元コンサルタントのつぶやき(1)正しい考え方、伝え方の心得<その1>
目次
(長いので<その1><その2>に分割します)
<その1>
0.はじめに(正しい考え方、正確な伝え方は難しい)
1.考える、伝える以前の問題(使う言葉は考え方を左右する)
2.正しく考える(1)(事実、推論・予想、意見の切り分け)
3.正しく考える(2)(正確な論理展開)
<その2>←リンク
4.正しく考える(3)(課題解決アプローチと仮説検証)
5.正しく伝える(1)(結論よりも前提に時間をかける)
6.正しく伝える(2)(1度に多くを述べない)
7.さいごに(人格、人間性といった要素も極めて重要)
0.はじめに(正しい考え方、正確な伝え方は難しい)
自分の考えを正しくきちんとまとめたり、人に正確に伝えるのは、非常に難しいです。
正しく考えられないと、相手がプレゼンを聴いた時、報告書や作成書類を読んだ時、まず納得してくれません。
正確に伝えられないと、誤解されるだけでなく、信頼感も無くします。
人は、コンサルタントと聞くと、下記のような印象を持ちがちです。
・知らない領域の知識や経験を豊富に持っている人。
・時間が無くて自分達だけではできないことを全てやってくれる人。
・プレゼン方法、スライド作成の技術を持ち社内を説得できる人。
等々。
そういったコンサルティングもありますが、一般的にはコンサルタントは、
・正しく考える
・正確に伝える
事を地道にやる人だと言えます。
私自身のコンサルティング経験から、それはどういうことなのか書き出してみます。
(長くなったので、2回に分割します)
1.考える、伝える以前の問題(使う言葉は考え方を左右する)
考える以前の問題として、
「定義を理解していない単語を使わない」
「下品な言い回しを使わない」
ということを、普段から心掛ける必要があります。
1)定義を理解していない単語
一例として、最近の傾向で「パラダイム(シフト)」という言葉を使いたがる人が数多くいます。それも、社会科学の領域で、
「時代の考え方を大きく変革するような思考の枠組み」
といった意味で使われることが多いです。
これは、科学哲学者であったトーマス・クーンが提唱した、
「科学上の従来的発想を変換する唯一の事実認識」
(例.天動説ー>地動説)
とでもいうべきものから大きく逸脱した拡大解釈、ないしは勝手な自己満足の定義です。
パラダイムシフトは始終起きるものではないのに、考え方が変わっただけにも関わらず、昨今の社会現象をとらえて「パラダイムシフト」と言いたがる人は多いです。
同様に安易な言葉の使い方として、
・ダイバーシティー(多様性)を「人類皆平等」と勘違いした使い方
・問題と課題の混同
・目的と目標の曖昧な使い方
・改善、改革、変革を不適切に使った例
・初歩と基礎、学習と習得、戦術と戦略の使い方誤り
等々、枚挙にいとまはありません。
(これらの点については、別の記事を立てて書く予定です)
こうした言葉の定義を無視した使い方は、後述の論理の曖昧さに結びつきます。ひいては、きちんと言葉の定義を理解している人の信頼を失います。
2)下品な言い回し、言葉づかい
また最近、日常表現で「クソ不味い」「クソつまらない」とかいう表現をよく見かけます。プレゼンや書類では使わないよ、と考える人が多いのでしょうが、普段使う言葉は考え方にストレートに影響します。
私は「お客さま」のことを「客」とか「お客」と呼ぶことはありません。これは人前だけではなく、普段の会話でもそうです。ただご本人と対面の時は、媚びた嫌らしい感じもするので「お客さま」とは呼びかけません。名前(苗字)でお呼びします。営業マンでも、信頼に足る人はこうした言葉づかいをする人が多いです。これは、普段から「お客」とか呼ぶ癖をつけると、無意識のうちに見下したような態度に次第になってくるから、という考えに基づいています。
また、例えばバスケットボールやバレーボールなどの団体スポーツでメンバーがミスした時に「ちっ」とか舌打ちする人は皆無でしょう。人間ですから仲間がミスすれば、イラっとするのは当たり前。でも、「ドンマイ」とかの声掛けをするはずです。
言葉は思っている通りを声にしてしまうと、考え方も影響される。
使う言葉は考え方に大きく影響します。
2.正しく考える(1)(事実、推論・予想、意見の切り分け)
さて、ではどうやって正しく考えていけばよいか?
まず第1に、事実・推論・意見などを明確に切り分けて議論を進める必要があります。
よく言われることですが、一次情報(事実情報)をきちんと見極めて確認し、適切な論理を展開しないと判断を誤ります。
例
上司「Aさん、あの頼んだことは調べてくれた?」
A「ああ、その件については、XXだと思います」
上「それはAさんがXXと思っている(意見)という意味?
ちょっと調べた結果、XXだと思っている(推論)という意味?
元データは見てないけど二次情報を読んでXXと思うってこと?
Aさんの意見や推論が聞きたいんじゃないんだけどなあ。
事実は何なの?」
きちんと事実認識する、というのは口で言うほど簡単ではないです。
よく、企業の経営陣が自社のことを良く分かっておらず(あるいは事実報告が上がってこない、間違った情報が上がってくるなどが原因で)、何かのトラブル・不祥事の発生時に事実認識不足が露呈する、ということは多々あります。
事実をきちんと認識する方法は、
・関係する人々への直接ヒアリングや教えを乞う。
・現場などでの観察、視察。
・事実をきちんと伝える連絡書類の作成と読み込み。
等々がありますが、何よりも重要なのは、
・悪い情報を隠す、即時に伝えない、などの悪い慣習を排除する風土作り。
という地道な努力です。
また、正しく考えを進める前に、
・まずきちんと正しく事実を認識する。
(発生している現象を多面的に見る必要があります)
・意見や推論は交えない。
・それは次の段階として明確に切り分ける。
ことが極めて重要です。
これは通常の業務等に留まらず、プロジェクト物などの推進時には、非常に重要な段取りになります。
3.正しく考える(2)(正確な論理展開)
考え方を正しく伝えるべき相手は、
・お客さま(とその予備軍)
・上司(直属およびその上、さらには経営陣など)
・不特定多数の相手(講演会など)
等、多くの場合は伝えるべき内容の専門家、責任者、関心が強い人々です。
こういった人々は、自分の守備範囲のことについては数多くの経験と情報を持っているので、こちらが考えていることの不備(事実認識の不足・誤謬、論理の抜け・漏れなど)を感じると、すぐに「もうたくさん」という気持ちになり、信頼感をなくしてそれ以上聞いてくれません。
従って、事実に基づく論理展開には抜け、漏れ、飛躍などがあってはいけません。
コンサルティング・テクニック(ロジカルシンキング)の一つに、
・MECE(ミーシー。Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)
「相互に重複せず、全体に漏れなく」
というものがあります。
例
Q.移動通信手段はどんなものがあるか述べなさい。
まずは、携帯電話機、タブレットパソコン、携帯情報端末…と全体を網羅する集合を考える。
次に携帯には、スマホ、ガラケーがある。
さらにその範疇にはD社、A社、S社、その他がある。
といった考えの進め方。
論理的に考えようとすると、多くの場合はMECEが必要になってきます。
また、MECEに行きつく以前に、
「課題を網羅的に一気に解決できる解決仮説の設定」
(課題解決アプローチ->仮説検証アプローチ)
が必要になります。
・・・<その2>に続く・・・