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【未来への贈り物】これからオンラインツアーを作るあなたへ

こんにちは、こんばんわ、そして初めまして。
阿蘇ジオパークでガイドをしている山崎真流子(やまさきまりこ)です。

諸々省いて話を始めるのですが、私は一昨年と去年、ジオパーク・オンラインという12回シリーズのオンラインツアーの4回目と14回目を担当しました。

ガイドとして、自分のツアーだけでなく、他の仲間のツアーにも深く関わりました。それぞれの回のリハーサルに参加し、わかりやすいオンツアーにするために忌憚のない意見を交わしなどした結果、当初の目的が「参加者のガイドスキルを上げよう」だったにも関わらず「ツアー実施者のガイドスキルが爆上がり」してしまいました。
思わぬ誤算ではありましたが、この経験を通して、ジオパーク・オンラインがセカンドシーズンに突入することができ、取り組みの有用性が証明されたようでとても嬉しく思います。

オンラインツアーを作っているときの苦労は別記事でも述べた通りですが、自分が苦労しただけでは実施した甲斐がないので、これからオンラインツアーを作る人へ、何かしらをお伝えできればと考え、この記事を書いています。
何かしらのお役に立てば幸いです。


オンラインツアーとリアルツアーの違いとは?

当たり前の話で恐縮ですが、実際のツアーとオンラインツアーは全く別のものです。
それが理解できないまま実際に自分がツアーをしているノリでオンラインツアーを作ると、盛大に事故ります
せっかくオンラインツアーを作るのだから、安全運転したいですよね。
というわけで、まずはふたつのツアーの違いを確認しましょう。


火山博物館での解説の様子

リアルツアー

・案内できる人数が限られる(ガイドひとりにつき10名が最大、くらい)
・五感の全てを使える
・天気や気候に左右される
・いちど説明をした場所でふたたび話す機会がない
・安全管理や行程管理が必要になる
・参加者の表情や反応を見て柔軟に対応できる
・時間と交通手段の制約があり、時間が限られるため、多くの場所を見せることはできない

2021年の全国大会ガイド勉強会でのオンツアーの様子。袈裟次おじさん登場。

オンラインツアー

・ひとりで100人以上を案内することができる
・基本的に参加者の視覚と聴覚しか使えない
・天気や気候に左右されず、参加者がくつろいで過ごせる
・同じ場所を何度も説明しても違和感が少ない
・安全管理、行程管理が省ける
・参加者の反応がわかりづらい
・時間や距離の制約を越えて多くの場所を見せることができる

ざっと書くだけでも、これだけ違いがあります。
オンラインツアーは、リアルツアーをそのまま落とし込むだけでは成立しない、ということが、おわかりいただけるでしょうか。
オンラインツアーは、リアルでできることができません。しかし、リアルのときには思いもつかなかった様々な手法を編み出すことができ、オンラインならではの時空を超えた内容にすることも可能。
こんなに自由にできるのに、こぢんまりした内容にしてはもったいない!ではないですか?

たとえば、ジオパーク・オンラインの第一回、桜島・錦江湾ジオパークの福島さんは、スポットを移動する際に、
「ワープ!」
とみんなで掛け声をかけ、画面転換をする、というワザを見せてくれました。
私的にはこれ、エポックメイキングだと思うんですね。
オンラインツアーならではの演出ですし、シンプルに楽しく、参加している感も醸し出せます。
こういう、実際のツアーではできない工夫が、オンラインツアーにはまだまだ隠れています。自分が、新たな手法を生み出す最初のひとりになるかもしれません。

オンラインツアーなんて作るの難しそう、と思った方にこそ、オンツアー作成に挑戦してほしい。
オンラインツアーのメリット、デメリットを使いこなしてこそ、オンラインツアーでしかありえないツアーができるようになります。
そして、オンツアーを作る過程で身につけた視点は、リアルツアーにも十二分に活かせるのです。

インタープリテーションとTORE

インタープリテーション(以下IP)、というものがあります。
IPは、参加者にその場所の環境やその中にある歴史について楽しんでもらうためのコミュニケーション技術の理論のひとつです。
更にそのなかに、TOREという要素があります。
T……伝えたいこと、テーマがあるか
O……簡単にわかるように構成されているか
R……参加する人にとって自分事として受け取られるか
E……楽しいか、心が動くかどうか
ジオパーク・オンラインでは、オンツアーの内容をTOREを通して確認し、気付いたことを共有し合う勉強会を設けていました。この勉強会に参加した人は、今までと全く違った視点でツアーを見るようになった、という感想を持っています。
IP、そしてTOREは、オン、リアルに関わらず、すべてのツアー実施者にとって必要な概念であることは、間違いないと思います。

理論で作り、五感で評価する

せとうちインタープリテーションでの一コマ

IPもTOREも、学び始めた最初の頃は、ただの「理論」だ、と感じるのではないでしょうか。そう。確かに、理論です。
人が何に喜びを覚えるのか。人は何を求めてここへ来るのか。
どのように動機付けをすれば、行動に至るのか。
全て端的な言葉で説明されている分、とっつきにくさを感じて腰が引ける。
それは、ある意味まっとうな反応でもあります。
誰だって、ツアーは楽しみたい。そう、ガイド自身も。
IPやTOREを勉強することで、楽しむ気持ちが減るのではないか。そういう防衛反応が、IPに対してハードルの高さを感じさせます。

私が思うに、IPやTOREの知識は、zipファイルなのです。
解凍しないと使えません。
IPやTOREは、ゲストの感情や考え方を効果的にツアーに取り入れるために、いちど理論で組み立てています。その理論を知った上で、自分自身が五感で、感情で、気持ちで、雰囲気で体感して、初めてその全貌が見えてきます。

この理論と五感の行き来ができるようになると、「自分は、こうしたらお客様が楽しんでくれると思うなぁ」みたいなことが、きちんと言語化できるようになったり、どのようなストーリーを提供すればお客様を喜ばせることができるのかを分かった上でガイドができるようになって、ツアーの質はものッッッっすごく上がります
必要なことを効果的に伝えることができる。お客様は五感でそれらを感じ取り、幸せな気持ちになる。こういうツアーが、まぐれでなく、オンリアル問わず作れるようになる技術、それがIPです。
IPを使いこなせると、自分(ガイド)とお客様の感覚をフル活用して楽しく心に残るツアーを提供することができます。

心に残る……

リアルツアーでは環境の作用が大きく、なんとなくその場の雰囲気でいいカンジにまとまることが多いため、IPの効果が曖昧にしかわからないかもしれません。
ただ、いいカンジにまとまる、というのは、ツアーとしてはいいのだけれど、ガイドとしてそれを意識的に演出できないままなのは、マズイ。
実にマズイ。
いつまでも、いいカンジ、いい雰囲気に頼りっきりだと、自分の中にあるテーマを認識できないままになってしまうから。
自分が伝えたいことが何なのかがぼやけたままであることが、わからないから。

TOREの中のT、肝心な主題がないままのガイドが、果たしてその場所の魅力を最大限に引き出すことができるでしょうか?

しかしオンラインツアーの組み立てには、はっきりと明文化されたT、テーマの存在が不可欠。
今までテーマ不在でふんわりいいカンジの案内をしていたガイドが、自分の中のTをはっきりと見つめる。この過程があるからこそ、オンラインツアーがオンラインツアーとして完成しますし、それができたときに、IPが本当に効果があるものだとわかるのだと思います。

オンラインのツアーでは、お客様が使える感覚が、視覚と聴覚のふたつに絞られます。伝えたいことを伝えるために、自分自身の感覚をフル活用して得たものを、言葉や映像に落とし込む必要があります。
感覚を通して得たことを、Tが伝わるように表現する、という技能が、大きく成長することは間違いありません。

感覚が研ぎ澄まされ、必要なものと余計なものが見えるようになると、リアルツアーの組み立ても、より感覚的に、より効果的にと変わっていきます。
これは、オンラインツアーでIPを活用するからこそ得られるものだと、山崎は考えます。

主観と客観を自分の中に持つ

さて、オンラインツアーは、録画、録音が容易です。

録画、録音が容易です。

大事なことなので2回言いました。(しかもわざわざ段落を分けました。)
これすなわち、自分の作ったものだけでなく、自分自身の姿や声までも、自分で見ることがカンタンであるうえ、それを繰り返し見ることができるようになっている、ということです。

ジオパーク・オンライン第4回の様子

一緒にツアーを作る仲間にとっても同じです。
オンラインツアーの実施を控え、リハーサルをすると、まずそのリハーサルが録画されます。その場でリハーサルに参加する人ももちろん忌憚のない意見を出してきますし、その場に参加できなかった仲間からも動画を見たよという報告と同時に内容に関するコメントが届きます。
なんなら複数回繰り返して観てくれる人までいるのです。これは正直……

めっちゃくちゃ恥ずかしい!

自分が何かしているところを客観的に見るのは、慣れないうちはドチャクソ恥ずかしい。自分の声を聞くのがイヤ、というのも、この類の感覚でしょうか。
だって、自分もっとカッコよくやってると思ってた。変な口癖、泳ぐ目線。
もうやだ、もうむり。死因は恥ずかしかったことです。さようなら世界。
リハーサルをすると、こんな思いに陥っていきます。
山崎も何度も阿蘇中岳の火口に身投げしようと思いました

しかし、ここで堪えて、自分を客観的に見ることに慣れてください。
資料の見せ方、作ったものが画面に映えるかどうか、動き、口癖、声のトーン、話し方、身振り手振りに至るまで。
見てください。そして、覚えてください。
自分の理想と実際のギャップを見て、それから、ブラッシュアップをしていきましょう。
その過程を幾度か踏むうちに、自分の中に、別の視点が生まれ始めます。
客観で自分自身の姿を見る自分、『客観』という人格が出来上がるんです。
(パーマンのコピーロボットのようなイメージでしょうか。古い?)

こいつが働きだすと、表現の精度がググっと上がっていきます。
「この大きさの文字で参加者が見える? 文字は入れすぎない方がいいでしょ、内容を整理するかスライド分けようよ」
とか、
「カメラの位置に目線合わせないと説得力なくなるからね、話す間はちゃんとカメラ見る! じゃあカメラの位置にふせん貼って目安にして、もういっかい練習しよっか?」
とか、
「マイクを通した声はいいけど、早口で活舌がよくない。今日からボイトレ! 一日10回、生麦生米生卵を唱えよう!」
とか、頭の中の『客観』の自分がめっちゃプロデュースしてくるようになります。

何度も失敗しながら、表現を作る

客観の自分が備わるメリットは、画面や声における表現だけ及ぶものではありません。
主観だけの自分しかいないと、ツアーの内容にも、自分が言いたいことをぜーんぶ詰め込んでしまいます。
言いたいことを詰め込んだツアーには、自分らしさは出るけれど、テーマが取っ散らかってしまって観ているお客様が疲れます。

TOREでは、テーマをシンプルに絞って強くすることが大事です。
リハーサルのとき、テーマが伝わりにくいと、みんな容赦なく「で、言いたいことは?」とコメントしてきます。(マジです)
伝えたいことを踏まえて表現方法を一緒に考えてくれたり、アドバイスしてくれたりもします。
これは辛い。有難いけど辛いんですよ……

しかし、作成している時点で客観の自分が働くと、
「この要素はどうしても必要? これ言わなくても伝えたいことを伝えることはできるよね? できない? どう?」
とか、
「ここのエピソードを入れ替えると、お客様に驚きや意外性が伝わって楽しくなるんじゃないかな?」
とか、
「その伝えたいことは、参加してくれるお客様みんなのテーマになりそう?関係ない人ひとりも作らない内容になってると思う?」
とか、超辛口のツッコミを入れてくれます。『客観』の自分はとってもいいシゴトをしてくれますよ。
自分という主観も大事だけど、お客様の立場に立ってコメントをくれる「客観」が備わると、各方面もれなくレベルアップできます。

客観的人格を育てて、楽しいツアーを作れる自分になる

オンラインツアーを作る過程で、いろんな方のリハーサルと本番を見てきて私が思ったのが、
「みんなの意見を取り入れることで、実施者の中に客観が備わってくるんだなぁ」
ということでした。(あるいは、客観の働きぶりが上がっていくなぁ、でもありました。)
内容が整理され、表現が研ぎ澄まされていくのと同時に、実施者自身が自分の弱点に気付くようになる、気付くまでの時間が短くなっていったのです。
これについてはいろんな解釈があると思いますが、私には、「オンラインという特殊な環境がもたらした、客観的人格の成長による作用」というように見受けられました。

リアルタイムで現地からお届けするツアーの様子。

客観的人格は、もちろん、ひとりにひとつとは限りません。
オンラインツアーの場数を踏んでいくことで、増えていきます。
例えば、私の中にはこの客観的人格が3人くらいいて、
・声や表情、身振り手振り、画面映りやお客様の見やすさについて激辛コメントしてくるオシャレ番長的存在
・テーマの精査や言葉のチョイス、構成といった内容についての部分に、おずおずと提案をしてくる弱腰なコ
・自分が言うか、お客様に感じてもらうかの塩梅を図る、上から目線のお方
のそれぞれが、よってたかってツッコミを入れてきます。
彼女らがいてくれるお陰で、自分が準備したものでも容赦なく切り捨てることができるし、話す内容をシンプルにシンプルに、と持っていくことができるようになってきました。

常に客観を意識しても、それをこの世界に実現する主体、主観が存在している限り、自分が消えることはありません。
どうぞ安心して、客観的存在を生み出し、育ててください。
どんな客観的人格が産まれるかは自分次第です。

ただし、どんなヤッカイな奴が出てきても……山崎は責任取れませんこと……ご了承ください……

オンラインツアーのために準備するもの

破局噴火のメカニズムを説明するために作ったスライド

オンラインツアーの準備には、今までやったことのない準備が必要になります。
まずは、ツアーの内容を落とし込むツール、PowerPointと、それを使いこなす環境が必要になります。
リアルツアーだと写真は手に持って見せるし、周りには見事な景色が溢れていますので、そこに説明を添えるだけでいい。
オンラインツアーでは、皆様たいがい屋内のパソコン前にいて、パソコンの、あるいはモバイルの画面に映ったものを見ています。
お客様にオンラインツアーを提供するためには、PowerPointでツアーを作れるようにならなければなりません。
パソコンからが圧倒的に楽ですが、モバイルでも作れないことはありません(iPhoneだとkeynoteというアプリになります)。
時間を作って練習しましょう。
まずは、自己紹介のスライドを文字だけでつくるところから。
慣れてきたら写真の挿入とか、アニメーションをつけるとか、できることを少しずつ増やしていけばいいと思います。

ちなみに私は、オンラインツアーを2回作りましたけれど、いずれも動画を使わずに作りました。ので、動画の入れ方や動かし方が未だにわからないままです。

作るのにすごく苦労した1枚

必要なものの2つ目は、先に述べたことと重複しますが、「使わない勇気、捨てる勇気」。
どんなに苦労して作ったスライドでも、どれほど一生懸命に考えた構成でも、必死に頭を下げて提供してもらった資料でも、必要ない、わかりにくいと思った瞬間にばっさりとボツにする勇気。
特に、人からもらった資料や、話を聞かせてもらった時間で得たものには、使わないことに惜しさや後ろめたさが付きまといますよね……これを使わないなんて、と、悲しくなるし、申し訳ないし。

でも使わない。

必要ない。だから、使わない。
それをやる勇気が、やはり何より必要です。

杖立温泉の鯉のぼり祭りの様子

必要なもの3つめとしては、写真を挙げようと思います。
とにかく大量の写真が必要になる上、使うつもりで撮った写真も「わかりにくい」と言われたら捨てざるを得ず、撮りなおしに天気と休みを見計らって現場へ向かう、という事態になること、しばしば(で済めば御の字)。
家族に、ガイド仲間に、ときに事務局に、フリー素材のイラストや写真サイトにまでお世話になって、どうにかこうにかスライドを作っていきます。

この杖立温泉の鯉のぼり祭りの写真も、風になびいて動きがある写真を本当は撮りたかったのですが、現地に行った日が風もなく穏やかな日で、鯉のぼりちゃんたちはそよとも動かず、まるでししゃもの出荷場のような絵面になってしまいました。
でも使いました。
「鯉のぼりなびいてる方がよくない?」
と言われたけれど、
「見せたいのは……川なので……!」
と踏ん張りました。
辛かったですが、最終的にはだれも鯉のぼりがなびいてないことなど気にせず話を聞いてくれたので、よかったと思います。

このために方々から集めた写真は100枚を越えましたが、そのうち画面に登場したのは一握りでした。
慣れないお絵かきソフトで作った図も、まるごとボツでした。
とにかく大量にボツが出ます。ボツにならないようにするには、物量で押すしかありません。
写真は、できればヨコで、少し引き気味にして取りたいものの周囲も含めて画面に収め、少しずつ角度や立ち位置を変えて何枚も撮りましょう。

○PowerPoint
○捨てる勇気
○大量の写真ストック

この3つがあれば、まずはオンラインツアー、作れると思います。
他に、これがあってよかったと思ったものがいくつかあるので、参考までに。

モバイルバッテリー、性能のいい自撮り棒(写真を撮るときの相棒)
お絵かきソフト、アナログで絵を描く技術(素材がなければ描けばいい)
準備をするために使える時間、スケジューリング(まとまった時間が必要)
突飛な発想力(炊飯器をオトモにする、半分現地中継にする)

そして、忖度せずに厳しいツッコミを入れてくれる仲間。


無事に終わった、大きな挑戦

普通に生きてたら、そしてガイドしていたら、オンラインツアーなんてまず作る機会ありません。
日本ジオツーリズム協会では、ガイド同士のネットワークを使って、新たなチャレンジをする仲間をフォローし、応援し、サポートして、一緒にガイドとして成長する場を提供しています。
また、ジオパーク・オンラインが公表だったことで、世界仮想旅行社では新たなコンテンツ供給源として、エコパークや世界遺産などにも注目しています。

私の話を見て、
「これなら自分にも作れそうじゃーん」
と思ったアナタの最初の一歩のきっかけになれたら。
あるいは、
「自分のところで頑張ってるけどどうしたらいいかわからないの!」
と半泣きで迷える子羊の駆け込み寺になれれば。

この記事が、これからオンラインツアーをつくる誰かの勇気の源になれたら、幸いに存じます。
それでは皆様、レッツ作ろう、オンラインツアー!

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