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【読書録131】まずは組織開発を感じろ!!~中原淳・中村和彦「組織開発の探求」を読んで➀~

 日本の組織開発研究の第一人者、南山大学の中村教授と、同じく人材開発研究の第一人者、立教大学の中原教授の共著である。

 面白くないはずがない。

内容が濃く、40万字、400ページを超える大著なので、何回かに分けてまとめていきたい。


「はじめに」を読んで

本書をしたためるきっかけとして、著者は、「はじめに」でこのように語る。

現在、日本における組織開発は、半世紀ぶりにめぐってきた「最大のチャンス」を経験している、と同時に、「最大の危機」を迎えつつある。

雇用形態や価値観の多様化により、組織や社会から求められる「組織開発」。一方で、過去にもブームがあり、それは消え去った。その過去の過ちを繰り返さないため著者らは、本書を書こうと思ったという。

そのきっかけとなった二人の研究者としての問題意識からの交流というのも非常に興味深いので是非「はじめに」を読んで欲しい。

本書の目的を以下の3つという。

➀組織開発の初学者が、組織開発の概略について理解を深め、自分の言葉で語ることができるようになること。
➁組織開発の領域で深い経験を持つ実践者が、組織開発の誕生の歴史、思想を理解し、それらを自分の言葉で語れるようになること
③組織開発に関心のあるすべての人々が、組織開発の実践について理解し、それらを参考に、自社においてアクションを取るヒントを得るようになること

「初級編」、「プロフェショナル編」、「実践編」と進んでいくが、このnoteでも順番に記載していくこととしたい。

 本文に入る前から、ワクワクさせられる「はじめに」であるが、中でも、中原教授が本書を編み上げて今後10年の探究のテーマとして、「組織開発と人材開発の統合」に賭けてみたいと語る場面には、胸が熱くなる。

そして、この言葉が、本書を通じてのテーマであるような気もする。

よき組織開発は人材開発を伴う。
よき人材開発は組織開発とともにある。

組織開発とは、風呂敷である

 第1部の初級編では、「第1章 組織開発とは何か」からはじまる。
「組織開発」とはという定義は、学術的に、1つに定まった物はなく、「27通りの組織開発の定義があり、60個もの変数が存在している」という。
そんな中、WorleyとFeyerhermは、組織開発の定義の共通項を以下の通りまとめる。

➀計画的な変革であるということ
➁行動科学の知識を用いること
③組織の中で起こるプロセスを対象にすること
➃組織が適応し、革新する力を高めること

 これでもなかなか何をするのか理解できないので、組織開発の手法に目を転じるとこちらも全く理解ができないカタカナ用語が並ぶ。

 サーベイ・フィードバック
 チーム・ビルディング
 Tグループ
 ホールシステム・アプローチ
 フューチャーサーチ

著者は、そんな難解な定義やカタカナ語に翻弄されず、組織開発を一言で、こういう。

組織開発とは”風呂敷”のようなもの

思い切った一言である。いろんな概念を包み込んでいるという意味で、まずは、組織開発を感じろという。

3つの手がかり


 著者は、組織開発を「風呂敷」だと言った上で、組織開発を感じるための手がかりとして3つ掲げる。

(1)組織開発とは、組織をWorkさせるための意図的な働きかけ
(2)組織開発に注目が集まる背景を理解する
(3)組織開発のステップ

ひとつづつ見ていこう。

1つ目は、組織開発とは、「組織をworkさせるための意図的な働きかけ」という簡便的な理解を、いったん受け入れるということである。

組織をworkさせるとは、バラバラのメンバーが組織やチームとして体を成し、上手く動くことだと言う。
そして「うまく動く」とは、

「メンバー同士に相互作用があること」
「共通の目標に向かってメンバー同士」が動いていること

だという。

めちゃくちゃ解像度が上がってわかりやすい。

そして、2つ目は、「組織開発に注目が集まる背景(社会的背景)を理解すること」というが、具体的には、

➀職場の多様化
➁待てない職場
③個業化
の3つを社会的背景として挙げる。
とりわけ、多様性は、職場の遠心力が働きやすいので、求心力として、組織開発が重要とするのは、わかりやすい。

またこれら3つの社会的背景は今後もますます進んで行くと思うので、組織開発の重要度は増していくかなと感じさせられる。

そして3つ目が、組織開発のステップから理解することである。この3段階のステップが秀逸である。

➀見える化 What ? 
➁ガチ対話 So What?
③未来づくり Now What? 

すなわち、➀見える化=自分の組織の問題を「可視化」する、➁ガチ対話=可視化された問題を関係者一同で真剣勝負の対話する、③これからどうするか関係者一同で決めるである。

本当、わかりやすい。

大切な事は本質的なことは、いつだって「シンプル」です。

著者の言葉であるが、本質を掴んだ人でないと、シンプルにはできない。

企業における組織開発の実際


 少し話の筋が変わって、企業の中で組織開発を実践していく場合の、「生々しいリアリティ」を3つにまとめてくれているのも、すごく的確に、言い表していると感じる。

➀企業内での組織開発は人材開発と”ちゃんぽん”になりがちである。
➁企業内での組織開発は、ときに「血生臭い」人事プロセスとセットになって実施されることがある。
③企業内での組織開発は、想定外のことが次々起こる「即興的実践」になりがちである。

企業で働くビジネスパーソンとしては、非常によくわかる。そんなに綺麗にいかないよという事である。

組織開発と党派制


 そして最後に党派制をめぐる考えで締めくくっている。

組織開発を巡る人々が党派に分かれ、対話を失わせている実態こそが、組織開発の健全な発展を妨げていくものだ

杉原保史の「技芸としてのカウンセリング入門」の文章をもじって、以下のように組織開発の党派制のあやうさを語る。

現在の組織開発には、非常に多種多様な立場があり、それぞれが違った主義主張を闘わせているからです。
(しかし)組織開発とはこういうものだという、あらかじめ固定された考えに縛られること自体が、まったくもって非組織開発的です。
組織開発とは何か、という問いは、ある意味で些末な問いです。極論すれば、クライアントがより生き生きと豊かに生きられるよう援助できるのなら、何をしたっていいのです。
繰り返し述べます。
何をしたっていいのです。
むしろ組織開発とはこうするものだというあらかじめ人から与えられた枠組みで自分を固く縛ることには、あなたの中の援助のリソースを休眠させてしまう危険性があるのです。

初級編を読んだだけで非常にワクワクとさせられる。

それから、組織開発がこれからもっと重要視されるであろう事もわかる。

いよいよ次から、本編である。

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