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【読書録104】致知2023年11月号「幸福の条件」感想

 致知の感想をnoteに書いて、今回が26回目。ずっと続けていきたい習慣である。
 今回の特集は「幸福の条件」。なんとも直球なタイトルであるが、登場する人々の深さ、そして実体験から導き出した考え方には共通点が多く勉強になる。



総リード  幸福の条件


「大学」の冒頭にある、人の上に立つ人間にとって三つの大事である三綱領を人が幸福に生きる道を説いているとして紹介する。

明明徳  明徳を明らかにする。(自分を創る)
親民   民に親しむ(相手と一体になる)
止至善  至善に止(とど)まる(理想に向かって歩み続ける)

そして八木重吉の詩を紹介してこう言う。

ひとすじの気持ちでひたむきに生きている時、人は幸福である。人でも仕事でも物でも、その対象と気持ちが一つになり切った時、人生、これほど楽しく幸せなことはない。私たちもそういう生き方を目指したいものである。

幸福と快楽は、違う。

本号では、様々な人の「幸福の条件」が語られる。共通することは、真摯さの中に幸福はあり、他人のために尽くす中に幸福はあり、人との協力関係や支えの中に幸福はあり、ということであろう。

総リードでは、先達たちの幸福についての言葉を多く紹介してくれているが、その中から、私の心に響いた2つを紹介したい。

「われわれ人間が不幸に対処する態度としては、不幸を回避しようとしないで、あくまでそれに耐え抜くことによって、やがてそこには全く思いも設けなかったような大きな幸福が与えられるということであって、そのことの示す真理性については、わたくし自身もその永い生涯の上に、これを身証体認してきたといってよい」(森信三)

「災難や苦難に遭ったら、嘆かず、腐らず、恨まず、愚痴をこぼさず、ひたすら前向きに明るく努力を続けていく。これから将来、よいことが起きるために、また自分という人間をさらに磨き成長させてくれるためにこの苦難があるのだと耐え、与えられた苦難に感謝すること。よいことが起きれば、驕らず、偉ぶらず、謙虚さを失わず、自分がこんな良い機会に恵まれていいのだろうか、自分にはもったいないことだと感謝する。これが素晴らしい人生を生きるための絶対の条件です。」(稲盛和夫)

偉人たちの言葉は、真理なのであろう。私もこんな心境になれるようにしたい。

幸福な生き方と死に方

 
 人間の生と死を見つめ続ける医師2人による対談には、感じ入る所が多かった。
お一人は、八十七歳の今も医療現場に立ち続けるホリスティック医学・第一人者の帯津医師、もうお一方は、ホスピス医とそて、四千名もの患者を看取ってきて、人財育成にも尽力する小澤医師である。

 
 ホリスティック医学とは、体・心・命を一体と捉え、人間を丸ごと対象とする医学であるという。ホリスティック(Holistic)は、ギリシャ語のholosを語源とし、全体・関連・つながり・バランスという意味だという。

  正直言って、私には、医学的なことはよくわからない。
ただ、帯津先生の「生と死を統合する」「患者さんに真に寄り添う」という考え方には、共感した。そんな考え方になった一つの契機が、僧侶から言われたこんなひと言だったという。

死を命の終わりではなく命のプロセスの一つとして考えると、死の向こう側が見えてくる。その時に命に寄り添うことができるのではないでしょうか。

 なかなか深いひと言である。そして、87歳になる帯津先生は、「人生の幸せは後半にあり」と言い、「アンチエイジング」ではなく、「ナイスエイジング」だと言う。

「アンチエイジング」という言葉が広まっていますが、いくらまなじりを決して老いに立ち向かったところで、いつかはやられてしまう。むしろやられることを承知の上で楽しく抵抗しながら老いを少し先送りする、多くを望まない。その上で一日一日を精いっぱい楽しく生きる。

 そんな生き方が、生と死の統合に繋がるという。
先日、ある読書会で、ユングの「今は人生の何時か?」ということについて話をした。あまり歳のことは考えず、一日一日を楽しく精いっぱい、やりたいことに取り組んでいけば、下り坂の午後は来ないのではないだろうか。そんな風に考えた。まだ50手前。午前中だと考えても良いのだ。永遠に下り坂の午後は来ない。それこそ「ナイスエイジング」と言えるのではないだろうか。

 一方のホスピス医の小澤先生のお言葉も深みがあるものばかりである。
「一人称の幸せには限界がある」として、「自分がいることで誰かが喜んでくれる」ことこそ、一番の幸せであるとする。

終末医療に携わる中、死生観を押しつけないことが大切だとしてこういった。

大切なのは、患者さんお一人おひとりが大切にしている者は何かを感じて、医療者としてそれを精いっぱい応援すること

「医師として、力が及ばす悔しい思いをしたケースが強く印象に残っている」としてこういう。

医師としての資格や技術を持ち、どんなに頑張って患者さんの力になろうと思っても、結局は一人の弱い人間であることを患者さんと接する中で思い知らされました。しかし、その絶望感の中でふと思ったんですね。人間は弱いからこそ自分にとって大事な何かが見えてくるのではないかと。

医師にとって大切なのは、すべてを解決できる力ではなく、苦しむ誰かと関わり続けるたおやかな力であることを、自分の弱さを通して気づいたんです。

 弱いからこそ、苦しみがあるからこそ、何が大切かがわかる。
私にとって、それほど重たい経験をしたことはないが、コロナになった時、子どもの手術のときなど苦しい時になって何が大切か、誰が大切か分かるものである。

 死を間際にした患者さんから多くを学んだという小澤先生。

 物事がうまくいっている時は大事なことがなかなか見えません。だけど暗くて苦しい時に大切なことに気づきます。それは特別なことではなく、何気ないことだったり、当り前のことだったり・・・・・。

 私にとって、何が大切か?もう答えが出ているのだと思う。
家族であり、好きな本を読むことであり、好きなライブを見に行くことであり。

 対談の最後、お二人が語ることがまた良い。

小澤先生は、「幸福の条件」についてこう語る。

いま問われているのは目に見える富や名声をいかに得るかということではなく、たとえ質素な生活であったとしても横の繋がりを大切にしていく生き方だと思います。

私はこのような時代こそ、弱い自分を認め、それをいいと言って肯定してくれる人たちの存在が必要だと思うんです。

一方の帯津先生は、地球自身の自然治癒力がますます落ちてきているのを危惧していると言う。

地球が自然治癒力を失い、自らを再生する力をなくしてきていることは確かだと思います。(中略)そこで大切なのは地球上に生きる人間一人ひとりの意識です。

これからの人間は一個人の幸せばかり考えるのではなく、社会や地球全体のことを意識し考え、行動することが幸福を考える上では大切だと思います。

身近なことから地球という大きなことまで、共通するのは、対談で引用されるアインシュタインの言葉だ。

人は自分以外のもののために生きられるようになってはじめて生のスタートを切る

自分の人生の意義を考えるのにとても役に立つ。結婚し、子どもを持ち育てる中で、私もようやくスタートに立てたような気がする。まだまだ人生これからだ。ナイスエイジングの心意気で、毎日過ごしたい。

企業繁栄への道


 二人の企業経営者による対談記事。
一人は、関東で和食レストランを中心に直営八十四店舗を展開する坂東太郎の青谷会長。もう一人は、鶏肉の加工販売を手掛け、種鶏処理業界トップを走る鹿児島の南薩食鳥の徳満社長。二人には、致知出版社から著書を出しているということと、共に幸福創造企業を目指している会社を率いているという共通点がある。
 そんな二人の対談記事は大変興味深い。

二人とも、一番大切にしているのは、「社員だと言う」。

青谷会長は、こういう。

私が一番大切にしているのは社員です。二番目が取引業者さん、三番目がお客様だと考えています。

「お客様を大切であるからと考えるからこその順番」だという。
社員を大切にすれば、この社長のために頑張ろうと思い、満たされた社員がお客様を大切にする。そして、お客様を喜ばせてくれる業者を大切にすることの重要性を言う。

一方の徳満社長も全く同感として、同社の「経営の心得」第六条を紹介する。

顧客満足の追求は第一義なれど、社員満足無くして顧客満足はないものと知れ。又企業発展の礎は全て和親一致の精神からもたらされるものであり、その為にも相互信頼・融和強調を基本に、個人の創造力と組織の強みを最大限に高め、生かし得る企業風土を作らなければならない。

また両名とも、家族、特に奥さまの支えの大きさを語っているのが印象的である。

徳満社長は、

俺の人生これで終りだと思うような時も、「何とかなるわよ、お父さん」と。これに救われました。一緒になって「ああ、どうしよう」と言われたら余計に落ち込む。大した女房ですよ。感謝しかありません。

一方の青谷会長もこう応ずる。

女房が支えてくれるから、どんなことが起きても仕事をやれるんですよね。本当にその通りだと思います。一番身近な人たちの理解や応援、これが最も大きな力になることを私は今回のコロナ禍で目の当たりにしました。

 私も家族の支えというのが一番大きく自分を支えてくれている。家族がなければ、私は私ではない。私の一番の柱である。

 また徳満社長の以下の言葉にも非常に共感をもった。

幸福を創造するためには、まず自分自身が幸福でなければなりません。自分を犠牲にして人のために尽くすという姿勢は尊いですが、そういう生き方には限界があると思います。自分が幸福を感じながら日々過ごすと共に、周りの人たちに喜ばれるささやかな貢献をしていく

 私にとっては、家族と一緒にいることが幸福の源泉である。
転勤の時期になると、地方での勤務を打診されるが、転居をともなう転勤は断り続けよう。昇格や昇進よりも重要なことってある。自分の生活の基盤を失ってまで会社や仕事に縛られるのはナンセンスだと改めて強く思った。

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