
民泊の基礎知識① 民泊×用途地域編
民泊手続きの専門家、谷内田です。
民泊の基礎知識と題して、まずは用途地域についてお話していきたいと思います。
用途地域とは何ぞや
用途地域って、聞きなれない言葉ですよね?
不動産業界とか、建築業界に携わっている方であれば、普段なじみのある言葉かもしれません。
文字通り読むと、その「地域」の「用途」ということになる訳ですが、じゃあその用途って何なの!?ということを説明しないと、分かるような分からないような後味になってしまいます。
用途地域とは、その土地をどういった目的で開発していくか、建物を建てたりしていくか、という目的のために、設定されるエリアのことです。
すごくざっくりいうと、美しい街の景観づくりであったり、平穏な住環境を守るということであったり、活発な商業エリアを生み出したり、そういった「どんな街づくりをしたいのか」という目的に合わせて、決められるものです。
用途地域の種類
用途地域は、都市計画法という法律でその種類が決められています。
用途地域は全部で13種類あります。
大きく分けると、
①住居系
②商業系
③工業系
の3種類に分けることが出来ます。
この中で、①の住居系が8種類、②商業系は2種類、③工業系は3種類に細分化することが出来ます。
少し込み入ったお話をすると、これらの「用途地域」の種類によって、どんな建物を建築することが出来るのか、というのが変わってきてしまいます。
これは、建物については建築基準法で「建物の用途」が定められていて、
「用途地域」×「建物の用途」
という組み合わせで法律の制限がかかっているためです。
住居系用途地域
住居系の用途地域は、8種類に分類することが出来ます。
①第1種低層住居専用地域
②第2種低層住居専用地域
③第1種中高層住居専用地域
④第2種中高層住居専用地域
⑤第1種住居地域
⑥第2種住居地域
⑦準住居地域
⑧田園住居地域
住居系の用途地域の大きな目的は「住宅地の確保」です。
特に①~④の「住居専用」地域については、平穏な住環境の確保という目的の色合いが強いため、派手な商業施設や、不特定多数の色んな人が出入りするような施設は作りにくい、あるいは作ることが出来ないという仕組みになっています。
業界的には住居専用地域のことを省略して「住専(じゅうせん)」ということもあります。
⑤~⑦の用途地域は、住宅地の確保を図りながらも、一定の商業施設だったり、開発も容認している地域です。
例えば、幹線道路沿いのようなところでこの用途地域が設定されていることが多いです。
⑧の田園住居地域は、比較的新しい用途地域の区分です。
2018年の4月から、新しく用途地域のメンバーに加わりました。
名前は田園「住居」地域なので⑤~⑦の仲間のようなイメージが強いのですが、これが導入された趣旨が
農地や農地関連施設と住宅との調和
となっていて、建物の建築制限などを見ていると、①や②の低層住居専用地域に近いです。
ちなみに記事執筆日(2019年5月8日)現在、この用途地域が設定されているかどうかは分からないので、もしご自宅の近くでこのような用途地域が設定されている!というところがございましたらご一報いただけると個人的にはとっても嬉しいです!
商業系用途地域
商業系用途地域は2種類しかありません。
①商業地域
②近隣商業地域
どちらの地域も、商業的な賑わいを生み出すことを目的にしています。
商業地域は、繁華街。
近隣商業地域は近隣住民が便利な生活を送るために駅前なんかに設定されていることが多いです。
建築物の制限でいうと、どちらもほとんど変わりません。
今回は説明を割愛しますが、「建ぺい率」や「容積率」といった、建物を建てる際の基準となる数値が変わってきます。
工業系用途地域
工業系は、3種類に分類できます。
①準工業地域
②工業地域
③工業専用地域
名前の通り、基本的には工業系の建物を優先的に立てるために設定されているものです。
準工業地域は、環境への負担が少ない軽工業と住宅の融和を図るために設定されます。
昔からあるような町工場、そんなイメージをお持ちいただければいいかと思います。
変わったところだと、鉄道の車両基地、車庫なんかも準工業地域になっていることが多いです。
工業地域は、準工業地域では建設できないような危険物を取扱う工場や、環境への負荷が高い工場が建設できます。
住宅は建てられが、住むのには適さないです。
工業専用地域はその名の通り、工場を重点的に建設すべき地区です。
羽田空港近くの城南島や昭和島といったところは、工業専用地域です。
用途地域×建物の用途
さて、本題に入っていきたいと思います。
大前提として、建物には建築基準法で定められた「建物の用途」が存在します。
この建築基準法上の建物の用途を目安として、今まで説明してきた用途地域ごとに建てられるか建てられないかという判断をすることになります。
ご参考までに、建物の用途と用途地域の関係性を表している一覧表です。これから、こちらの一覧表も参考にしながら記事を確認してください。
用途地域×旅館業法
ひとくちに「民泊」といっても、選択肢はさまざまあるというのは別の記事でもご紹介いたしました。
アプローチの1つ目である、旅館業法と用途地域の兼ね合いについてみていきます。
旅館業法については別で細かく説明しますが、簡単に言うと
保健所から営業許可を受けて、人を宿泊させるための施設を経営する事業
のことです。
この旅館業の営業許可を受けるためには、建物の用途を
「ホテル、旅館」
に変更しなければいけません。
さて、ここで、先ほどの一覧を確認してみてください。
表の縦の列が、建物の用途を示しています。
ホテル、旅館は真ん中よりちょっと上にあります。
そして、表の横列が用途地域を示しています。
ホテル、旅館の列を右に見ていくと、×と▲と〇がありますね。
そうです、▲と〇のついている用途地域の場合、建物の用途が「ホテル、旅館」の建物を建てることが出来るのです。
これは、新築で建てる場合以外にも、既存の建物を転用するときにも同じ話が言えます。
ホテル、旅館の建物用とが認められているのは
・第1種住居地域
・第2種住居地域
・準住居地域
・商業地域
・近隣商業地域
・準工業地域
の6種類の用途地域のみです。
第1種住居地域については床面積の制限がありますが、この6つの地域であれば建物の用途を「ホテル、旅館」にして、「旅館業」の許可を取得することが出来ます。
旅館業の許可を取ることが出来れば、年間365日、人を宿泊させることが可能になります。
実は、旅館業が営業できない用途地域でも許可をとれる場合があります、がこれはかなり特殊事例なので別の記事で説明します。
用途地域×住宅宿泊事業
次に、住宅宿泊事業です。
これは2018年6月に法律の運用が始まった、新しいルールの民泊です。
「180日ルール」なんていう言葉で耳なじみのある方もいらっしゃるのではないかと思います。
住宅宿泊事業の基本理念は、
「住宅」を「宿泊施設」として利用する
というものです。
ですので、先ほどの旅館業と違い、住宅宿泊事業の場合は、建物の用途が「住宅」であることが必要です。
きちんと説明すると、
・住宅
・共同住宅
・寄宿舎
・長屋
の4種類がその対象です。
住宅は一般的な戸建て住宅です。
共同住宅はマンションやアパート、寄宿舎は「シェアハウス」です。
長屋は、2件以上の住宅が、共用部分無しでつながっているイメージです。
時代劇なんかによく出てきますね。
で、住宅宿泊事業も旅館業と同じく
保健所に営業の届け出を行って人を宿泊させる
営業区分です。
届出を行うにあたって、建物の用途が先に挙げた4種類のどれかである必要があります。
ここでまた、一覧表を見てください。
実はこの表には「長屋」が無いんですが、長屋=住宅だと思ってください。
住宅、共同住宅、寄宿はは同じくくりになっていて、表の一番上です。
工業専用地域以外は、すべて〇がついています。
つまり、工業専用地域以外では理論上、どこでも住宅宿泊事業を実施することが出来るということです。
ここが、旅館業との違いであり、住宅宿泊事業の一番のメリットです。
ただし、実際の運用としては、各自治体の条例で制限がかかっているため、メリットが薄まってしまっている状況です。
用途地域×特区民泊
特区民泊は、国が指定した国家戦略特区の中でのみ認められている特別な民泊営業スタイルです。
ちょっと正確ではないですが、できる地域がとても限られている、ということです。
特区民泊が今特に活用されているのは
・東京都大田区
・大阪府
・大阪市
の3つの自治体です。
一応、他にもあります。
特区民泊については、原則、旅館業と同じ用途地域で行うことになります。
ただし、特区民泊を実施する各自治体が条例などで、実施する地域をコントロールすることが出来るのが特徴です。
ですので、特区民泊を行いたい場合は、
まずそもそも特区民泊を行うことが出来る自治体なのかということ、
次に物件所在地が民泊実施可能エリアかどうか
ということを、情報収集する必要があります。
細かいところは、特区民泊を行っている各自治体のページをご覧いただければわかりやすいかと思います。
さて、今回は民泊×用途地域をテーマにして説明をしてきました。
これは物件を探す際に一番重視しなければいけないところで、この用途地域を外してしまうとそもそも営業許可が取得できない、なんていうことがよくあります。
実際にご相談を受けてくる中でも、そもそも用途地域でダメですねー、なんて回答をしなければいけない場面に遭遇します。
ぜひ、物件選びのご参考にしてみてください。
民泊手続きに関するご相談も、受け付けています。
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