なぜウミトロンはDay1からグローバル事業を目指したのか
この記事はUMITRON Advent Calendar 2021 9日目の記事です。
はじめに
こんにちは、UMITRONのCo-founder / Presidentのマサ (@masahiko_yamada) です。ウミトロンのシンガポール法人の代表として海外事業をメインで経営から執行まで幅広く担当しています。
さて、今年は会社として初めてAdvent calendarをやることとなりました。みんなでブログを書くのは何やら楽しそうと思い、せっかくなら普段あまり公開されていないウミトロンの海外事業に関して書いてみようかと思います。他の記事も面白いので気が向いたらぜひ読んでみてください!!
ということで、Advent Calendar 9日目は「なぜウミトロンはDay1からグローバル事業を目指したのか」という内容をお届け致します。
ウミトロン創業の地はシンガポール
実はあまり知られていないことも多いですが、ウミトロンは2016年の4月にシンガポールからスタートしました。
現在は、シンガポール法人が、欧州・米州・アジアオセアニア(日本以外)の事業を担当し、日本法人が日本国内の事業を担当しています。日本事業では、水産養殖現場への技術導入に留まらず、サステナブルなシーフードをより多くの消費者に提供していくために、川上〜川下まで垂直統合的に事業を進めている一方で、海外事業は現段階では生産現場のDXに特化してウミトロンの蓄積してきたノウハウや知見を横展開しています。
今でこそ、たくさんの仲間やパートナーに囲まれていますが、創業メンバーは全員日本人であり、当初はシンガポールでの実績も、知名度も、人脈も、資金もなく、孤独で苦しい戦いが続いていました。そこまでして、なぜ実積が出る前から海外からスタートしたのか?と質問されることもあります。様々な理由がありますが、やはり一番大きいのは「最初から地球規模の課題を解決する仕事」に取り組みたかったからというのが大きい理由です。今日は世界の水産養殖やグローバル事業の可能性・醍醐味について少しお話しできればと思います。
海外ではどんな事業をやっている?
さて、まず最初にそもそもウミトロンは、海外事業としてどんなことをやっているのか、その一部を紹介していきます!
UMITRON PULSEを活用した環境モニタリング
PULSEとは、衛星データ、物理モデル、機械学習などを組み合わせ水産養殖において重要な海洋データを世界中に提供するソフトウェアサービスです。すでに世界30か国以上で使われており、例えば、
メキシコの牡蠣とムール貝の生産者がPULSEのデータを活用して栽培時期を予測するのに活用してもらったり、
地中海のヘダイ養殖事業者に潮流による食欲への影響を評価するために使ってもらったり、
シンガポールのスズキの生産者に国際認証取得のための環境データとして参照してもらってたりと様々です。
AIを活用した持続可能なエビ養殖モデルの実装
また、タイでエビ養殖の世界最大手であるCPフーズと一緒にAI技術を活用したゼロエミッション養殖モデルを目指す共同事業に取り組んでいます。これはエビ養殖で問題とされていた排水や抗生物質の利用をゼロにし、生産性を3倍以上に向上させる取り組みです。このような環境やエビに配慮し、生産性も向上させるためにはきめ細かな生育管理が必要になります。そのために、ウミトロンのAI技術を活用し、食欲をはじめとした様々なエビの状態に関するパラメータを検出、それらのデータを使って生産の最適化を行っています。
上記の取り組みをはじめ、世界の水産養殖現場へのAIやIoT、衛星リモートセンシングを活用した技術実装に取り組んでおります。
世界のプロテイン不足の課題を解決する
さて、そろそろ本題ですが、ウミトロンは創業当初からグローバルマーケットをターゲットに走ってきました。なぜDay1からグローバル市場を目指したのかですが、1つ目の理由は、水産養殖がグローバルマーケットで成長を続けており、かつ世界的課題の解決に繋がる可能性を秘めているからです。国連の発表によると世界の人口は、2050年には97億人に達することが予想されており、深刻なタンパク質不足の可能性が懸念されています。また昨今の糖質制限等の健康ブームから先進国における一人当たりのプロテイン摂取量も増加しています。
こういったプロテイン需要の増加を解決するために、 いろいろな取り組みがなされていますが、世界の動物性プロテイン市場の中で、今世紀最も成長しているのが水産養殖と言われています。
陸上で生育される牛豚鶏などは何千年も前から人の手で育てられ、改善されてきており、今後の生産効率の改善余地は10倍程度だとしても非常に高い言われています。一方で、魚を育てる水産養殖の歴史はまだ浅く、現在活用されていない沿岸域を活用するだけでも現在の水産資源の100倍以上の生産が可能と言われています。個人的には人工肉などの取り組みも食量生産の多様化の観点で非常に期待していますが、マジョリティがそれらに置き換わる未来は想像していません。生産規模・生産コスト・文化やエンタメとしての食への期待、そしてサステナビリティ等の観点を踏まえた未来のプロテイン供給源として、世界的に期待を寄せられている産業が水産養殖です。
私は、水産養殖が世界の食料問題を解決し、海の生物多様性を保っていくための重要なソリューションだと信じています。一方で、水産養殖も歴史がまだまだ浅いので、改善できる余地が多分にあります。このような世界的課題を解決できるポテンシャルを持つ、水産養殖に関わる上で、一国の課題解決に留まるべきではないという理念がDay1からのグローバル志向改め、全地球的志向につながっています。
世界で共通する水産養殖の課題
さて、2つ目の理由は、世界の水産養殖がテクノロジーで解決可能な共通する課題を抱えていることです。
水産養殖の生産面の課題
生産面の課題としては、水中への給餌最適化の難しさ、環境変化や魚病に対するリスクヘッジなどが挙げられます。もちろん魚種や環境特性でいろいろな違いはありますが、突き詰めると世界中の水産現場が同じ課題を抱えており、同じ技術的アプローチによって解決が可能です。ウミトロンは、これらの水産現場の課題を解決するために、AIを活用した魚群解析や海洋リモートセンシングを活用した海のモニタリングを行っています。
水産養殖の技術的な課題
世界中でAIの技術が使われるようになりましたが、海洋でのAI技術の活用は非常に難易度が高いです。まず水中の光の屈折や吸収・水面での光の反射など同じ画像解析・機械学習などのテーマでも陸上での解析と比べ、特別な処理のノウハウが必要とされます。また、エッジコンピューティングを行う場合も、クラウドで処理をする場合も、電源や通信、計算機に制約があるのが海の上です。このような特殊環境下でのサービス提供において海洋に特化して技術実装をしてきた知見が非常にいきています。
ウミトロンでは、ADMP(Aquaculture Data Management Platform)を共通の技術基盤として様々なデータサービスを提供しており、グローバルに横展開をする中で、発見された環境制約条件に関する解決策が他のプロジェクトで生かされる相乗効果を日々実感しています。またテクノロジーだけではなく、魚の消化のメカニズムなどの生理学的な特徴も魚類全般で類似性が見られる部分も多く、解析手法や生育最適化に横展開されています。このあたりの技術・科学的な特殊性や面白さはウミトロンのエンジニアメンバーのアドベントカレンダーもぜひチェックしてみてください!!
車輪の再発明をなくしたい
第3の理由は、地球全体での知の共有に取り組みたいと思ったことです。私は、インターネットやAIといったコンピュータサイエンスの進化が大好きです。世界中の様々な知見をライブラリなどで公開し、簡単にアクセスでき、それらの集合知を活用して、新しい技術やサービスの開発が加速される。インターネット上にある技術やサービスには国境がなく、目まぐるしい発展をしてきました。一方で、水産養殖に目を向けると、これまで水の中の情報はほとんどデータ化されることはなく、暗黙知としてオペレーションが続けられてきました。
もちろん、生産者には、長年魚に向き合ってこられた海の匠のような方がたくさんいらっしゃいます。そういった生産者は「どうすれば海を汚すことなく、魚に餌をあげられるか」、「大きくのびのび育てられるか」といったノウハウをたくさん持っていて、一緒に仕事ができることが私たちの誇りでもあります。しかし、世代が変わる際や、新しく養殖業に参入する際は、それらのノウハウは引き継ぎきれず、各自が自分自身でまた1から経験を積み上げる必要がありますし、トライアンドエラーを回す上でも定量的に判断できるデータはありませんでした。せっかく、世界中の海の匠が発明してきたサステナブルに魚を育てるノウハウが存在していても、次の世代や地球の裏側では同様の発明が日々繰り返されているのです。
世界中の仲間とサステナブルな水産養殖へ
私は、より環境に優しく、人に優しく、そして魚にも優しい生育ノウハウを集合知として蓄積することで、1次産業である水産養殖もインターネットと同じように発展させることができると信じています。
下記の写真を見てください。これはウミトロンが技術提供をする地域の一つで、ペルーのチチカカ湖における水産養殖現場の様子です。標高3800mにあるチチカカ湖の地元の人々は、小さい頃から泳ぐ機会が少なく、実際泳ぐことができない人も多くいます。一方でチチカカ湖はサーモントラウトの一大生産地として、地元の方々が水産養殖に携わっています。写真は実際に生産者が手で魚に餌をあげている様子ですが、標高が高い地域での日々の餌やりは危険な作業でもあり、頻繁に溺死も発生しています。またチチカカ湖は、世界自然遺産にも登録されるほど自然の美しさに溢れる地域ですが、魚が必要とする以上に餌をあげすぎると富栄養化によって環境への影響を与えてしまうこともあります。
こういった地域にウミトロンが日本で運用・ノウハウ蓄積された技術を提供することで、生産者の危険労働や環境負荷を減らし、より持続可能な水産養殖に近づけることができます。また逆に、ペルーでのサーモントラウトへの技術実装が、欧州や南米等の他地域のサーモン養殖への事業展開にも活かされています。
このように、私たちはさまざまな地域の生産者と一緒に仕事をしていますが、彼ら・彼女らのことをただの顧客ではなく、一緒に世界的課題の解決に取り組むパートナーだと考えています。1次産業の世界では、目の前の一つ一つの仕事は、泥臭いことの連続です。しかし、世界中の生産者と一緒に、そして、それぞれの地域の案件に取り組むウミトロンの仲間と一緒に水産養殖における技術活用の輪を広げていくことが、持続可能な水産養殖を地球に実装するための確かなアクションだと日々再確認しながら、自分の仕事に取り組んでいます。国境のない海を相手にするからこそ、最初から、地球全体の繋がりで社会課題を捉えることは必然的であったと思います。
おわりに
世界をリードする企業を日本から
今日は海外の話を中心に行いましたが、最後に日本に戻って終わりたいとおもいます。シンガポールが創業の地といえど、創業メンバーのルーツは日本にあり、日本市場が我々としても最初に開拓が進んでいるマーケットです。水産養殖の仕事に携わるようになってから、日本にルーツがあることの幸運と縁を日々感じています。
水産養殖xAIの分野で世界の研究開発拠点になれる
日本は地理的に非常にユニークな国です。日本海側は水温が低く、逆に西日本を中心に太平洋側は温かいため、温暖〜寒冷地域の魚介類が一つの国で育てられる数少ない立地を有します。
ウミトロンが取り組む事業は、自然科学xテクノロジー。日々、知的好奇心が掻き立てられると同時に、Webや人間社会だけでは完結しない非常に難しいテーマです。トライアンドエラーが必要なこの分野において自然界の様々な開発環境を用意できる日本にルーツがあることの幸運を感じます。そして逆に言えば、世界で得られた新たな知見は日本にすべて還元もできます。欧州などに比べると日本の養殖は多様性があり、大規模化による知見共有や、効率化が進みづらいことが競合優位性の観点で課題とされていますが、データを活用した生育の最適化の観点では、これらの課題が今後克服していけると思っています。
水産養殖だからこそ、日本・アジアにチャンスがある
「水産養殖の分野で、今後世界を代表するようなスタートアップが出るとしたらそれは間違いなく日本からだろう。」以前、海外の有名な機関投資家と議論したときに言われた言葉です。1次産業の中でも、水産養殖だからこそ、日本そしてアジアにチャンスがあると考えています。
水産養殖に近しい分野で農業xAIも盛り上がっていますが、この分野では米国のスタートアップがたくさん先行しています。一方で水産養殖を産業として切り取ると、米国ではあまり盛んではなく、生産と消費の中心はアジアです。日本はアジアの中でも”寿司”という文化を持ち、「日本では魚を生で安全に食べられる」という共通認識が世界で形成されています。食と安全は切っても切り離せないテーマであり、魚食に関してたくさんの文化を持つ、日本で美味しいと評価された生育ノウハウは世界でも認められると考えています。そのためにも、日本では消費者にも水産養殖の重要性を発信し、よりサステナブルに拘ったシーフードを提供する機会の創出に取り組んでいます。消費者向けの取り組みについても、ウミトロンメンバーがアドベントカレンダーで記事を書く予定になっているのでチェックいただけると嬉しいです!
水産養殖のような自然の中の営みにおいては、理想を掲げながらも、目の前に解決しなければいけない課題がさまざまあります。海外事業も生産現場の課題に向き合い、一つずつ問題を潰す作業の繰り返しです。しかし、シンガポールと日本のメンバーが力を合わせ、それぞれが相対する現場の課題を解決してくことで日本・アジア初のスタートアップが世界の水産養殖業界をリードする日が必ずくる。そう思いながら、今日も自分の仕事に向き合っています。最後まで読んでいただきありがとうございました!
ウミトロンでは、日本・シンガポールそれぞれでエンジニア・ビジネスの採用強化中です!ビザのサポートもやってます。私たちと一緒に新しい航海に出発しませんか?Join our voyage!!
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