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おひとりさま入院記(グルグル七転八倒篇)3日目

入院一夜目は一睡もできず終わり、朝になったら偏頭痛が始まっていた。元々わたしは偏頭痛持ちで、脳の血管が拡張すると痛みの元にぶつかる仕組みなので、点滴を打ち続け血管が広がり、また慣れない低い枕で頭が浮腫むような状態となり、起きたのだと思う。
この苦行に加えてさらに偏頭痛、どうしようも出来ない。
持っていた偏頭痛の頓服薬を飲もうとしたが、点滴薬との相性などもあるかもと思い、ベッドにいらした看護師さんに飲んでいいか確認をした。彼女はとても可愛らしく小動物的な印象が、にゃんこスターのアンゴラ村長にとても似ていた。そしたら返ってきた答えは、 「ここは救命病棟なので基本的に持ち込みのお薬は飲んではいけないことになってるんです。すみません。これと同じ薬を処方できるか先生に確認してきますね」とのこと。
そして暫くして戻られるとアンゴラは「つかまらない先生でまだお話が出来てないんです、ゴメンナサイ。お辛いですよね」…はい、辛いです。
お願い、早く薬を飲ませて下さい。
この頃にはバカ正直に聞いてしまった自分を悔いた。朝ごはんはリンゴゼリーだけ口にした。

そして一睡も出来なかった疲れとやまない激震、そして偏頭痛の痛みのトリプルパンチで意識が朦朧としてきた時に、アンゴラ村長が戻ってきて私に聞いた。「すみません、先生に連絡繋がったんですけどお薬の名前を忘れてしまって、もう一度教えてもらっていいですか?」ガーン。
わたし「あ、エレトリプタンです」アンゴラ「え?エリプトラタン…」私「いや、エレトリプタン…」の不毛なラリーが続く。元気な私なら「いや、そんな恐竜みたいな名前!!」と明るくツッコミでも入れるところだが今はもちろんそんな気力も体力もなく、もう薬そのものをアンゴラに渡して小さい声で「後に名前書いてあるんで…」とそっと渡す事しか出来なかった。実物を手に取りながら、ブツブツと「エレ、トリプタン、エレ、トリプタン」と呟きながらベッドを立ち去ったアンゴラ村長、頑張ってくれ、お願いだよ。そして先生への連絡よろしくね。

それから数時間して薬はやってきた。もう頭痛のピークは超えている気がしたがとりあえず飲んだ。
昼ごはんはマンゴーだけ食べた。冷凍のものの半解凍だったけど、冷たくて甘くて身体に染みた。

次の私の心配は「今日は部屋を一般病棟へ移れるのか」ということである。さっきから隣のベッドの方々には一般病棟に移る予定時刻が告げられているのに、私のところにはさっきのアンゴラ以外いっこうに来ない。まさか、隣の2人で定員いっぱい、私はもう一泊ここで、、なんて事ないでしょうね。一晩はいけても二晩はムリだよ。自分から聞こうか迷ったが、何となく決定打も受けたくなく、とにかく待つことにした。

そして待つこと数時間、アンゴラじゃない病院の事務だという男性が来て、今日の2時に一般病棟へのお部屋移動となっております、との事!!胸が躍った。はー、良かった。どんなとこかは知らないけど、ここよりは絶対に眠れる。きっとテレビもあることだろう。スマホも触れる。
それはもう天国じゃないか。グッバイ救命病棟、お世話になりました。
そして予定の14時になり車椅子で着いた場所は別の病棟の7階で6人部屋の窓際!!空が見えるなんて最高!窓がある!神様ありがとう〜!この3日間の修行のご褒美だと思えた。本当に感謝。

さっそく着いたベッドでは自分の過ごしやすいように物の配置をし(と言っても、大した荷物はなかったが)、普段連絡を取り合ってる友達たちに、いま入院してる旨をラインで伝えた。
そして茅ヶ崎の母親に連絡し、携帯の充電コードやメガネ、下着などの最低限のものだけを私の自宅から持ってきてもらった。本当は自宅ベッドの枕元にある読みかけの本も持ってきてほしかったが、「神へ帰る」というタイトルで親世代から見たら、死ぬのか?とか、新手の宗教にでも肩入れしてるのかなどと誤解されそうな気がしたので、今回は頼むのをやめておいた。
コロナの関係で面会は出来ないとのことで、おそらく目と鼻の先のナースステーションまで来たのに顔も見られず。
看護師さんから小さい紙袋一つ渡されて、ご家族に何か伝言はありますか?と聞かれたのだけど、咄嗟に伝えたい事など出て来ず、特にありません。と答えてしまった。
ああいうときはみんな何と言うものなのだろうか。面倒かけてゴメンね、ありがとう、とは思ってもそれを赤の他人の看護師さんを通して伝える気分でもなかったので、直接母親にメールをした。お孫ちゃん達のお世話で忙しいのに本当にお手間かけました。

ベッドにいると、主治医だという青年が私のもとへやってきた。マスクをしてるので顔全体がどうかはわからなかったが、中肉中背で若干濃い目のお顔、年の割には落ち着いた声と何となく伝わる優しい雰囲気は、三浦友和の次男坊の方の俳優の子に似ている。まだ原因はわからないが、しっかり検査をするには私が検査に耐えうるくらいの状態にならないと、という事で、ここでは数日ゆっくり休んで下さいとの事だった。私は「はい、休みます。」と小さく答えた。

夕食にはすき焼きが出た。全粥とすき焼きという見たことない組み合わせだが、かなり薄いもののすき焼きの甘みと塩分で少しだけお粥を食べることが出来た。ここ数日で初めての固形物と言ってもいい、かなり進歩な気がした。

そしてヘルパーさんに水を2本とテレビカード、リップクリームを買ってきてもらえるようお願いした。リップクリームはスーッとしないタイプという私のオーダー通りでいつものニベアだった。ありがとう、ヘルパーさん。
これでテレビが見られます。水も飲めるよ。

その日の夜は大好きな金曜日のドロドロ恋愛ドラマを見たあと眠りについた。ここ数日の中でやっと落ち着いた気がした。画像はお部屋から撮った夕陽の写真。
前に入院したのは10年前、B型肝炎で2〜3週間、そのときにはめちゃくちゃ痛かった生体検のあと高熱にうなされトイレに行く途中の廊下で倒れ、一晩うなされたあと目覚めた時に力強い朝日を見て、「生きてる…」と感動したのを覚えている。太陽の力ってすごいな。人を勇気づけたり、温めたり、寄り添ってくれる感じはしないけど、ドシッといつもいてくれる。今回も夕陽に助けられた。
      ー3日目終了。4日目へ続くー

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