なお、2022年、選手組合とWNSLの協定で、このサラリーのベースがアップした(※4)。これは、2021年に選手により告発された、NWSLにおける元監督によるセクシャルハラスメント問題を、選手会が連盟と協議してきた成果でもある。

Jessica Macdonall選手は、子供を抱え、長らく、コーチなどの副業をしながら生活費の工面に追われていた

 アメリカのジェンダーギャップ指数についても、2022年で27位(日本は、116位)で、国力に比べても決して高くはない。しかしながら、アメリカと日本の大きな違いは、問題を明らかにして、なんとか解決しようという気運がある点ではないか。これは私観であるが、アメリカは、欧州などに比べて国家としての歴史がないので、ユナイテッドして力を合わせないと国家が成り立たない。

 そんなアメリカでも、女子代表選手の「イコールペイ」の闘いがこんなに大変な、長い道程だったとは、私の想像以上で無知だった。YFFF2023のポスターイラストにもなった、2019年W杯のラピノー選手の誇らしげなゴールパフォーマンスの裏には、このような苦労があったとは(このポーズの意味も映画に登場するので、お楽しみに)。

 まず、彼女たちが連盟を訴えた時に、SNSなどで、「台所から出るな」などの批判(というよりバッシングである)が殺到したという。MLS(メジャーリーグサッカー、アメリカ男子1部)のあるクラブの、欧州元代表選手の監督の発言には、「懐かしいお方が」と思うと同時に、「2019年W杯、あなたの母国の女子代表も頑張っていたけれど。男子はW杯出場を逃しても」と思わず苦笑してしまった(これも、映画の中のお楽しみに)。

 連盟が最終的に出した、苦し紛れの言い逃れのような法的論拠に、彼女たちはどれほど悔しかったことであろう。けれども、彼女たちの誰一人として、諦めようというものはなく、試練のたびに結束力を高め、互いを気遣い、励まし合う。二度とあの耐える生活に戻りたくない、前に進むしかない、「私たちは運命共同体」という決意に胸がいっぱいになり、共感を覚える。
 アメリカ女子代表メンバーについて、その性格や役割を互いに説明しているシーンがある。優しさと思いやりに溢れていて、とても好きなシーンだ。また、「アメリカ代表選手も、いろいろな個性があるのだなあ」と見ている人も、親しみを覚えるのではないだろうか。サッカーはチームで闘うスポーツだ。彼女たちが、この長く厳しい闘いをやり遂げたのは、一人でなかったからだろう。

 「モノ言う」ことは、そう容易いことではない。なぜなら、「力」により支配するものは、支配されるものたちの横の連携を断ち切らなければならない。連帯されては、自分の立場が危うくなる。さらに、これは、独裁政権下やハイジャックの密室でいわれていることであるが、人間の恐怖心はその源ではなく、同じ被害を受けている立場の人やさらに弱いものへ向かいがちだ。人のこころは弱い。
 世界の頂点に立ってきたアメリカ女子選手でさえ、ラピノー選手が招集したミーティングで、「雇用主を訴えることは恐ろしかった」「クビになるかもしれない」「全てを失ってしまうかもしれない」とまず考えたという。

 私は、NWSLのサッカーが好きだ。パワフルで、選手たちは美しい。この映画のプレーシーンはそんな彼女たちの魅力であふれている。そのゴール、勝利の背景には、このような悲壮な決意、意志があったのかと改めて、感動を覚えた。
 2011年、日本女子選手が優勝した時に、「彼女たちの方が私たちより勝利を必要としていた」と思いやるアメリカ代表選手がいた。日本女子選手は、3月11日の東北大震災後、「プレーしていいのか」「W杯に出場するからには、優勝を日本に届けたい」という決意で望んでいた。
 2019年W杯、アメリカ女子代表は、常に勝利という結果を出すしかない、という覚悟で闘っていた。

 この映画を見ながら、日本女子代表や女子サッカーの推移も改めて思い出した。
 2011年、日本女子代表が、前回チャンピオンドイツや、王者アメリカを破って、しかもバルセロナのようなポゼッションサッカーで優勝したことは、世界に衝撃を与えた。欧州各国の女子サッカープロリーグ化や強化に、大きな影響を与えたのではないか。
 2002年、「ベッカムに恋して」(原題: Bend It Like Beckham)という女子サッカーを舞台にしたイギリス映画が公開された。ラストシーンで、主人公たちは、プロリーグ入りするために、アメリカへ旅たってゆく。それから20年、女子サッカーの環境は劇的に変わった。逆に言えば、女子サッカーは、つい最近まで全く前近代的な扱いだった。

試合後場内を一周しながら、ファンにサインし、写真撮影に応じる遠藤純選手

 日本ではようやく2020年、女子プロリーグが、トップダウン式であるが「WEリーグ」としてスタートした。しかしながら、まだまだ課題は山積みと言わざるを得ない。
 そもそも日本では、女性が「声をあげる」ということも大変難しい。「フェミニズム」という言葉さえ、未だ男性優位のねじ曲げられた解釈が横行し、バッシングに使われ、「私はフェミニストです」ということさえはばかられる。
 医学部入試女性差別問題が発覚した時に、ある年齢より上の世代の方は、「声を出していいんだ」「言って、変わるんだ」ということにまず驚かれたのではないか。そして、男性優位の採点操作がなくなったら、女子の合格者数が、男子を上回ることとなった。
 
 映画の中では、弁護士が挙げる、アメリカ代表の男女の待遇差についての数字も大変興味深い。報酬額だけでなく、ホテルは、男子、5つ星、女性は、安いモーテル(私も泊まりそうな)。移動は、チャーター機、女子はエコノミー。
 それでも、日本女子代表の2011年W杯の優勝ボーナスが当初150万円で、追加でプラス500万円と聞いたら、さすがのアメリカ女子も驚いてしまうのではないか。この時、「あんまりだ」という声もSNSで見かけたが、「サッカー界の動くお金が、男子とは違うのだから」という反論も見かけることが少なくはなかった。そういう類の理屈は、この映画でもよく出てくる。

 FIFAは今月8日、2023年女子W杯の賞金を優勝チームの登録全選手に27万ドル(約3750万円)ずつを支払うと発表した。さらに、26年と27年の男女のW杯までに報酬格差をなくすそうだ。プロリーグとして、すっかり世界の主要国に遅れをとっている日本であるが、このFIFA決定が、改善への後押しになってくれることを願う。

代表戦に向かうMcdonall選手。家を提供してくれる人が現れ生活が落ち着くまで、練習場でおむつ替えもしていた

 映画のレビューが、NWSLや女子サッカーにどんどん話が広がってしまった。それくらい、私は、この映画には刺激されるものが多々あった。
 この映画は、きっと女性ということで、理不尽な思いをしている人たちの励ましとなることだろう。そして、日本や世界の女子サッカーへの理解に役立ってくれることを願ってやまない。ぜひ、横浜フットボール映画祭や、シネマ・ジャック&ベティでご覧になっていただきたい。

【上映スケジュール】
6/17(土) 19:10-21:27 かなっくホール
ゲスト:髙田春奈(WEリーグチェア)、能條桃子(NO YOUTH NO JAPAN代表理事/FIFTYS PROJECT代表)、石井和裕(WE Love女子サッカーマガジン主筆)
6/22(木) 20:00-
シネマ・ジャック&ベティにて追っかけ上映

引用文献、注釈
※1)  仕事の専門性スキルを活かして行う社会的貢献活動。
※2) 中村武彦. MLSから学ぶスポーツマネジメント. 東京: 東京館出版社; 2018.
※3)  NWSLについて、カメラマンでライターの山田智子さんのweb記事シリーズがよくまとめられているので、ぜひ、参考に。
sportie.com 連載『女子サッカーを文化にするために カナダW杯決勝の衝撃から学べること』、第2回 東京五輪は日本女子サッカーの「夜明け」となるか
https://sportie.com/2015/10/womens-soccer2, 最終閲覧2023年6月13日

※4) 参照 Dan Orlowitz
https://twitter.com/aishiterutokyo/status/1488376759582326784?s=20 , 最終閲覧2023年6月13日


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ma_sako
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