【人材開発研究大全①】第10章 OJTとマネジャーによる育成行動 松尾睦
最近、大学院の同級生で読んだ論文をnoteにあげている方が多いので、それに習って新たな試みを行いたい。
自分の興味ある論文を取り上げることも考えたが、まずは、いろいろな分野の論文を読んで知見を広げようと思い、中原淳編「人材開発研究大全」(東京大学出版会)から面白そうだなと思うものから順次手をつけていきたい。
全33章。いつまでかかるか?読むだけなら毎日1章読めそうであるが、書くとなると・・・。うーん。今年中には終わらせたい。
まずは、最近、「経験学習」について関心が強いため、松尾睦先生の論文、「第10章 OJTとマネジャーによる育成行動」から。
概要
伝統的なOJT研究については、特定のスキルを特定のスキルを移転する行為であったが、環境の複雑性が高まっている現在、状況によって仕事の進め方が変化するオープンタスク(Open Tasks)におけるOJTのあり方を探究する必要があるとして、管理者コーチングと経験学習の観点からOJTの方法を再検討して、新たなOJTの統合モデルを提示する。
経験学習とコーチングの観点から捉えなおすことの背景としては、以下2つの理由を上げる。
OJT研究の概観
まずは、OJT研究について振り返っていく。
OJT研究の起源は、第一次世界大戦時に造船所で実施されていた職業訓練方法にさかのぼるという。
アメリカの技術者チャールズ・アレンが考案した4ステップの指導方法を紹介する。
これは、今日でも、実施されている方法だろう。
そして、OJTのメリットとして以下を挙げる。(van Zolingen et al.2000)
その他、OJTには、従業員の組織コミットメント・能力・賃金・生産性を高め、離職を防止する効果があるという。
ただ、これらの研究は、生産現場で特定の加工技術を訓練するケースのように仕事のステップが明確に決められているクローズドタスク(Closed Tasks)を対象にしたものが中心であったと指摘する。
一方で、ビジネス環境が不確実になり、今後求められるのは、手続きや流れが明確に決められていない複雑な仕事、すなわち状況によって仕事の進め方が変化するオープンタスク(Open Tasks)に対するOJTであるとする。
この点についての先行研究として、Lohman(2001)による演繹的OJTと機能的OJTの区別を紹介する。
今後は、オープンタスクにおける帰納的OJTのあり方について検討する必要があるとして、従来からこの問題を扱ってきたとして、管理者コーチング研究を紹介する。
管理職コーチング研究
管理職コーチングは、日常の職務活動の中で、上司が部下に提供する支援活動であり、第一線の現場マネジャーにも必要なスキルである(Bulter et al.2008、Eliinget et.al2011)
部下を育成する能力を持つマネジャーほど、コーチングスキルを自身のマネジメントスタイルに組み込んでいるとのことである(Orth et al.1997)
松尾は、管理者コーチング行動を、基盤形成、内省支援、問題解決支援、挑戦支援の4つのプロセスに分けて分類し、従来のコーチング研究が、問題解決支援に焦点を当ててきたとする。この4つのプロセスは、順番に行われるのではなく、相互に関係しながら実施されるとする。
これを端的に言い表したのが、以下の文章である。
このような特徴を持つ管理者コーチングは、状況によって仕事の進め方が変化するオープンタスクにおけるOJT手法として有効だという。
経験から学ぶ能力
またオープンタスクにおけるOJTを考える上では、経験学習に関する理論が重要だとする。
本論文では、先行研究をもとに、経験から学ぶ能力のモデルを提示する。
経験学習サイクルを直接的に促す、「挑戦的仕事の追求」、「批判的内省」、「職務エンジョイメント」とその3つの要因を高める「学習志向」と「発達ネットワーク」からなる。
これらは、松尾先生の「経験学習入門」にも書かれており非常に影響を受けた。
私自身を振り返ると、学習志向は高いが、発達的ネットワークに課題があるなと感じている。
日本企業における「優れたOJT担当者」の実証研究
そして、優れたOJT担当者がどのように若手社員を指導しているかについて、日本の中堅・大企業22社に勤務するOJT担当715名に質問紙調査を実施した結果を紹介する。
因子分析の結果、「目標のストレッチ」「進捗のモニタリング」「内省の支援」「ポジティブ・フィードバックの提供」に分類する。
これらを見ると優れたOJT担当者ほど、経験から学ぶ能力を伸ばす形で部下・後輩を指導しているのがわかる。
各々の関連の対応関係は、以下の通りである。
OJTの統合モデル
そして経験学習や管理者コーチングの先行研究を踏まえて、OJTの統合モデルを提示するというのが、本章の結論である。
OJT担当者の指導方法を、コルブの経験学習モデルをベースに統合した以下のモデルである。
感想
OJTというと、トレーナーに任せきりになってしまい、人によってバラツキが出てくるという印象が強かった。
特にオープンタスクについては、マニュアルや手順書が利きにくいため、そのバラツキがさらに大きくなりがちだと思う。
このようなモデルをベースに考えると、トレーナーによるバラツキも少なくなるし、質の高いOJTが提供できるのではないだろうか。
ただ、言うは易く実践は難しい面もある。OJTを統括する人材育成部門などによるトレーナーの啓発が重要なのかなと思う。
特に私自身への示唆としては、失敗したり、結果悪くてもポジティブ・フィードバックする、ということと進捗のモニタリング。
これはOJT以外でも部下と接する時などに活用できるし、忘れずにいたいことである。
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