社会の変え方を学ぶ #カタノリ vol.9 2021/6月読書会開催レポート
6月の #カタノリ は、5月に引き続き、「変える」をテーマにしました。
先月の課題図書『カモメになったペンギン』が扱う「変えるモノ」は組織でしたが、今回の課題図書が扱う「変えるモノ」は社会です。
課題図書
『未来を実装するーーテクノロジーで社会を変革する4つの原則』
著者の馬田隆明さんは、こんな方です。
東京大学 FoundX ディレクター。
University of Toronto 卒業後、日本マイクロソフトでVisual Studioプロダクトマネージャー、テクニカルエバンジェリストを経て、2016年から東京大学にて本郷テックガレージの立ち上げと運営、2019年からFoundXディレクターとしてスタートアップの支援とアントレプレナーシップ教育に従事。
スタートアップ向けのスライド、ブログなどで情報提供を行っている。だいたいのスライドが100枚以上。
著書 『逆説のスタートアップ思考』『成功する起業家は居場所を選ぶ』
スタートアップ界隈の人であれば、誰しも一度は馬田さんのスライドを見たことがあるでしょう。日本マイクロソフト時代から足掛け7~8年にわたり、スタートアップ支援にかかわっている方です。
そんな馬田さんの3冊目の著作が、本書。タイトルにある「4つの原則」とは、インパクト、リスク、ガバナンス、センスメイキングで、これらの関係性と結論を、割りと早い段階でズバッと言い切っています。
デマンドがある前提で、長期的な目的や理想であるインパクトについて考え、それを達成するための適切なガバナンスの方法を示しながら、そのインパクトとガバナンスの在り方を関係者にセンスメイキング(腹落ち)してもらうこと、それが現代の日本において社会実装のプロジェクトを成功させるために必要な要素である、というのが本書の結論です。
さて、まず自分で読んでみての感想と気づきは、以下の4点でした。
①デマンドがある前提、忘れられがち。
「市場にデマンドがなかった」という失敗。これ、本書の主題ではないですし、よく言われる話ですし、失敗ケースを読むと『そんな風に失敗しちゃうこともあるんだー、ぷぷ』と思うんですが、いざ自分で商品・サービスづくりをしようと思うと、もっと卑近な例では、こうして毎日noteを書いていると、身近に迫ってくるものがありドキッとします。
あれ、もしかして、これデマンドないのでは?
という恐怖は、本当に味わいたくない。。。
②成熟社会の難しさ
何かを解決しようとしているはずなのに、「デマンドがない」という状況になるのは、そもそも奇妙。では、なぜこうなるかという理由の背景に、「成熟社会の難しさ」がある、として、馬田さんは以下の7つを挙げています。
そもそも課題が少ない
理想が描きづらい
便益が少ない
新技術導入によって損をする人たちの存在
既存制度の存在
ニーズの多様化と合意の難しさ
技術に対する懸念の増大
社会全体についての話が展開されていますが、「小さな社会」である会社やチームでも、これは当てはまるよな、と思いながらメモを取った箇所です。
③理想を描くことが成功につながる。
本書では、成熟社会の難しさを乗り越えて、社会実装するために、インパクトを示すことの大事さが説かれていくわけですが、その中で「日本はインパクトを示すのが苦手。インパクト型のリーダーが少ない」というデータが出てきました。これは経験則的に感じてはいましたが、そんなデータがあるとは驚きです。
そして、私自身も、社会のレベル、会社のレベルで「理想を描き、それが大事な役割を果たしている」という経験をしている人が少ないことが、個人レベルでも課題になっているのでは、という思いを持っていたところだったので、非常に印象に残りました。
残念ながら、ミッション・ビジョン・バリューの大切さを実感したことがない人からすると、この大切さを理解するのはとても難しいと思います。
そして、会社でこれを実感していないと、自分の人生でもミッション・ビジョン・バリューが必要だという考えに至らないのも仕方ないのかもしれません。
でも本当は、ミッション・ビジョン・バリューは、人生にこそ必要だと思うのです。
(以下リンク先のnoteより抜粋)
④センスメイキングの手法は、変革の8段階との共通点が多い。
本書では、センスメイキング=関係者の納得感を醸成する手法として、以下の8つが事例とともに説明されています。これらは社会を変えるための手法として紹介されていますし、表現方法は違いますが、先月扱った「会社や組織を変える8段階」との共通点が多く、人間にはたらきかけるアプローチは同じようなところに帰着するんだな、と感心しました。
ナラティブ(事例、ビデオ)
フレーミングを変える
言葉や概念を作る
データを示す
参加型の取り組み
共同での作成
プロトタイプを作って世に出す
オーバーコミュニケーションを行う
参考:8段階の変革プロセス
1. 危機意識を高める
2. 推進チームをつくる
3. ビジョンと戦略を立てる
4. ビジョンを周知する
5. メンバーが行動しやすい環境を整える
6. 短期的成果を生む
7. さらなる変革を進める
8. 新しいやり方を文化として根づかせる
(出典:『カモメになったペンギン』ジョン・P・コッター)
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こんなメモを手元に置きつつ、#カタノリ 読書会で皆さんとの議論をスタート。
多くの方が、身近なところでも「課題の少なさ」を実感していたようで、②への共感の声があがりました。
そして、③ゴール・理想を描くための手法として紹介されている「ロジックモデル(と変化経路図)」については、皆さん「有効そう」「使ってみたい」と感じたようです。
実は私も、とある議論で使おうと目論んでいます。
逆に、4つの原則の中でもガバナンスについては、全員が縁遠く感じたようで、サーっと読み飛ばしたようです。私もあらためて確認したら、ひとつも線を引いていないことに気づきました(苦笑
意外な盛り上がりを見せたのは、「おわりに」で触れられている「コミュニティ」についてでした。
今回のカタノリ参加者は全員何らかの形で、コミュニティに関わったり、触れたことがある人だったので、今まで自分の身近になかった価値観・考え方で運営されているコミュニティに触れたときの驚き(良い意味での)や、そういった場に出ていくことの大切さ、本書でコミュニティに入ることが推奨されていることの意外さなど、盛り上がりました。
なぜかみんな体操服風な参加者たち(笑)
なかなか分厚くて(472ページ)、最後まで読み切るのは大変だろうなと思っていた本書ですが、読書会という強制力に加えて、事例が豊富で読みやすい文章で、意外なほどすんなり読み切ることができました。
テクノロジーで社会を変えることを仕事にしている人はもちろん、新しい分野で多くの関係者を説得しながら仕事を進めている方、新規事業や社内で未踏の分野を切り開いている方にも参考になる内容だと思います。
よろしければ、ぜひご一読を。
#カタノリ 過去記事:https://note.com/hashtag/カタノリ