詩「36.2℃」
平熱に折り込まれた記憶が溶けだす
すっかり怒りをなくして 平らに伸ばされた悲しみが溶けだす
かろうじて理由を覚えているものと もう出どころさえ忘れたものが混じりあう
ゆびさきを濡らして去ってゆく途中 誰かを期待したら そのゆびに濃い紫の果実
うっかり つるりと押し出した実
みずみずしい むき出しの殺意
知っていた もう知っていた
かつて同じ紫が染み込んだことがある
大丈夫 よくあること
ゆびさきに力を入れて つるりと口に含んだ
甘くて渋いあふれる果汁をのみこむ
ほら 体は知っている
この体に期待することが光なんだって聴きながら 残った紫を捨ててゆびさきを舐めた
すっかり殺意を消化した悲しみをまた 少し低い平熱に折り込んで くり返しながら歩いていく
たったこれだけの体に 数えきれない記憶を折り込んだ平熱のなかを行く きっと同じみんなの中を行く
文字でもものづくりでも、どこか通じ合える人と出会いたくて表現をしているんだと思います。何か感じてくださったならとてもうれしいです。