【人材開発研究大全③】第17章 経営理念と人材開発 高尾義明
三本目は、経営理念についての研究を取り上げたい。
著者は、東京都立大学の高尾義明先生。私の勤務先でも経営理念をとても重要視しているため、大変興味深く読んだ。
概要
タイトル通り、人材開発の観点から、経営理念の浸透や共有の効果を検討している。
なお、本章において、経営理念の定義は、高尾・王(2012)に習い、以下の通り定義する。
経営理念の浸透ってどういうこと?
本章を読んで、理念浸透について、様々な先行研究があるんだなあと思った。
まず経営理念には、色々なタイプがあるとして、以下の分類を紹介する。
その中でも、近年は、「方針型」の理念が掲げられることが多くなっているという。
経営理念の浸透とは、具体的にどういうことなのか?
マクロレベルで言うと、経営理念が事業や製品・サービス、制度などに反映・体現されていること(野林 2015)であるが、組織成員個々人というミクロのレベルでは高尾・王(2012)では、以下のような構造、レベルがあるとする。
そして、重要なのは行動への反映であるとして、情緒的共感と認知的共感が行動的関与に対しての影響を分析する。両方とも行動的関与に正の影響があるが、認知的理解の方が、影響が強いという結果がでたことを紹介する。
一方で、行動を内省することで経営理念の理解が深まるというフィードバックも生じているいう先行研究も紹介する。なかでも、なるほどと思ったのが、以下の指摘である(田中 2013)。
確かに自分の行動を振り返ったときに、後から振り返って、これって企業理念に当てはまったりしていると、行動→理解というプロセスを感じることはよくあるなと思うし、そのことが自分自身の内省を深めてくれるのという効果もあると思う。
理念の個人への浸透について、高尾・王(2012)では、「理念的カテゴリーによって定義される組織アイデンティティと個人アイデンティティの融合プロセス」と定義する。
洗脳や価値観の注入と経営理念の個人への浸透の違いの指摘も興味深かった。
そもそも同質化のために、経営理念の浸透をするのかについては、以下の見解が私としてもしっくりときた。
理念共有が人材開発にもたらす効果
いよいよ本題の経営理念と人材開発についてである。
これは、肌感覚と合う部分である。
また面白かったのが、経営理念の浸透が、個人のアイデンティティ発達につながるという論考である。
例えば、本章では、田中雅子先生の論文(若手成員の経営理念浸透プロセスとシンボルの重要性、経営哲学 Vol.11、2014)において、若手成員の経営理念浸透プロセスを検討し、
「本人が理念に見出す意味が、その後の理念の理解だけでなく、職業人生の指針になる可能性」を指摘していることを紹介している。
それを受けて、本章では以下のように言う。
経営理念は、創業者の考え方、哲学を反映していることが多いと思うので、理念を通じて、自分の働き方、もっと言えば生き方にまで、思考がおよび、アイデンティティの発達や個人の成長につながっていくというのは理解できる。
アメーバ経営においてコンフリクトへの直面がきっかけとなって、経営理念についてのアメーバリーダーの解釈が進むとともに、リーダーしての考え方が修正され、アメーバリーダーがメンバーに新たな考え方を伝えるというプロセスを紹介している(寺本2015)。
そのような、コンフリクトの際に立ち帰ることとして経営理念が機能しているというのは、経営理念浸透の証であるし、リーダーシップ開発のプロセスと言うのもなるほどと思った。
感想
経営理念の浸透についても、様々なアプローチによる研究があるのだなと言う印象をもった。私としては、個人のアイデンティティ形成に、経営理念の浸透や内面化が影響しているというのは興味深かった。確かに創業者やトップの哲学、考え方を踏まえて経営理念はつくられており、従業員個々人のアイデンティティ形成にも影響を与えるのは間違いないと思う。本書で触れられているように、注入や洗脳ではなく、浸透というような形で根気よく、そしてプロアクティブに捉えていく仕組みが必要なのではないかと思う。
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