
自衛隊のパワハラ・セクハラ…元女性自衛官が性暴力で告発した件で私が思うこと。
最近、五ノ井さんの性暴力の告発に端を発して自衛隊のセクハラ・パワハラ問題が取りざたされてきております。この件はセンシティブな事件であるため、ここで書くことにしばらく躊躇しておりました。しかし私自身、退官後に感じた自衛隊の雰囲気といいますか、独特の空気感にずっと違和感がありました。
また彼女が実名でしかも人々の面前で被害を告発。組織のトップが直接謝罪したことに驚きましたし、彼女が公然の前に立つ勇気に私は感動しました。
この事件がもとで組織が少しでも健全化することを願います。
実のところを申しますと私も過去、自衛官でした。簡単な経歴は以下の通りです。
事件について
今回の記事はPERCENTonlineを参考にさせて頂きます。
細かな点についてはリンク先を閲覧、もしくは各種メディア媒体で検索お願いします。事件の要約として、
配属された部隊で日常的に男性隊員によるセクハラが横行していた。演習中に酷い性暴力を受けても誰も助けてくれなかった。
自衛隊内の警察組織である警務隊がきちんと調査をされなかった。結局、検察側で不起訴処分になった。
組織としてハラスメントに対してうやむやにして終わらせようとする姿勢が散見された。
結局は退官後、彼女は顔出し実名で公然に訴え、陸上自衛隊トップが本人に直接謝罪。5人の隊員を免職とするなど関係者を懲戒処分となりました。
自衛隊特有の独特の雰囲気
事前に断っておきますが、大多数の自衛官は真面目に「国民の負託にこたえる」仕事をしております。自衛隊こそ、この国の福祉を守る最大かつ重要な組織であると認識しておりますし、尊い仕事の内のひとつであると信じております。
下記は「服務の宣誓」といって入隊時に必ず皆が大声で誓いを立てる儀式をします。私もやりました。
必ずしも自衛隊組織全体が悪い訳じゃないことを私のスタンスとしてお伝えいたします。
私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもって専心職務の遂行にあたり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえることを誓います。
しかしながら組織的に閉鎖的であるためかセクハラ・パワハラをする一部の人間に対し有効的な対策がなされていないなと思いました。
またそういう行為をする者は自身の行為に対してその自覚がない、または軽視しており、自己主張が強く(我が強い?)、上司に対しての言い訳がうまいなと思いました。
また組織としても(私がいた当時は)事件を大ごとにせずにやり過ごす、またはキチンとした解決なく終わらせがちにみえました。
例えをあげるなら…
古参隊員が間違って部外に送ってはいけない通信系で送信 ⇒ 上司である幹部が通信を監査する部隊の幹部と話をつけて収めた。
部下に対して日常的にイジメじみた言動を繰り返す隊員がいた ⇒ 口頭注意するのみ
女性隊員に対してみだりに私生活についてしつこく訊いてくる(「彼氏いるの?」etc…) ⇒ そこにいた上司も含めて皆スルー
同僚の女性隊員がいないところで、その人の身体的特徴をネタに笑いをとる ⇒ もちろんスルー
酔った勢いで暴力沙汰、痴漢行為、破廉恥行為をした ⇒ 流石に「注意」などの処分は受けたものの、しばらくして職場復帰。なんなら昇任もしている
ざっと思い出しただけでも、このような行為を上司が「穏便に」対処されたように思います。
当たり前ですが、そのような行為をする人間を周囲の隊員は好意的に思わないですし、ほとんどはそのようなことをする者を快く思ってはいません。しかし、それよりも組織内には悪い意味で「和」を重んじるような雰囲気を感じました。それは被害者側が加害者に対して強い対処を上に嘆願すると、面倒なことを大ごとにする「和」を乱す奴、空気が読めない奴扱いする雰囲気もありました。
「普段やられているお前にも落ち度があるんじゃないか?」
「今は忙しいから後にしてほしい。また同じようなことがあったら報告して」
などと、被害者の訴えを軽く流す上司、同僚もいました。
ひょっとしたらこれは自衛隊に限らず、保守的な組織あるあるかもしれません。ただ先の事件にも彼女が中隊長に報告しても「今は演習中だから」の一言で一蹴した話など、自衛隊でよくある話だなと(もちろん悪い意味で)思ってしまいました。
ただ彼らを弁護するつもりは毛頭ないですが、こうした報告を受けた場合、上司である幹部自衛官側からすると、ただでさえ会議や次の訓練の準備、書類作成等に忙殺されている上に悪質なセクハラ事案が自分の部隊内で発生したら更に仕事が増えてしまい、正直「面倒くさいから後にしてくれよ」という気持ちになります。また大ごとになると自身の管理能力が問われることにもなり、どうにかして穏便に済ませたい自己保身の心理も働くのでしょう。
実際、私もパワハラ被害を受けたときに上司である幹部自衛官は業務が忙しいのかまともに取り合ってくれず、当時仲の良かった曹長(下士官の一番上の階級)にお願いして対応してもらいました。もちろん部隊内では「ちょっとしたトラブル」程度の扱いでした。
「良い」自衛官とは
これはあくまで私見ですが「長く続けられる自衛官」とは「空気を読んで波風を立てない、無難に仕事をこなす人」だと思います。また、そういった人が評価されている気がします。多少の理不尽にも耐えながらも業務をこなす、理不尽さも仕事の内。そんな雰囲気はありました。またそれを大っぴらに力説する先輩もいました(そんな人間に限ってパワハラ・セクハラ体質がありました)。
そのため高い志(こころざし)を持って入隊される方、その理不尽さを受け入れられない方、正義感の強い方はすぐに辞めていくように思います。実際、私の同期で意識の高めな仲間たちは数年程度で組織に見切りをつけて、さっさと辞めていきました。名誉のためにいいますが彼らは決して落ちこぼれではなく、優秀な者たちでした。
私自身、当時「良い自衛官」とはさまざまな理不尽さを流せる人、ある程度我慢し続けられる人なのかなと無意識的に勘違いしておりました。もちろんそれは間違っておりますし、健全な職場環境ではありません。
また自衛官は世間が思うような猟犬的で戦闘的な人間ではありません。むしろ(私の感覚ですが)大多数が牧羊犬に従う羊のような人間です。立派な「羊」になった私は退職後にだいぶ苦労しました。羊なので目上の人の理不尽に耐える人間になれました(だから今、うつ状態になったのでしょう。皮肉なものです)。
その羊の群れの中にパワハラ・セクハラ体質な人が入ればある意味、天国でしょう。多少問題を起こしても咎められないのですから。もちろんあくまで多少ではありますが。
こうした組織的に悪い意味で「和」を重んじる雰囲気、そしてこのような問題を引き起こす者に適正に処罰できない、なれ合いの環境にこそ今回の事件を引き起こした原因のひとつではないかと思うのです。
私はこの記事で何かを変えるつもりもありませんし、恐らくその力はないでしょう。ただ私が強く願うのは、彼女の英断によって古巣である自衛隊という組織が少しでも良くなること。ただそれだけです。
ありがとうございました。