同期現象について〜人の心拍が同期する?!〜
イントロ
こちらのメトロノームの動画を見たことあるでしょうか。最初はバラバラにリズムを刻んでいたメトロノームが、次第に揃い始め、最後には全部が同期しています。
また、こちらのホタルの動画では、ホタルの発光が同期しています。
他にも、コオロギやカエルの鳴き声の同期現象などが自然界で広く観測されています。
この記事ではそんな同期現象について、簡単に解説します。また、人間に関する同期現象について、いくつかおもしろい最近の研究を紹介したいと思います。
同期現象とは
同期現象とは、リズムを刻むもの同士の周期が揃う現象です。同期現象には、主に次の3つのタイプに分類できます。
強制同期
相互同期
共通ノイズによる同期
強制同期
外部の周期的な外力によって、その周期に同期する現象です。例えば、人間の体内時計は25時間と言われていますが、地球の自転周期の24時間に同期しています。
相互同期
イントロで紹介したメトロノームやホタルの同期です。複数のもの同士が相互作用して、お互いのリズムを変化させ合うことで、同期する現象です。
メトロノームの同期では、土台の板を通じて、お互いの振動が伝播しています。それによって、それぞれのメトロノームがわずかにリズムを変化することで、次第に同期していきます。
ホタルの同期では、周囲の明るさに応じて、自分の発光タイミングが変わることで、次第に同期していきます。ホタルが明確な意思で同期させようとしているのではなく、自然と同期しています。
この相互同期の現象は、蔵本由紀によって数理的に解析され、蔵本モデルと呼ばれるモデルが提案されています。メトロノームやホタルの同期が、1つのシンプルな数式から説明されるのは、おもしろいです。
共通ノイズによる同期
強制同期と相互同期は有名ですが、近年、共通ノイズによる同期現象といういわば第3の同期現象が注目を集めています。この現象は、相互作用がなくても、共通の微弱なノイズを入力すると、次第に同期してしまうというものです。
この現象が注目されるきっかけになったのが、1995年にScience誌で発表された研究です。この研究では、ネズミの脳の神経細胞に、一定の電流入力を入れた場合と、ノイズを入力した場合を比較しています。一定の電流入力の場合は、細胞の発火のタイミングがバラバラでしたが、ノイズを入力した場合は、発火のタイミングが揃っています。
ノイズが悪さをするのではなく、同期するのに役に立っているというのが、おもしろいと思います。
その後、2004年に寺前・田中の研究で、理論的に解析されています。また、現象としても、植物の開花タイミング同期や生物集団の個体数増減の同期などが観測されています。
人間の同期現象
次に、人間に関しての同期現象を簡単に紹介します。まずは、人間内の同期現象について解説したあとに、人間間の同期現象についていくつか研究を紹介します。
人間内の同期現象
心拍や体内時計、脳のリズムがどのように生み出されているのか、また、細胞同士がどのように同期しているかが研究されています。
例えば、パーキンソン病は、本来同期してはならない細胞同士が同期してしまうことで生じる疾患です。パーキンソン病の外科的治療として、脳に電極を埋め込み電気刺激を与えることで、同期現象を抑える方法が取られています。
人間間の同期現象
2022年のNature誌で発表された「Physiological synchrony is associated with attraction in a blind date setting」という研究では、初対面の男女の惹かれ合う要因を分析しています。初対面の男女に、視線計測器や心拍測定器をつけてもらい、会話をしてもらいます。その後、お互いに魅力を評価してもらいます。その評価と計測器のデータを分析したところ、笑顔や視線などではなく、心拍数や皮膚抵抗などの自律神経的な同期が、魅力を説明するという結果になっています。
2021年の東北大の研究では、音楽やスポーツ活動で複数人でゾーンに入ると脳活動が同期することを観測しています。
2021年のCell Reportsに発表された「Conscious processing of narrative stimuli synchronizes heart rate between individuals」という論文では、物語を聴かせると、人々の心拍数が同期するという実験結果が出ています。また、健常者だけでなく意識障害患者に聴いてもらったところ、心拍数は同期しませんでした。ただ、意識障害者の中で2人だけは同期する結果をだしていて、その内1人が6ヶ月後に昏睡状態から意識を取り戻しています。
参加者が同じ場所に居なくても、参加者同士で相互作用がなくても、同期することを示しているのが、おもしろいことだと思います。
2013年の理研の研究では、発話リズムがそろうと、脳波が同期することを発見しています。
まとめ
同期現象について、3つのメカニズムについて紹介しました。また、人間に関する同期現象について、最近の研究を交えながら紹介しました。同期現象に関するおもしろさが少しでも伝わったら幸いです。
最後に、今後の同期現象の研究についての個人的な考えをまとめて終わりたいと思います。
今後の研究として、上記で紹介したように、人間間での同期現象の研究がより広まっていくように思います。さらに、第3の同期現象である「共通ノイズ同期」に基づく、人間での同期現象が研究されていくと、新しくおもしろい現象が解明されていくのはではないかと思っています。例えば、自然のゆらぎの中にいるだけで、心拍などが同期するなどです。
また、魅力に関するNatureの論文のアブストは、下記の文章で始まっており、研究の出発点がウェルビーイングになっています。今後、ウェルビーイングを解明する1つの要素として、同期現象がより重要性を増してくるように思います。