利下げサイクルと米株相場の行方
先週末、投資家コンフェレンスに登壇して色々な投資家やストラテジストの意見を聞いてきた。今日はそのまとめと今後の米株相場の展望についての私見を書いてみる。大統領選挙の影響、年末の株の動き、来年不況が来るかどうかについても考察する。
50bpsの利下げの政治的背景
先日のFOMCで50bpsの利下げがあり、利下げのサイクルが始まった。FOMC直前の投資ミーティングで私が予想したようにFEDは50bpsの利下げを決行した。
パウエルは色々な理由をつけて決断を正当化していたが、私はこれは政治に影響された決断だと思っている。パウエルはカマラに勝って欲しいのだろう。
パウエルは2017年にトランプにノミネートされ2018年に着任、2021年にバイデンに再ノミネートされ2022年に再着任した。FOMCチェアの任期は4年でパウエルの今回の任期は2026年5月まである。
もしトランプが勝ったらパウエルは2026年になる前に首になるのではないか、と噂をされていたが、今年の7月のインタビューでトランプはパウエルは2026年までの任期を全うさせると言っている。でも再ノミネートはおそらくない。
カマラの場合、再ノミネートの可能性もあるし、トランプは大統領だった間、パウエルに圧力をかけ続けたので、パウエル的にはカマラ下の方がやり易いという動機はどうしてもあるだろう。
だとしても選挙直前のFOMCでディセンター(反対意見者)まで出して50bpsカットを強行するとはなんと大胆。FOMCにディセンター出るのはほぼ20年ぶりのこと。
FOMC直前のWSJのNick Timiraosの記事を読んで、そうかパウエルもやっぱり政治に影響されるのか、と思い私は少し悲しくなった。
50bpsの金利カットがもたらすもの
これはChicago FedのFinancial Condition Index、つまり金融がどれだけ引き締まっているか緩んでいるか。これを見るとわかるように、金融状況は2023年1Q あたりを境に緩くなりつつある。
今のレベルはなんと2022年3月の利上げ開始時点よりすでに緩いのだ。今回の50bpsの利下げをする前からすでに22年3月より緩い。
利上げをしたのになんで?と思うかもしれないが、政府がお金を財政赤字という手段で垂れ流し、銀行は融資を盛んに進め、マネーサプライは順調に伸びているのだ。
このシカゴFEDのデータはプライベートクレジットのようなシャドーバンキングの金融状況も数値に入れている。
結局世の中まだまだ金余りなのだ。
パウエルがこれを知らないはずがない。金融がタイトすぎるから金利を下げないと不況が来る、というのは詭弁なのではないかと思うし、50bpsはやはり政治的思惑が絡んでいるとしか私には思えない。
金融がすでに緩くなっているところにさらに50bpsの利下げだ。だからこの状態で今後1年以内に不況が来るとは思えない。株が上がるはずだ。
利下げが始まると株が下がる?
たくさんのアナリストがやれ利下げが始まると株が下がる、とか、イールドカーブが逆イールドから順イールドになると不況が来る、とか言ってるけど、今回の利下げは今までの利下げとは経路が違うので、これまでのロジックは通じない。
これは何回も言ってることだけど、1980年以降、私たちはインフレを経験していない。
今回の逆イールドや利上げ・利下げサイクルは景気動向ではなくインフレに影響されておきたことだから今までとは違うのだ。
インフレがない状態で利下げをする時は不況がすでに来ている、あるいはもうすぐ来る時。だから利下げすると株が下がるのではなく、不況が来そうだから株が下がるし、利下げをするのだ。順番が逆。
インフレがあった70年代80年代は利下げをしても不況が来ないことは何回もあったし、95年の利下げも不況は来ていない。
95年は稀に見るソフトランディングだった。これはちょうどインターネットが普及した時期に重なり、株価は2000年のピークに向けて上がり続けた。
今のAIの普及の時期に重なるものがある。だから今回も金利を下げても不況は来ないと私は思う。
スローダウンと不況の違い
私がよく引用するApolloのエコノミストも同じコンフェレンスに登壇した。彼も色々なデータを元に不況はしばらく来ないと言っていた。
2000年の不況には株価のバリュエーションに明らかな歪みがあった。
2008年の不況ではプライベートセクターのレベレッジに明らかな歪みがあった。
2020年の不況ではパンデミックショックがあった。
今、そのような歪みやショックは見受けられない。
あえて言えば財政赤字と債務累積に明らかな歪みがあるが、それがどう不況につながるのか今ははっきりとは見えない。
思うに昨今、不況というのは金融が締め付けられるだけでは中々来ないのではないか。特に今のアメリカ経済はサービスとソフトウェア主流なので企業に借金が少ない。製造業のように金利に敏感ではないのだ。
となると、金利引き上げだけではスローダウンはあっても不況は来ない。
だから2022年から2023年に500bpsも金利を上げたのにまだ不況が来ていないのだと思う。
スローダウンとソフトランディングはほぼ同義語だ。経済成長が1%から2%くらいまで落ちる。でも不況(マイナス成長)にはならない。これは株にはとても有利な状況。
大統領選挙の最新ポル
9月10日のディベートでトランプが負けて、ハリスの勝率が上がったが、ここへ来てまた均衡している。
アメリカの大統領選はバトルグラウンドと言われるいくつかの州がどちらに転ぶかで決まるんだけど、ハリスのポルはヒラリーの時とバイデンの時と比べて劣る。
でも統計的には不況がなく、株価が上がった年は現職大統領が属する政党の候補が勝つ確率が高い。
よって、どちらが勝つか全く分からない状態。
でも私は今後50日以内にトランプがバカなことを言って票を逃さない限り、トランプが勝つと思ってる。あくまで私の感覚で明確な根拠はない。
私はハリスがインタビューなどで話すのを見るにつけ、聞くに堪えないと心から思う。彼女は私的にはそれくらい酷い。
思っていないことを言わされているからなのか、話が下手なのか分からないけど、とにかくもし彼女が勝ったら今後4年もあれを聞くのかと思うとうんざりする。
あれを見てそれでも彼女に投票するということは、彼女は操り人形で実際に権力を握る人は影にいると理解しての事、あるいはトランプでなければ誰でもいい、と思っているかのどちらかだとしか思えない。
そんな人に大統領になってほしくない。トランプもいうことは酷いけど聞くに堪えないということはないと私は思う。少なくとも彼は自分の言葉で話している。
大統領選の株価への影響
コンフェレンスで大統領選分析のプレゼンをした人がいた。その分析によると、上院は共和党が勝つ可能性が高いらしい。
下院は大統領選に勝った党が取る可能性が高いので、もしハリスが勝てば上院下院がねじれて、株相場には有利になると彼は言っていた。
逆にトランプが勝つとRed Sweep、つまり大統領、上院、下院全て共和党が勝つ可能性が高く、そうなると株相場には不利らしい。
株式相場とは不確定事項を嫌うので、上院下院がねじれて大きな変化をもたらす法案が通らない状況を好むのだ。
となると株にはハリス大統領の方が有利、という判断になる。でも逆に働く可能性もある。
私の株戦略
今回のコンフェレンスで私が思ったのはほとんど誰もが「9月10月はボラが高くなり(株が下がる)、選挙後11月12月、株は上がる」と言っていたこと。
株相場というのはみんなの意見が揃った時は大体その通りにはならない。
まず、1年で一番弱い9月はもう終わり。株はほぼ最高値だ。
10月、何か全く予想しない事は起こらないと想定した場合、株が下がる可能性はまず、雇用統計。これが悪ければ株は下がるかもしれない。
そして10月には決算がある。決算が悪ければ下がるかもしれない。
でも11月12月上がるから、10月に下がったら買おうと待ち構えてる人が多すぎるので、よほど予想外に悪い雇用統計や決算でない限り、指数が大きく下がるとは思えない。
よって8月6日にも言ったけど、8月5日の底が今年の底だと思う。
そして逆に11月12月はあまり上がらないかもしれない。
もしハリスが勝ったら来年税率が上がる可能性があるので、今年中に売っておこう、と利確売りが出るかもしれない。
もしトランプが勝ったらRed Sweepを嫌った投資家が株を売るかもしれない。
だから今年は5700あたりでうろうろしそうな気がする。
私の株戦略はまず半導体相場はまだ上がるかもしれないけど、簡単に儲かる美味しい相場は終わったと持っているので、半導体関連は9月にだいぶ整理した。
NVDAも3割ほど利確した。良い決算を出しても株が上がらない、という事実を私は重く受け止める。
AVGOは勉強会でモデルを作ってあまりよくないなと思ったので決算前に全て売った。
半導体関連でまだ持ってるのはNVDA、QCOM、AMD。AMDも売ろうかと思ってる。
売った後に株が上がっても気にしない。自分の分析に基づいたリスク管理は常に正義だ。バフェットも株をどんどん売っている。
でも上に書いたように、私は基本的には株と経済に強気なので、もし何かの理由で年内に大きく下げたら買おうと思っている株も結構ある。それらの銘柄は週末の投資ミーティングでよく話している。
来年の相場がどうなるかは11月に大統領選挙が終わった後に戦略を決めようと思う。
いつもワクワクドキドキ。株投資は永遠に飽きない最高の知能ゲームだ。