【訪問看護の経営】みんな、スタッフの給与ってどうやって決められてるか知ってる?
突然ですが、訪問看護で働くみなさんは、どうやって給与が決められているか知っていますか?
給与が高いところもあれば低いところもあり、それは地方と都心部でも如実に現れています。
もちろん、サイコロを振って適当に決めているわけではなく、経営者たちは緻密に計算をした上で設定をしています。
この記事では、訪問看護における給与はどのように設定されているのかを中心にお伝えしてまいります。
これらをしっかり把握しておくことで、実は『給与が高い=良い会社』ではないことに気づくかもしれません。
また、給与設定に悩んでいる経営者は、ぜひこの記事を参考にしてポイントを掴んでいただけたらと思います。
記事の最後には、私が経営している訪問看護ステーション(えん訪問看護ステーショングループ)ではどのように設定しているかというところまで公開しているので楽しみにしていてください!
経営者たちはどうやって給与設定をしてるの?
では早速、訪問看護の給与はどのように設定されるのかをお伝えしてまいります。
訪問看護経営者の人たちの話を聞くと、だいたい下記の理由で設定することが多いようです。
地域の相場
給与水準は地域ごとで異なるため、その地域の平均的な給与水準を当てはめる。
前職の経験に基づく基準
スタッフだった時(前職)で「貰って嬉しかった給与」または「これくらいは貰いたかった」という経験を基にして設定をする。
人件費率(労働分配率)に基づく計算
人件費率(会社の売上に対して人件費がどれだけの割合を占めているか)に基づいて設定をする。
上記の3つが多く挙げられていますが、私の中では「人件費率(労働分配率)に基づく計算」が95%、「地域の相場」が5%で給与設定をしています(「前職の経験に基づく基準」は参考値程度)。
なぜなら、「人件費率(労働分配率)に基づく計算」は、スタッフの生産性と会社全体の売上を基にして給与を決定する方法であり、経営の安定性と公平性を保つために非常に重要だと考えているからです。
人件費率(労働分配率)を理解しよう
「人件費率」という言葉が聞き慣れない人も多いかと思うため、まずはここをしっかりと理解していきましょう。
人件費率を簡単に説明しますと、例えば100万円の売上があった場合に人件費(社会保険料込み)はいくら払うのかということです。
一般的に、訪問看護の人件費率は40%〜70%の間に設定されていることが多いかと思います(会社負担分の社会保険料(16%)を入れ込むと35〜60%)。
ちなみに、異業種の平均人件費率は以下のように言われています。
製造業20.7%
情報通信業30.7%
小売業13.3%
卸売業7.0%
飲食業・サービス業37.0%
見ていただいて分かるように、訪問看護は労働集約型の事業であることから、売上に対する人件費率は非常に高い業種です。
ただ、40%〜70%のように幅が広いため、会社によってもかなり変わってくる部分でもあります。
ここまで聞いて、勘が良い人は「ってことは、人件費率が高い会社が良い会社だね!」と思ったのではないでしょうか?
確かに、人件費率が高いほど売上に対するスタッフへの還元率は高くなるため、一見良い会社に見えるかもしれません。
しかし、必ずしも良い会社であるとは限りません。
なぜなら、人件費率が高すぎると、経営の持続性に支障をきたします。
例えば、人件費率が70%の場合、残り30%の収益で家賃、経費、銀行返済などすべてをまかなう必要があるため、経営上のリスクが高まります。
これは超危険な状態であると判断します。
もちろん、逆に人件費率が低すぎると、スタッフの待遇が悪化し、離職率の上昇やサービス品質の低下を招く可能性があるため、このバランスが非常に重要になるわけです。
地方と都市部における『スタッフ1人の生産性』を考慮しよう
スタッフ給与として人件費率を割り出す時には、『スタッフ1人の生産性』も考慮しなければなりません。
この生産性は、訪問時間や訪問単価によって決まり、地域によって大きく異なります。
例えば、都市部と地方では月の稼働時間に大きな差が生じ、具体的には下記のような時間設定になるかと思います。
都市部:100時間
地方の中核都市:85時間
過疎地域:70時間
この差は、訪問ルートや移動時間などが大きく影響する『アイドルタイム(売上を生まない時間)』が発生するためです。
過疎地域だと片道30分以上の移動は当たり前にあり、さらに地域単価も違うため、売上がかなり変わってきます。
これらを考慮して、地域別の生産性を計算すると、以下のように算出することができます。
都市部:1時間あたりの売上は約9,300円、月間訪問時間は100時間で、売上は約93.0万円。
中核都市:1時間あたりの売上は約9,000円、月間訪問時間は85時間で、売上は約76.5万円。
過疎地域:1時間あたりの売上は約8,700円、月間訪問時間は70時間で、売上は約60.9万円。
都市部と過疎地域では30万円近い差が生じてくるのが分かるかと思います。
つまり、都市部と過疎地域ではスタッフ1人の生産性が変わってくるということです。
給与は「生産性 × 人件費率」で計算される
ここまで人件費率と生産性を説明してきましたが、実はこの二つを掛け合わせたものが給与になります。
つまり、「生産性 × 人件費率 = 給与」という図式です。
今までの説明を少しまとめてみましょう。
<人件費率>
訪問看護の相場:40%〜70%(会社負担分の社会保険料(16%)を入れ込むと35〜60%)
<生産性>
都市部9,300円×月100時間=93.0万円
中核都市9,000円×月85時間=76.5万円
過疎地域8,700円×月70時間=60.9万円
これらを「生産性 × 人件費率 = 給与」の図式に当てはめると、実際の給与は以下の通りとなります(人件費率:35%、45%、55%、60%で計算)。
都市部(月の売上が93万円)
人件費率35%:給与は32.5万円
人件費率45%:給与は41.8万円
人件費率55%:給与は51.1万円
人件費率60%:給与は57.6万円
中核都市(月の売上が76.5万円)
人件費率35%:給与は26.7万円
人件費率45%:給与は34.4万円
人件費率55%:給与は42.0万円
人件費率60%:給与は45.9万円
過疎地域(月の売上が60.9万円)
人件費率35%:給与は21.3万円
人件費率45%:給与は27.4万円
人件費率55%:給与は33.4万円
人件費率60%:給与は36.5万円
このように、人件費率の設定によって給与は大きく変動します。
給与は一度設定したら下げることは難しいです(上げることは簡単)。
過去にXで何回かdisってしまった都市部の年収700-800万円という求人は、人件費率が80%くらいになっているはずです。
残り20%で経営をしていくのは、特に中小企業では絶対無理です。
まして立ち上げたばかりとなると尚更です。
※補足:このパターンの人件費率設定の場合は、おそらく代表も月に60時間以上は訪問に回らないと自分の役員報酬を担保できないと思います。
結論、『給与が高い=良い会社』ではない
このように、『給与が高い=良い会社』ではないことを、少しはお分かりいただけたでしょうか。
給与が高いということは、それだけ人件費率が高いことを意味し、経営にかかる負担も大きくなります。
特に、中小企業や新規立ち上げの訪問看護事業所にとって、人件費率が高すぎると経営の安定性が失われ、最悪の場合は事業継続が難しくなることもあります。
明日、あなたの会社が潰れてしまうという未来もゼロではありません。
そのような会社で働きたいと思いますか?
確かに、給与水準を低く抑えすぎてしまうと、スタッフのモチベーションが低下し、優秀な人材の確保が難しくなります。
このように、給与設定においては、会社の成長戦略とスタッフの生活を守るバランスが重要です。
会社の存続と地域社会での役割を果たすためには、経営の安定性を保ちながら、適切な給与水準を設定することが求められるのです。
弊社の給与設定の実例
では最後に、実際私が経営している訪問看護ステーション(えん訪問看護ステーショングループ)では、どのように設定しているのかをお伝えします。
弊社では、人件費率を社保込みで65%(+2.5%の業績賞与)に設定しています。
この設定は、地方という地域属性を考慮したものであり、1時間あたりの売上単価が低いことも影響しています。
そのため、単一店舗での黒字化は難しく、複数店舗を展開することで経営の安定を図っています。
具体的には、少なくとも3店舗(スタッフ25-30人、月売上1,300-1,500万円)を展開することで、営業利益率10%程度を確保しています。
しかし、人材紹介や採用費にコストをかけると、その利益は一瞬で消えてしまうんですけどね。。
このような状況下で給与水準を維持し、人件費率を高く保つためには、企業としての相当な努力が必要です。
はい、、。経営って大変ですね(笑)
まとめ
訪問看護における給与設定は、経営の安定性とスタッフの満足度の両方を考慮する必要があります。
人件費率が高ければスタッフへの還元率が高くなり、魅力的な職場になりますが、経営の持続性に対するリスクも増大します。
一方で、人件費率が低ければ経営の安定は図れますが、スタッフの待遇が悪化し、優秀な人材を確保することが難しくなります。
訪問看護事業を成功させるためには、給与水準のバランスをしっかりと取ることが不可欠です。
スタッフの生活を守りながら、地域社会における訪問看護事業所としての役割を果たすために、経営者は適切な人件費率の設定と給与水準の見直しを行い続ける必要があるのです。
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