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【小沢健二】「君にずっと捧げるよファンタジー」の真意
小沢健二は2024年12月に集計されたオールタイムベストで
1位(LIFE)になるような
いまだに日本のポップミュージックの巨人なんですけど、
「小沢健二の何がどうすごいのか?」ということは
ちゃんと聴いてない人にあまり届いてないなって思うので、
おすすめ曲まとめ記事を書きながら、考えてみます。
※公式から全ての曲が上がっていないので、非公式の動画も引用させていただきます。ご了承ください。
◆私が最初に度肝を抜かれた曲
今夜はブギーバック
ダンスフロアに華やかな光 僕をそっと包むようなハーモニー
ブギーバック・シェイクイットアップ 神様がくれた
甘い甘いミルクandハニー
心変わりの相手は僕に決めなよ
ロマンスのビッグヒッター グレイトシューター
踊り続けるなら
最後にはきっと僕こそがラブマシーン
君にずっと捧げるよファンタジー
この世に「心変わりの相手は僕に決めなよ」って言える人、いますか?
(実際言ってるのはスチャダラパーのBOSEさんですけども)
そして「君にずっと捧げるよファンタジー」です。いや本当に。
恋愛で一番大事な部分って、現実じゃなくて特別な夢を見ること。
夢見るような恋愛への憧れの、一番核の部分の言語化してくるやん、やばいな?
って驚いたのが、小沢健二を集中して聴き始めるきっかけでした。
個人的には、三島由紀夫みたいな知性の言語化の鬼というイメージです。
「言って欲しい言葉を、現実離れしていても言ってあげる(演じてあげる)」という強さ。
小沢健二は、生まれが良くて、育ちが良くて、
東大行くくらい頭も良くて、教養があって、センスがあって、
お金もあって、当時の少女たちに「王子様」と憧れられて
その投影されたキャラクター(仮面)って、
普通に考えて20そこそこの青年が背負うには重すぎるんですが、
小沢健二は、20そこそこの男子の弱さや情けなさ、ダサさを一切見せずに
投影される「王子様」像と、
「強者であるイメージ」を怯みなく演じ切って
傲慢なまでのロマンチックさで、
強者視点でしか描けない作品を作り続けたことが
本当に偉大だと思います。覚悟が決まって腹が座ってる。
これがまさしく、「君にずっと捧げるよファンタジー」の実態だと思う。
すごい。
◆強者しか歌えない無敵なポップソングたち
この辺の曲は、うかつに聴くと強さで殴られます。
ドアをノックするのは誰だ
誰かにとって特別だった君を マーク外す飛び込みで僕はサッと奪い去る
寒い冬にダッフルコート着た君と 原宿あたり風を切って歩いてる
僕はずっとずっと一人で生きるのかと思ってたよ
爆発する 僕のアムール 君の心の扉を叩くのは僕さって考えてる
たぶんこのまま素敵な日々がずっと続くんだよ
風冴えるクリスマス 君の心の扉を叩くのはいつも僕さ
それ分かってる?
歌詞読んだだけでお分かりいただけると思うんですが、まあ強い。
迷いとか躊躇とかがない。
これ分かりやすくするべく恋愛を題材にしてますが、
なにか人生の中で目標達成をする時の持つべき姿勢なんですよね。
東京恋愛専科
恋人たちの時間は言ってみりゃボディーブロー
互いに覚悟きめたら口づけをかわそう
ドミノ倒しがはじまりゃ甘く溶ろけるよう
こんな恋を知らぬ人は地獄へ落ちるでしょ
それでいつか僕と君が齢をとってからも
恋の次第を憶えてたいよ
七色に輝くすてきなナイトアンドディ続くのさ
恋愛の高揚感を、こんなにド正面から形にしている作品って、なくないですか?
普通なかなかできない理由は、「恋愛強者というペルソナ」を
普通の人は責任もって被り切れないからだと思うんですが、
この姿勢じゃないと描けない特別な視界ってあると思うんです。
それにしても強い。
自分の状況が悪い時は聴けないくらい強い。
痛快ウキウキ通り
プラダの靴が欲しいの そんな君の願いを叶えるため
マフラーを巻いて 街へ出て
恥ずかしながらもウキウキ通りを行ったり来たり
それでいつか君と僕とは出会うから
お願いは一つ笑顔で応えてと
唾を吐き誓いたい それに見合う僕でありたい
しびれっぱなしの手のひら 鼻水出りゃこすりながら
痛快に降る雪の中歩いてく
冒頭で「プラダの靴が欲しいの」っていう彼女がそもそも強い。
お金の匂いとバブリーな時代の空気もすごい。
でもこの曲の核はおそらく後半の「それに見合う僕でありたい」っていう
祈りの部分なんですよね。
でよくよく読むと、「プラダの靴が欲しいの」って言った彼女とは
まだ出会ってないという構成。歌詞のトリック性の高さ。
あと、個人的には、雑誌POPEYEの定義する「シティボーイ」感。
東京という都会に暮らすライフスタイルみたいなものの原点って
小沢健二のような気がします。
東京という都市を舞台にした青春像への憧れのテンプレートというか。
いちょう並木のセレナーデ
きっと彼女は涙をこらえて 僕のことなど思うだろう
いつかはじめて出会った いちょう並木の下から
上記の歌詞部分で、毎回「なんて傲慢なんだ」と驚きます。
曲と空気の甘美さ、ロマンチックさで「そういうもんか」と思わされがちですが。
いちょうの季節も相まって、晩秋の肌寒さが曲を通して感じられて
本当にロマンチックで甘美でセンチメンタルな曲だと思います。
もし君がそばにいた 眠れない日々がまた来るのなら
はじける心のブルース 一人ずっと考えてる
She said “ready for blues”
(彼女は「悲しくなる準備はできてるの」と言った)
おやすみなさい、仔猫ちゃん!
空へ高く少し欠けた月 草の上に真珠みたいな雨粒
ほんのちょっと残ってる そんな時だった
ディズニー映画のエンディングみたいな
甘いコンチェルトを奏でて 静かに降り続くお天気雨
夏の嵐にも 冬の寒い夜も そっと明かりを消して眠ろう
またすぐに朝がきっと来るからね
言葉を失うくらいの優しさとロマンチックの結晶みたいな曲。
ある種の女の子はこの曲に恋をするんじゃないかなと思います。
ラブリー
LIFE IS A SHOWTIME すぐに分かるのさ
君と僕とは 恋に落ちなくちゃ 夜が深く長い時を超え
OH BABY LOVELY LOVELY WAY 息を切らす
いつか誰かと完全な恋に落ちる
OH BABY LOVELY LOVELY 甘くすてきなデイズ
それでLIFE IS COMIN’ BACK 僕らを待つ
OH BABY LOVELY LOVELY こんなすてきなデイズ
いつか悲しみで胸がいっぱいでも
OH BABY LOVELY LOVELY 続いてくのさデイズ
これもまたド直球に恋愛を題材にしていますが、
人生のことを歌っていると思う歌です。
生きることの一端である愛にあふれた美しい瞬間を
強すぎる握力で握り固めたような曲。
「生きてれば良いことある」って核をシュガーコーティングしたような曲。
この曲が胸の中にある人と、ない人とで、
人生自体の感じ方すこし違うものになると思います。
多くの人の胸に刺さって、小沢健二自身の代表曲になっているのは
この曲が多くの人の人生を支えている存在だからだと思います。
書けない、そんな曲、普通。般若心経か。
LIFE IS COMING BACK!という呪文。
アルバム「LIFE(人生)」の核もこれですね。
愛し愛されて生きるのさ
いつだって可笑しいほど 誰もが誰か愛し愛されて生きるのさ
それだけがただ僕らを 悩める時にも未来の世界へ連れてく
日常の景色を描きながら、直球に「人生」をテーマにしている曲。
「愛し愛されて生きるのさ」って、責任持って言える人居ますか?(いません)
上記のサビで繰り返される部分が、生きていく方法のライフハックであり
意味としての核かなと思います。これはもう人生論。
この明るさと強さと迷いのなさに、
拒否感持つだろう人がいるというのもわかるんですが
それも想定込みのアプローチとして、
小沢健二というペルソナを含めた強さです。
この曲を受け止めることができれば、心の中のお守りが一つ増える感があります。
指さえも
恋は酔わせる 月光の下キスをする
何千回もね escalation blues
君を愛するこの思い 3000年でもまかせとけ
あの人の指さえも 今僕のもの
あの人の指さえも 今僕のもの
あの時のこと話そ 今ベッドの中
一番の濃度の恋愛ソングはこれだと思う。
イントロのハミングからもう甘い。
個人的に自分の恋愛がうまく行ってるとき、聴きたくなる曲1位です。
◆小沢健二の核のテーマ「人生」についての曲
戦場のボーイズライフ
何度も君の名前を呼ぶ 本当の心捧げて呼ぶ
この愛はメッセージ 僕にとって祈り 僕にとって射す光
勇気を出して歩かなくちゃ 上を向いて胸を張って
心すっかり捧げなきゃ いつも思いっきり伝えてなくちゃ
暗闇の中 挑戦は続く 勝つと信じたい 今は
この愛はメッセージ! 祈り! 光! 続きをもっと聞かして!
何が戦場って、人生で生きることが戦場で、
一人の男子として生きる立場から、同じ立場の男子たちへのエールだと思います。
男子に限らず、人生で戦うひとりひとりへの。偉大で誠実な人生賛歌。
ローラースケートパーク
誰かが髪を切って いつか別れを知って 太陽の光は降りそそぐ
ありとあらゆる種類の言葉を知って 何も言えなくなるなんて
そんなバカなあやまちはしないのさ
それでここで君と会うなんて予想もできないことだった
神様がそばにいるような時間
意味なんてもう何もないなんて 僕が飛ばしすぎたジョークさ
神様がそばにいるような時間 続く
これも偉大過ぎる人生賛歌。
日常の中にキラキラ現れる奇跡みたいな特別な瞬間を
「神様がそばにいるような時間」と定義して、
聞き手ひとりひとりの存在が肯定されていることを念押ししていることと
ありとあらゆる種類の言葉を知って 何も言えなくなるなんて
そんなバカな過ちはしないのさ
というこれは人生訓。本当に。
天使たちのシーン
冷たい夜を過ごす 暖かな火をともそう
暗い道を歩く 明るい光をつけよう
毎日のささやかな思いを重ね 本当の言葉をつむいでる僕は
生命の熱をまっすぐに放つように 雪を払い跳ね上がる枝を見る
神様を信じる強さを僕に 生きることをあきらめてしまわぬように
にぎやかな場所でかかり続ける音楽に 僕はずっと耳を傾けている
この曲を知ったのは、小沢健二の曲をちゃんと聞く前に読んだ大槻ケンヂのエッセイで。
「この曲を聴いて号泣した」ということから印象に残って聴いた曲です。
大槻ケンヂはこの曲をカバーしているので紹介します。
世界中のいろんな場所で生きている人々の日常のシーンを描写しながら
それが祝福されたものであることを確かめている歌だと思います。
どんなにつらい状況でも
「神様を信じる強さを僕に 生きることを諦めてしまわぬように」を
忘れずに生きようと思います。聴くたびに。
さよならなんて云えないよ
左へカーブを曲がると光る海が見えてくる
僕は思う! この瞬間は続くと! いつまでも
南風を待ってる 旅立つ日をずっと待ってる
“オッケーよ”なんて強がりばかりをみんな言いながら
本当は分かってる 二度と戻らない美しい日にいると
そして静かに心は離れてゆくと
この曲の「本当は分かってる 二度と戻らない美しい日にいると」というところを
歌いながら、時々うちの猫を抱き締めます。
ぼくらが旅に出る理由
遠くまで旅する恋人に あふれる幸せを祈るよ
僕らの住むこの世界では太陽がいつものぼり
喜びと悲しみが時に訪ねる
遠くから届く宇宙の光 街中で続いてく暮らし
ぼくらの住むこの世界では旅に出る理由があり
誰もみな 手を振ってはしばし別れる
そして毎日は続いてく 丘を越え僕たちは歩く
美しい星に訪れた夕暮れ時の瞬間
せつなくてせつなくて胸が痛むほど
人生というよりも、人生に似た意味の「旅」についての曲。
全ての別れは旅立ちなのかもしれないなと思います。
流れ星ビバップ
薫る風を切って公園を通る 汗をかき春の土を踏む
僕たちが居た場所は 遠い遠い光の彼方に
そうしていつか全ては 優しさの中へ消えてゆくんだね
目に見えるすべてが優しさと はるかな君に伝えて
素晴らしいと思います。リアルタイム当時から大好き。
これも日常のシーンを通して見た「人生」の歌だと思います。
ある光
この線路を降りたら 虹をかけるような誰かが僕を待つのか?
今そんなことばかり考えてる なぐさめてしまわずに
見せてくれ 街に棲む音 メロディー
見せてくれ 心の中にある光
僕の心は震え 熱情がはねっかえる
神様はいると思った 僕のアーバンブルーズへの貢献
線路って言うのが何を指すのか?というと、
当たり前に想定される未来や、自分に期待される役割なのかなと思います。
この曲のリリースの翌月、「春にして君を想う」の発表を最後に、
小沢健二は世の中から期待された「王子様」のペルソナを脱ぎ活動休止して、
表舞台から姿を消してニューヨークへ活動拠点を移したこともあり
それに激動した当時の音楽シーンの記憶も含めて、印象に残っている曲です。
◆球体の奏でる音楽
全編ジャズアレンジのアルバム「球体の奏でる音楽」です。
このアルバム本当に全曲素晴らしいので紹介します。
個人的には大学生くらいの頃に、一人で旅をして
船の上や知らない土地を歩きながら何百回も聴きました。
このアルバムあたりから、主題が「人生」から「旅」に
移ったかな、という印象があります。
ブルーの構図のブルース
外は雨 流れ 今も続く朝からの雨模様
恋焦がれ 一人でいたい訳 誰にもきっとあるもの
夜空にライト 夜空にライト 晴れた半島 街の灯
ひとつの時間の中にあって 幾億も重なる昼と夜
遠く太陽 遠く太陽 晴れた半島 街の灯
大人になれば
ウッカリして甘いお茶なんて飲んだり
カッコつけてピアノなんて聴いてみたり
大人じゃないような 子供じゃないような
何だか知らないが 輝ける時
誰かと恋をしたら そんな時は言いたいなあ
夢で見たよな 大人って感じ? ちょっと判ってきたみたい
ホテルと嵐
やがて誰の体も吹っ飛ばすような嵐になったら
踊りながらこのベッドの先まで飛んでいくだけ
届かない魔法! 壁に焦げ付いた黒い花 誰もいないベランダ
旅人たち
過去と未来より来たる旅人 そっとその目を閉じ 耳を澄ませる
過去から未来から 誰もみな時を合わせる
あまねく年月の 響きを重ねて
このアルバムを延々と再生しながら、二十歳頃に一人で歩いた
旅先の知らない街や船の上の景色を、私は多分忘れないと思います。
人生の礎のひとつ。