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【愛しき空間】 ルイス・バラガンー建築は感動するためにある!
こんにちは!
都内のインテリアデザイン事務所に勤めるセイジンと申します。
大学で建築を学び、これまでいくつか異なるデザイン領域を転々としながら、現在は建築、インテリアまで一貫して設計し、「空間」や「場」を創る人として活動しています。
【愛しき空間】と題し、いくつかシリーズ的に色々な建築家(だけじゃないかもしれないが)の作品を挙げながら、私が魅力的に感じている空間が、誰かと共有できたら嬉しいな!という気持ちで書いていきます。
「空間」て言っても、ふわっとしていて捉えどころがなく難しいですよね。
ただ私は、魅力的に感じる建築=空間を感じていることがほとんどで、ここでは「空間とは・・・」のような深掘りはあまりせず、ありのままに「この空間て良いよね!」が誰かと通じ合えたら嬉しいなと思います。
ということで今回は、私が建築思想や美的感覚の面で強く影響を受けたルイス・バラガンという方について、彼が設計したプリエト・ロペス邸とともに紹介していきたいと思います!
1.ルイス・バラガンの紹介ーその建築思想まで
以下、後ほど紹介しますが参考に読んだ書籍などを基にしながら書いています。
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ルイス・バラガン(Luis Barragán, 1902-1988)
建築の特徴:色彩や光、空間を駆使した詩的な建築で知られています。
以下、簡単な生立ち
メキシコのハリスコ州グアダラハラに生まれ
裕福な家庭で自然に囲まれた環境で育ちました。
グアダラハラ自由工科大学で土木工学を学んだ後、独学で建築を学んでいます。
22歳の時にヨーロッパを訪れ、ル・コルビュジエやフェルディナンド・バッコニンの思想に触れる。
彼の建築における特徴である色彩感覚や光の取り入れ方はこの時に周ったスペインやモロッコでの体験の影響が大きいようです。
1935年(33歳)にメキシコシティに拠点を移し、モダニズムにメキシコの伝統美を融合させた独自の建築スタイルを確立しました。
1980年にはプリツカー賞を受賞
ルイス・バラガンはヨーロッパ旅行などを通し、当時の世界の潮流であったバウハウス、エスプリヌーヴォーなどの思想に触れていました。
メキシコのグアダラハラで1926~36年の間に設計活動をしていますが、世界的に流行であった機能主義的な建築と、対して彼のアイデンティティであるメキシコの伝統的、民族的な建築とをどう結びつけていくかに苦心していました。
転機は1940年、彼はそれまで設計者として生活するために機能主義的建築の設計を行なっていましたがこれを止め、自らが思い描く理想の建築のみを追求すること決意します。(クライアントや友人たちに連絡したそうです。)
生活のことも含め色々葛藤があったと思いますが、自分のやりたいことをやる!、という生き様がかっこいいですね。
そこからは、今、建築家ルイス・バラガンとしてイメージするスタイルが確立されていくことになります。
バラガンの建築思想は、単なる機能性を超えて、人の感情や精神に訴えかける詩的な空間を創造することを目指したものでした。その「詩的な空間」というのは、カトリック教徒である彼の宗教心や彼が経験として幼少期の頃の環境(牧歌的で自然豊かな暮らし)から培ったノスタルジーから生まれているものと思います。
彼の建築における思想を語る上で重要な要素を上げてみたいと思います。
1. 宗教心
2. 静寂、詩的性
3. 自然との調和、一体性
4. 光と影の美学
5. 色彩の表現
彼のプリツカー賞の受賞スピーチの内容はこのバラガンの建築の思想、ものの考え方が強く現れているものだと思うので、気になった方は是非読んでみてください!(原文英文)
宗教心が彼の設計思想と結びつくのはフアン・オゴーマンからの影響であったり、また自然との調和、一体性の点では、フェルディナン・バックの影響もありました。
バラガンの庭と建築について、興味深い考察記事があったので紹介します!
ここで面白いのは、ルイス・バラガンにとっての建築が、まるで自身の経験や感情の写し鏡のような存在として捉えているのでは、と思えることです。
自分の中の理想郷としての建築、自己表現としての建築と言っていいでしょうか。
プリッツカー賞のスピーチの文章からは、「建築は感動するためにある」と言っているようです。
心を動かされる景色が見えるからそこに階段をかけるし、心を動かされる光が入るのだからそこに窓とテーブルを設ける、設計者としてそんな気持ちをもつ私にとっては共感せずにはいられません。
2.プリエト・ロペス邸って?
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ルイス・バラガンについて紹介したところで、今回紹介するプリエト・ロペス邸(Casa Prieto Lopez)のことについて触れていきたいと思います。
バラガンが1940年に機能主義建築から決別(実際は決別というよりも地域主義への昇華)した後、バラガン自身の自邸を建てた後に着手し、1950年に竣工した建物になります。(今から70年以上前になりますが、その魅力は全く色褪せないですね。現オーナーが当時の状態に戻すためにかなり頑張っているそうです!!)
この邸宅は、バラガンの友人であるプリエト・ロペス氏のために建てられました。
元々はインフラも何もない、溶岩石に覆われた未整備の土地から一から開発事業を行った土地に、最初に住宅として建てられた建物です。
3.プリエト・ロペス邸の空間
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プリエト・ロペス邸の空間は、まさしくバラガンの建築思想のほぼ全てが表現されていると言えるのではないでしょうか。建物と外部の一体性、庭とのつながり、立体的で奥行き感がある空間、部屋毎にコントロールされた視界の拡がり方、回遊性、土地の素材とそれが生み出す質感・・・などなど。
バラガンの魅力の全てが詰まっていると言える、傑作です。
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エントランスや階段室は、その床の素材が外部の床と同じ溶岩石で作られていて外部の質感が内部にも取り込まれています。また隣接する部屋や廊下はその空間の中心がずれながら接続されていて、日本建築の「奥性」に近い奥行きが生まれています。それぞれの部屋の視界は、大きな窓を通して庭へと水平方向に拡がり、部屋と庭の一体感を感じることができます。
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プリエト・ロペス邸のこれらの空間的な特徴は、日本の伝統的な建築空間とも親和性が高いと感じます。だからこそ、初めてみる人でも日本人の方には魅力的に感じやすい、受け入れやすい空間の質を持っているのではないかと思います。
またバラガンの設計手法は、図面などを引いてプランニングするのでは無く、建築や部屋の空間をアイレベルで見たパーススケッチで表現していたそうです。つまり、ある視点に立った時に何がどう映って欲しいかを思い描きながら設計をしていました。理想的な部分的イメージを集積した建築、それらがつなぎ合わされシークエンスとして感じられる空間体験、それがバラガンの建築の特徴だと言えます。
4.プリエト・ロペス邸のキッチンー小さな教会のような空間
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最初にこのキッチンを見た時、なんと美しい空間か、と思いました。
画像は私が暇な時に作成した3Dモデルのキャプチャーになります。
(実際の空間は検索したら少し出てくるので、見てみてください。)
キッチン自体は一つの室として作られ、中央にトップライトが設けられ、部屋の中央のテーブルを中心に空間全体に柔らかい光を落としています。テーブルはアイランドキッチンとして食事の支度をする作業台の役割でもあり、ここで食事も取れるよう椅子などもあります。周りの景色を見るための窓などは無く、部屋もそれほど大きくありませんが、折りあげられた大きなトップライト付きの天井によって抜け感があり、狭苦しさはありません。
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バラガンは宗教心をとても大切に考えていました(彼自身は敬虔なカトリック教徒です)。バラガンの建築空間には、キリスト教会の空間のように、頭上からくる光がよく用いられます。このキッチンがもつ空間はある意味小さな教会のような、詩的な美しさが感じられます。
このキッチンのあり方は、プリエト邸の中にあるバラガンの思想の断片として特筆すべきものだと感じました。
例えばここはキッチンでなくとも、書斎のような部屋でもいいかもしれませんし、あるいは私は趣味でサウナによく入るので、水風呂と整いスペースをこういう空間として作ってみたいと思いました。笑
そうした機能に縛られないおおらかな空間がもつ魅力も、バラガンの特徴と言えますね。
5.まとめ
プリエト・ロペス邸をみることで、冒頭のバラガンによるプリッツカー賞でのスピーチで述べている内容が、少しイメージしやすくなったのではないかと思います。彼の建築思想、さらにもっと大きく見れば、当時のインターナショナルスタイルの拡がりに対するメキシコの芸術家、思想家が抱いた地域主義への眼差しは、私自身、学ぶことの大きさを感じています。
簡単に紹介するには長くなってしまいましたが、まだまだ語りきれないバラガンの魅力はたくさんあるので、気になった方は是非、ネット等の記事から調べてみてください。
もしかすると、ご自身で住宅を建てたい!という人には魅力な参考になるかもしれません。
下記に私が見ていた書籍を紹介しておきます。
「ルイス・バラガン 空間の読解」
大河内学+廣澤秀眞+明治大学大河内研究室 編著
バラガンの設計を知る上で重要な建物を、図面・写真付きでその空間の魅力を読み解く内容になっています。テキストも読みやすくおすすめです。「LUIS BARRAGAN THE QUIET REVOLUTION ルイス・バラガン静かなる革命」
出版:株式会社インターオフィス
2002年に東京都現代美術館で開かれたバラガンの大規模個展の記録になります。バラガンの生い立ちから生涯を通して紹介されているので、バラガンのことを一から知りたい方におすすめです。CASA BARRAGAN 斎藤裕 著 出版:TOTO出版
斎藤先生はバラガン研究で有名な方ですが、バラガンの自邸を美しい写真と共に詳しく紹介されています。眺めているだけで楽しいで、おすすめです。
バラガンや途中で出てきたフアン・オゴーマンの建築を見るためにメキシコにも足を運んだので、他でも紹介できればと思います。
またこれから他の魅力的な建築、芸術をお伝えできればと思いますので、どうぞよろしくお願いします!!