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【人材開発研究大全⑥】第8章 入社後の初期キャリアに対する就職活動の影響 高崎美佐

 今回は、就職活動が、入社後の自分のキャリアにどのように影響するかの研究についてである。
 私自身、もう30年近く前であるが、就職活動を通じて、ほぼはじめて企業や社会人というものと向き合い、また自分を知ることで大きく成長できたと思っている。
 そのためか、本章を読んで、納得するところが多かった。


概要

 従来、就職活動に関する研究と組織適応に関する研究は、そろぞれ独立して行われてきたとする。本章では、就職活動を通じてどのような変化が大学生に起こりうるか。またその変化によって入社後の初期キャリア形成にどのような影響があるのかを実証研究をまじえて検討している。

先行研究

 就職活動とその後の組織適応に関連する研究の蓄積はあまり多くないとするが、いくつかを概観する。

・Saks & Ashforth(2002)
 就職活動の内容や良によって組織適応間が高まること、入社前のキャリアプランニング行動が仕事満足や組織コミットメントなどの態度に影響を及ぼす
・竹内・竹内(2009)
就職活動中のキャリア探索行動によって入社時のコミットメントが高まる

 また第9章の際にも紹介した、RJP研究(Realistic Jon Preview)についても紹介している。

就職活動を通じた変化

 本章において、「就職活動を通じた変化」という概念が非常に重要になっている。具体的には、以下の通り定義する。

「就職活動を通じた変化」とは、大学生が就職活動によって仕事や職業についての視野をひとげること、就職後のイメージを持つこと、仕事に関する自己理解を深め、就職前に働くことを前向きに捉えることである。

 また2013年9月に東京大学社会科学研究所人材フォーラムプロジェクトで実施した就職活動に関する調査」で行った14項目の質問から「就職活動を通じた変化」についての3つの因子を採択している。

第1因子 働くことへのポジティブなイメージ
第2因子 仕事に関する自己理解の促進
第3因子 業界・仕事理解の促進

そして、本章では、「就職活動を通じた変化」についての実証研究を2つ紹介する

実証研究その1

(目的)

 ①新規大卒者採用時に企業が重視する積極性や意欲が入社後に定着し能力を発揮するために重要なのか検討すること
 ②入社後に定着しの売る多くを発揮する可能性が高い人材の採用時点で確認可能な特徴を明らかにすること

(仮説)

 ①第1希望ではない企業に入社した場合に比べて第1希望に入社した場合は有意に「定着意思」が高くなる。
 ②初期配属職場における仕事の内容、上司の支援、職場・同僚の状況は「仕事への自信」に有意な正の影響を及ぼす

(方法)

東京大学社会科学研究所の人材フォーラムのプロジェクトとして2013年に20代正社員に対して実施した「就職活動に関するアンケート調査」の個票データを分析に利用した。

(実証結果)

人材開発研究大全 第8章 図3

・仮説1、仮説2ともに支持された。
・「就職活動を通じた変化」が初任配属職場の諸変数を媒介して、「仕事への自信」、「間満足・定着意思」に影響を及ぼしている可能性を示唆
・「就職活動を通じた変化」は、「仕事への自信」「満足・定着意向」に対して直接効果も大きい
・従来の選考でじゅうしされてきた積極性や熱意の代理指標である「第1希望への入社」よりも「就職活動を通じた変化」の方が、入社後の人材育成によって能力を発揮し活躍するために必要な可能性が高い

(わかったこと)

以下の①~④に示すような連鎖が起こる。

①就職活動等を通じ入社までに仕事や自分に対する認識を深め、働くことを前向きに捉えるという変化が新規大卒者の内面で起こる。②入社後に初任配属先の上司、仕事、職場を好意的に受け止めることができる=OJTの効果を上げるために望ましい環境が成立する
③能力開発や組織適応が促進される
④入社3~5年目には、会社や仕事に適応し、就業を継続しようとする意思が高まる、仕事から達成感を得られる、仕事における自信が形成されるなど、その後の成果につながる経験が蓄積する。

実証研究その2

(目的)

「就職活動を通じた変化」をもたらす具体的な行動について明らかにするとともに、「就職活動を通じた変化」と入社後の主体的なキャリア形成との関連を明らかにすること

(概念的枠組み)

就職活動に関連する具体的な行動について、以下の3つの概念を活用。

・自己探索 自分の長所や短所を振り返ることで適性を把握しようとする行動
・環境探索 就職に関する情報を幅広く収集しようとする行動
・意図的探索 インターンなど実際の職務経験によって意図的に行う探索行動

就職活動の結果を把握する変数としては、以下の2つの概念を用いる。

・「就職活動を通じた変化」
・入社予定企業満足度

初任配属職場での主体的な行動

・Ashford&Black(1996)のプロアクティブ行動のうち、関係構築行動に着目

(方法)

研究1と同様のデータを活用

(実証結果)

人材開発研究大全 第8章 図6

・自己探索、環境探索により、「就職活動を通じた変化」をもたらし、その結果、入社予定企業に対する満足度に影響を及ぼす
・入社予定企業に対する満足度や「就職活動を通じた変化」は入社後の「仕事への自信」に影響を及ぼす

(わかったこと)

 従来の組織社会化研究では、新規大卒者は入社前・入社後にかかわらず組織によって適応させられる対象であったが、自らの就職活動や入社後の主体的な関係構築行動によって将来の職業的な成功につながる可能性が示唆された。

人材開発における「就職活動を通じた変化」

 大学側のキャリア支援の視点および企業側の視点から以下の通り述べるが、両側の視点でももっともだなと思う。内定を得る、辞退を防止するという場当たり的な対応とせず、中長期的な視点から若者を支援を行うことが必要なのではなかろうか。

・大学教育、特にキャリア支援からの視点

内定を得るためのテクニックとしての自己分析や業界研究ではなく、本来の意味での自己探索や環境探索により「就職活動を通じた変化」につながるように支援していくことが長期的なキャリア形成のために必要であるとする。

・企業の採用・育成からの視点

大学生が自分の力だけで、「就職活動を通じた変化」を達成するのは難しいので、企業の側からの支援することも企業に取っても有益ではないかとする。具体的には以下の2点を挙げる。

・応募してくる大学生が自己や働くことに対する理解を深められるような採用広報・選考を行うこと
・内定期間中には辞退防止を主目的とした内定者フォローではなく、入社し働くことに対する不安を軽減し、入社後の見通しを立てさせ、前向きに捉えられるような仕掛けも有効

感想

 就職活動は、自己を見つめなおし、自分がどうなりたいか、どうありたいかを考える良い機会である。
 なかなかうまくいかない事も多く、精神的に厳しい場面も多かったが、企業に入り、活躍するために必要なプロセスだと思う。大人の階段を登っていく感覚かな。



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