食について
減り続ける日本の食料自給率
65年前に79%だった日本の食料自給率(カロリーベース)は、その後減少を続け2000年代に40%を割り込み、現在は38%となっています。
戦後政策によって、輸入の小麦や大豆が増えたこともあり、海外の作物を食べることが一般的となっていきました。
かつて、年間120kgだった一人当たりのお米の消費量は、現在、半分の60kgにまで減っています。
ご飯やおむすびを主食としていた日本人が、パンや麺類を摂取するようになり食文化も大きく変化してきました。時代と共に食文化が変わること自体はある意味必然かもしれませんが、急激な変化は人間に不調をきたす事もあるようです。その一つの現象として食のアレルギーが急増していることを見過ごすわけには行きません。
そもそも米主体の食生活を何百年、何千年と続けてきた大和民族が、急激に欧米人のような小麦食に変化することで、アレルギーやアトピーなどの体調不良を引き起こすことは十分に有り得ることだと思います。
卵アレルギーの子たち
レストランを運営する私たちは、日々、お客さんにアレルギーの有無を事前確認しています。そして、驚くほど多くの子どもがアレルギーに悩まされ、食の制限を受けていることを実感しています。
小麦、牛乳、ナッツ、大豆など、その種類は多岐に渡りますが、中でも卵アレルギーの子が多い印象です。
ところで、我が家ではニワトリを平飼いしています。
朝になると、鶏小屋から6羽のニワトリちゃんたちが元気よく飛び出してきます。文字通り、ニワトリは「庭の鳥」です。庭の草や土を啄(ついば)んでは、小さな虫や草の根を食べています。
鶏小屋では無農薬栽培のくず米や糠(ぬか)を与えられ、健康的でストレスフリーのニワトリちゃん達は、毎日、美味しい卵を産んでくれます。
不思議な事に、卵アレルギーの子がこの卵を食べるとアレルギーが発症しないことが多いのです。
本人も親御さんもびっくりされますが、決して卵アレルギーが治ったわけではありません。以前に平飼いの卵を食べて試したことがあった方でも、アレルギーが出たそうです。
たまに道の駅などで販売されている平飼いの卵ですが、配合飼料を食べている場合も多いようです。その中身は、輸入の大豆やとうもろこしであることが少なく有りません。
鶏に限らず、肉や魚についても、私たちはその生物が何を食べてきたかをトレースする事も大切なのではないでしょうか?
一般的な養鶏場の映像をご覧になったことがある方も多いと思います。狭いケージに押し込まれ、昼夜問わず明るい電灯の下、配合飼料をひたすら食べさせられる鶏は、産卵マシーンのように扱われています。
アニマルウェルフェアの観点からも、たびたび国際社会から批判を浴びる日本の養鶏業界ですが、その特異な業界構造からか改善される様子は有りません。
本当に健康的な食を知ることが、消費構造を変えて業界を進化させていく。
そのためにも、食の連鎖、つながりをしっかりと踏まえた食育が大切だと考えています。
元祖スーパーフード「玄米」
江戸時代以前、日本人の主食は雑穀米や玄米でした。
庶民が綺麗に磨いた白米を食べるようになったのは、精米技術が進んだ明治時代以降と言われています。
白米メインの食にシフトした当時、日本人の多くが脚気(かっけ)に悩まされたと言われています。脚気とは、栄養失調の一つで特にビタミンB1の不足によってもたらされる体調不良を言います。
よく足の膝を木槌で叩く反射テストで診断をしますが、現在は食の多様化によりほとんど見られる事は無くなりました。
ビタミンB1は、玄米の表皮である糠(ぬか)の部分に多く含まれていたため、江戸時代以前の日本人は十分に栄養が取れていたようです。
また、明治時代のドイツ人医師エルヴィン・フォン・ベルツ(Erwin von Baelz)が、日本人の飛脚(ひきゃく)の食事習慣について観察したエピソードは有名です。
ベルツは、江戸時代から続く飛脚の驚異的な体力と持久力に感銘を受けました。当時の飛脚は、一日に数十キロから数百キロの距離を走破することができる驚異的な耐久性を持っていました。その飛脚たちが主に玄米や漬物といったシンプルな食事をしていることに、ベルツは大きな驚きを感じました。
西洋の医学的観点から見たベルツは、体力を増強するには肉食が良いと考え、飛脚に玄米中心の食生活をやめて肉やパンなど西洋式の食事を取るよう勧めました。当時の西洋では、動物性たんぱく質が体力向上に重要だと考えられており、穀物中心の日本の食事は「貧弱」だと誤解されていました。しかしベルツの勧めに従って肉食を取り入れた飛脚たちは、次第に以前のような持久力を発揮できなくなり、彼の予想に反して体力が衰えていたのです。
これは、当時の日本人の体質や活動量に合った玄米中心の食事が最適だったことを示しています。玄米には炭水化物やビタミンB群、ミネラルが豊富に含まれており、エネルギー供給と代謝を支える上で重要でした。一方、肉食への変更は消化吸収に負担がかかり、持久力を損なう結果となったのです。
現代は食の欧米化、多様化が進み、肉食や小麦も随分と摂取されるようになりました。
しかし、これらのエピソードに見られるような日本人本来の食というものを見直すことがとても大切だと考えます。
玄米は日本が世界に誇る、まさに元祖スーパーフードだったのです。
腸脳相関の重要性
世界的ベストセラーとなった『土と内臓—微生物がつくる世界(デイヴィッド・R・モントゴメリー著)』 は、土壌微生物と腸内微生物の類似性を軸に、自然環境と人間の健康のつながりを探ることをテーマにしています。
土壌と腸内環境は、微生物の働きを通じてそれぞれ植物と人間の健康を支える重要な役割を果たしているという考え方が提示されています。
また近年、医療分野で腸と脳が神経系、免疫系、内分泌系などにおいて密接に相互作用している関係を示した腸脳相関の研究が急速に進んでいます。
脊髄を通してリンクする腸と脳は、今までは別々の臓器として捉えられていましたが、腸が不調をきたすと脳機能が低下し、鬱やアルツハイマーといった精神疾患を引き起こすことが確認されつつあります。
一方、日本元来の食習慣、すなわち野菜中心の玄米食や麹菌などを活用した発酵食などにより、腸内環境を整えることで、体調のみならず精神状態も改善される人の様子を私はたくさん見てきました。
現代人の食はあまりにも乱れているといっても過言ではありません。
コンビニフード、ファストフード、健康食品という名の下のサプリメント等々、全てが害悪とは申しませんが、もう少し日本人本来の食とのバランスを見直す必要があると考えます。
うちのスタッフの一人に、東京からこの限界集落に移住してきた若い女性がいます。彼女は当時の仕事場のストレスから解放されるため、毎日コンビニでシュークリームを買って食べることが日課となっていました。
この集落に移住した当時、彼女の肌はニキビで荒れていました。精神的にも落ち込みやすく、悩んでいたそうです。
しかし、移住後大好きだったシュークリームを絶って、野菜、発酵食中心のヘルシーな食生活に切り替えた所、すっかりと肌艶がよくなりました。メンタル面も浮き沈みが無くなり、周りから見ても分かりやすくいつも快活で元気な様子に変わりました。
ちなみにコンビニもスーパーもないこの限界集落は、甘美なスイーツの誘惑を断つ上でも最適な環境です。
健全な精神は、健全な肉体に宿る。
健全な脳は、健全な腸に宿る。
だからこそ、私たちは健全な食にこだわり続けていきたいと考えています。
愛のある手料理は、3つ星レストランに負けないくらいの贅沢です。