[TGS2022振りかえり] 韓国のゲーム、今年は通訳や翻訳で紹介されただけ?後編
前編の記事では、日本人のMCがしゃべる(韓国のゲームの)公式番組がなかったという話を書いた。たしかに公式番組の中にそういうものはなかったのだが、TGSの4日間にIGN Japanが配信している「ずっと一緒に生中継」(Day2)では、CRESTがパブリッシングする新作ゲームの紹介コーナーがあり、韓国のインディーゲームも1つ紹介された。『BLACK WITCHCRAFT』という2Dアクションゲームで、少女の体に憑依した魔女が、槍や斧に変形するカバンを振り回して華麗に戦う! 9月27日にSteam版が発売された。
このコーナーが、今年のTGSで唯一、「日本語で」出演者が韓国インディーゲームを紹介する場だったかもしれない。こうやって韓国のゲームを紹介してくれる人がもっと出てきてほしい!と、ただ願うばかりである。
【追記】インディーゲーム選考出展78社のゲームを紹介する番組『INDIE GAME TOKYO』がTGS開催より3週間ほど前の8月24日(水)に放送された。ここで選考出展の韓国インディーゲームが4作品紹介されている。
日本のユーザーに親しみやすい形でゲームの情報を届けるには、日本の現地人であるパブリッシャーやメディア関係者の協力が大きな助けになる。それは自明のことだが、韓国のインディーゲームパブリッシャーの何社かは、韓国人ばかりで仕事をしていて、日本人の協力者がいないように見えるのだ。翻訳や通訳だけ頼めば日本市場に進出できるかというと、そんなに単純ではない。
CRESTは新宿に拠点を持つ日本のパブリッシャーであるが、去年は『メタリックチャイルド』『ARIA CHRONICLE』『Last Light』を手がけ、その後も韓国のインディーゲームに携わり、今年はTGS初出展を果たしている。韓国のインディーゲームは日本のアニメに近いビジュアルのものが多くて親しみやすく、ふらりとCRESTのブースに立ち寄った来場者が、未知のインディーゲームに触れられる場になっていただろう。中でも比較的知られている『メタリックチャイルド』はDLC第2弾が発表され、『BLACK WITCHCRAFT』の情報や、『ARIA CHRONICLE』の制作会社の新作『PROJECT TACHYON』の情報が出て、『ALTF4』というおバカな死にゲーの試遊ができた。
さて、他に韓国のゲームが試遊できるブースはというと、韓国コンテンツ振興院(KOCCA)の支援で15社が集まって出展しているKOREA PAVILIONや、前編の記事で紹介した『Limbus Company』のProject Moonブースがあり、ハピネットのブースでは、懐かしの戦車ゲーム「ポトリス」をSwitch向けにアレンジした『ポトリスS』が試遊できて、リズムゲーム『シクスターゲート・スタートレール』のSwitch版もプレイできた。インディーゲームコーナーに並ぶ選考出展77社のうち、韓国のスタジオは4社も選出されていて、国別でいうと最多。他にも自費で独自に出展しているインディーゲームを2つほど見かけた。
大手がネクソンのオンライン出展のみだった代わりに、インディーゲーム(とレトロゲーム)がやたらとTGSに出展している。かつてない盛り上がりではないだろうか。韓日ゲーム翻訳の需要が高まっているという話も聞こえる。
実は、韓国は今ちょっとしたレトロゲームブームになっていて、昔韓国でよく遊ばれたゲームをSwitch向けに移植するという企画がいくつか出てきた。日本のイベントに出展するときには、韓国のパブリッシャーがハピネットのブースで出展しているのが、興味深い。日本市場に進出するためには、韓国企業だけでやろうとするよりも、いい選択ではないだろうか。
大元メディア(Daewon Media)は主にアニメの会社であり、コナミと提携して遊戯王オフィシャルカードゲームを販売していたりと、おもちゃを広く扱っているが、インディーゲームやレトロゲームをSwitch向けに移植する新事業も始めている。東亜プランの「スノーブラザーズ」をアレンジした『スノーブラザーズ ニック & トム スペシャル』(2022年5月発売)に続き、TGS2022では、先述の『ポトリスS』とコンパイルのRPG『幻世酔虎伝』Switch版をハピネットブースにて出展した(『幻世酔虎伝』は当時ハングル版があって、今の30代には思い出の一作だという話を現地の編集者から聞いた)。ジャレコのアーケードゲーム「サイキック5」をリメイクした『サイキック5 エターナル』も、ジャレコのIPを保有するシティコネクションと、大元メディアと、移植を担当するCRT GAMES(韓国)による協業である。
もうひとつの例は、東方Projectの2次創作ゲームである『紅魔城レミリア』(元のタイトルは『紅魔城伝説』)がCFKによってSteam/Switch向けに移植されたことだ。第1作「緋色の交響曲」はリリース済みで、ハピネットブースで試遊可能に。TGSに合わせて、第2作「妖幻の鎮魂歌」の移植も決定したことが発表された。
このように、日本でも知られている「ポトリス」や、日本のレトロゲームが韓国の会社によって移植されることで、ハピネットブースのラインナップが増えるというのは面白い。昔遊んだ人がたまたま見つけて手に取ってくれるかもしれない。レトロゲームの移植に、韓国のゲーム会社との協業の可能性が感じられる。
最後に、KOREA PAVILIONについて書くとしよう。韓国コンテンツ振興院(KOCCA)の支援を受けて、15社が集まって出展した。
パビリオン全体の出展社ページも作られているが、TGSの出展社ページは深い階層にあって探しにくい。上記のリンクから行ける。
TGS2022トップぺージ>出展社紹介>(アルファベット)K>KOREA PAVILION「出展社詳細」>出展社HP(日)
コの字型に15社のブースが並び、スタンプラリーが実施され、各ブースには通訳がいてゲームの紹介をしてくれる。KOREA PAVILION全体のスペースはかなり広いし目立つので、事前情報がなくてもふらりと立ち寄ってみた来場者は結構いるかもしれない。Project Moonブースの向かいにあった『ダイ・クリーチャー』のダークなキャラデザインに引きつけられた人もいるだろうし、『ねこ島物語』や『LAPIN』のかわいい動物キャラも目を引く。日本の漫画・アニメのようなキャラクターは親しみやすく、韓国インディーゲームとの偶発的な出会いは生まれていただろう。バラエティに富んだゲームが並んでいるのもいい。
実際に行って試遊した人から聞くと評判は良かったのだが、広報が不足していると感じる。KOREA PAVILIONとして公式番組を放送するわけでもないし、IGN Japanの「ずっと一緒に生中継」のような番組に出るわけでもないし、オンラインコンテンツでの同時展開がない。予算がないのだとしても、プレスリリースをメディアに送るぐらいのことはすればいいだろうと私は思っていた。要するに、支援といっても政府機関のやることはお役所仕事でしかなく、広報の工夫は各社に任されていたということなのだが、最近まで大学生だった若いチームは、何をすればいいかさえわかってなかったかもしれない。
まだ日本のメディアに情報がまったく出ていないゲームもある中、Newcore Gamesの横スクロールアクション『The Devil Within: Satgat』は制作発表とストアページオープンの時点で4Gamer.netに記事が掲載されており、追跡取材のような形でTGSでも記者がブースを訪れて、プレイレポートを記事にしていた。しかも「個人的にかなり面白かったので,発売が待ち遠しい限りだ」とまで評価されている。
モバイルゲームの『おいでよマイホーム』『WITH』などを出展しているSKYWALK社はTGS参加の告知のプレスリリースをメディアに送っている。やはり記者がブースを訪れて取材している。
私が何をやっていたかというと、『Wetory』のPepperStonesが大学生2人で結成したチームだと知っていたので、Discordサーバーに参加して声をかけ、ストアページの日本語翻訳と、プレスリリースの配信をしようと提案し、協力することになった。まずTGS出展とデモ版公開の告知が4Gamer.netにも掲載され、ありがたいことに、『Wetory』のブースにも記者の方が来てくださって、プレイレポートが記事になった。
この3社のように、事前にメディアに情報を送ることがいかに大事かを証明する実験みたいなことになったが、他にプレイレポートが掲載されたのはウサギの2Dプラットフォームアクションゲーム『LAPIN』だけのようだ。15社のうち、12社はプレスリリースを配信した形跡もない。これが韓国インディーゲームの現状であり、広報のノウハウを持ち合わせていないも同然ではないだろうか。コスパを考えて広報しなかったとかではなさそうだ。以前から発売されているゲームの場合は、アップデートなどの新情報があるのかないのかわからなくて、記者としては記事にしづらいだろう。
なぜ『LAPIN』が記事になったのかは推測するしかないが、条件は比較的そろっていたと思われる。Steamで日本語対応のデモ版がプレイ可能で、とっつきやすいアクションゲームで、ストアページも日本語になっていて、公式Twitterアカウントも日本語で告知をしていて、実はXbox Game Passライセンス契約もしており、何よりウサギたちがかわいい! これは記事にせざるを得ない! 私もノベルティが欲しかった。
ゲームメディアではないが、日経クロストレンドの記者が、記事の見出しを「『ねこ島物語』が日本で人気」と書いた。これは『ねこ島物語』の関係者が、国別の人気ランキングの1位が日本だと言っているだけで、わりと当たり前のことである。韓国の市場は大きくないので、韓国のねこゲーであっても日本が1位、韓国が3位なんてことは普通にあるだろう。
序盤をプレイしてみたところ、日本語翻訳はバッチリで、KOREA PAVILIONのモバイルゲームのなかではダウンロード数も口コミ数も多くて、なかなか良さそうなゲームだ。ねこが好きでねこゲーをするなら、セルラン上位のリッチなゲームでなくたっていい。記者でさえもウサギやネコにつられて記事にしてしまう、ましてや一般来場者はなおさら興味を持ってしまうにちがいない。
記事にならなかったPCゲームのウィッシュリストは、果たして増えたのだろうか。まだ事前予約が始まってもないモバイルゲーム(将来、日本語対応するのかもわからない。英語版しかない)もあったのだが、いまTGSに出展して何か収穫があったのかどうかはよくわからない。私にできることは、1人や2人で開発しているチームに声をかけて広報を提案することぐらいである。次のTGSでも、いいご縁があったら手伝いたい。
韓国のインディーゲームは日本に進出したくてTGSまで出てきてはいるが、言語の壁があり、広報のノウハウが不足していて、ゲームを広めてくれる日本人を必要としている。この記事から感じとっていただければと思う。