現代アート「My fair prisoners!?3」の森繫久彌さんの調書とエッセイ※全文掲載
この方は、国民栄誉賞を受賞された男性の俳優さんです。多くの人が好きな映画に挙げている「夫婦善哉」の主役の一人をやられました。僕もDVDを持っています。僕は、俳優のイメージが強いですが、「知床旅情」の作詞作曲もやられています。名前は、森繫久彌さんです。
―――――――――――――――――――――――――――――
My Fair Prisoners!?調書
囚人番号:20201122094313
名前:大根役者
懲役:96年
服役した刑務所:大阪府枚方市
音楽:ディキシージャズ、民謡。
映画:「夫婦善哉」チャップリンの映画全て。
本:「人間の証明/森村誠一」、大江健三郎の本全般。
罪:母親のすねばかり高校生までかじっていた事。
喜:テレビに出る事が決まった瞬間。年をとってから、国民栄誉賞を頂いた事。
怒:戦争。
哀:長男に先立たれた事。芝居が上手く出来なかった時。
楽:芝居の稽古。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「大根役者」さん
幼少期は喧嘩の毎日。とにかく母親に怒られた記憶しかないと言っていいほど。 戦争時代に生まれて、近くに御死があったため、恐怖には強かった。戦争は絶対に駄目。戦争でいい事など一つもない。これは言い切れる。 第二次世界大戦の時は、身体が弱く、兵隊さんにはなれなかった。命を惜しむ気持ちもなかったが、戦後、誰よりも御死を怖がった自信はある。死ぬ直前になって、やっと御死を受け止める事が出来た。そういうものだと思う。
世界大戦後、俳優、声優、歌手、喜劇役者などやってきた。 特に真面目な芝居が好きだった。芝居をやっていると、生きている実感が得られたから。それが理由。友人は多かった。芸能界だけでなく、昔からの友人との交流は楽しかった。多くの人に慕われている事が、心苦しかった。自分の悪人根性が顔を擡げては、「お前、そんなにいい奴ではねえだろう?」と言われる気がするからだ。この感情は、戦争に作られてしまったと思う。
「知床旅情」の作詞作曲は自分が納得出来た仕事。自分を誇りに思える事の一つ。
いい記憶で残っているのは、映画「夫婦善哉」だ。肩の力の抜け具合を監督さんに褒められ、死ぬほど嬉しかった。そのお蔭で、役者を続けて行けた。生まれ変わっても、役者になりたい。たとえ「大根役者」でも、生きている実感を得られる芝居に憑りつかれた「大根役者」だった。
(了)
※この方も刑期を終えました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?