【Eins:Vier】伝説のバンドEins:Vier 30th+1渋谷公演の記憶と、彼らを今見届けるべき理由
コロナで2回延期されたというアインスフィアの30周年+1ライブに行ってきた。
私がこのライブの開催を知ったのも、1度目が延期になった後、2021年5月の開催予定の前のタイミングだった。
■アインスフィアとは
アインスフィアは、今やベテラン・大御所となっているミュージシャンが何人も影響を受けたとファン宣言をしており、知る人ぞ知る存在となっている伝説のバンドだ。
アインスフィアは、私の思春期を支えたバンドの一つではあるが、当時私は彼らの熱心なファンではなく、ライブに足を運んだこともなかった。
岡山在住だった中学生の頃、家族旅行で初めて来た東京で、鹿鳴館のCDショップ(だったと思う、当時はあった気がする)で、インディーズ流通のRISKを買って、思春期の折々で彼らの曲を聴いて過ごした。
ライブに足を運べるようになった頃には、彼らはメジャーを経て解散してしまっており、
「格好いいバンドだったな、一度くらい見たかったな」
と思いながら、それが叶うなんて思いもせずに今まで生きてきた。
アインスフィアの再結成を知ったのは、本当にコロナが始まってからだったように思う。
昔の曲を採録したCDをリリース、また新たに制作された曲の質の高さと、あらためて実感したロマンチックな説得力が、本当に格好良くて、しばらくMVを繰り返し見ていた。
前置きはいい。
この9月4日5日に2デイズで開催された30周年+1のライブに足を運んだこと。
リハーサルを見学できたこと。
1日目は「実在したんだ…」と知っている曲と演奏する彼らの実態を確かめることで、一生懸命なうちに終わってしまった。そしてすべて必死に見たはずだったのに、セットリストすら思い出せない自分が歯がゆく、悔しくて、2日目はノートを持参し、思ったこと気付いたことを書き留めることにした。
■公開リハーサルと1日目ライブ(9/4@渋谷wwwx)
2日通しのチケットを購入した人のみに公開された初日のリハーサルが、私がアインスフィアを初めて見たタイミングとなった。
私服のまま、機材の調整を挟みながら演奏されたのは、Notice、after、I feel that she will comeの3曲。
「いつもは歌わへんねんけど、今日はみんないるから歌います」
とはにかむように言い、歌い始めたHirofumiさんは、音源で耳に馴染んだよく知っている声をしていた。あたりまえだけど。
Noticeは、中学生の頃に知ることができて、私の人生の背骨の一つになった曲だと思う。
ひんやりしたクリーントーンのギターと荘厳な厳しさ、MVの差し込む光が象徴的な曲だ。
「立ちふさがる問題に 君は今も逃げているのかい」
「人を憎み 穢すことで君は逃げていないかい」
「罪深くあふれる記憶は 自分で拭うんだ 何度でも」
これらの言葉は歌詞の範疇を超えて、人生のいろんなシーン、例えば一人で夜道を歩いて考え事をしているような時に、ふと頭の中によぎる言葉として、今も存在している。
サビの部分を口ずさむたびに、祈るような気持ちになる。
具体的な対象はなかったとしても、これは懺悔と祈りだと思う。
そのやり方を教えてくれた曲だ。
リハで演奏された2曲目は「after」。
耳にしたことはあるけれど、それほど聴き込んでいなかったこの曲が、演奏された途端に、ステージの色が変わるのが分かる。ライティングなどされておらず演出などゼロのステージの上の空気が変わる。
「曲の力だ」とハッとする。
初期の空気感を水彩で描くような曲とは違い、シンプルでストレートだと改めて感じる。
「これから探していくものは 失うものよりたくさんある」
「素直に信じるということは 疑うことよりも勇気がいる」
明るく力強い祈りだ、と思う。
背筋が伸びる気持ちがした。
3曲目は、「I feel that she will come」
YouTubeのライブ動画を見て、客席が手を伸ばすところまでを含めて、すごく愛に満ちた印象がある曲だった。
映像では伝わりきらなかった音像の立体的な幻が見えた気がした。
月光のようにやわらかく降り注ぐギター、脈動のようなベースと、背骨のようなドラムの音が全部必要で、全部が重要な位置を担っているということが一聴してわかる。
誤魔化しの一切ない構成、もちろん今では当たり前とされる音源同期なんて一切存在しない。
曲が始まると、ステージに幻が現出される様は、イリュージョニストと言っていいと思う。
*
3曲程度で終わってしまった公開リハーサルだけで、頭がくらくらするのを感じる。
その後、本番のライブを見たはずなのだが、記憶が全然ない。
一曲一曲で、沢山のことを感じて、見て、確かめて、驚いて、いたはずなんだけど、全く記憶にない。
ルナさんのベースは、手首の当たる箇所だけ塗装が剥げているとか。
ヨシツグさんはセンタープレスのクロップド丈のパンツを履いていて、靴ととても合ってお洒落だったとか。
以前「ブレッドアンダーソンに似ている」と書いている記事を読んで、「いや似てないでしょ」と思ったヒロフミさんは、手足の長さと歌っている姿が似ていると納得したとか。
多分、20年前にライブに足を運んでいたとしても、私はこんなに感動していなかったんじゃないかなと思う。
格好いい大人だなあと思ったこと、中学生の自分が選んだ音楽が、大人になった私見ても格好いい本物だったことが確かめられて嬉しかったということなのかもしれない。
*
しかし1日めのことは、本当に憶えていない。
知っているフレーズを耳で確かめて、弾いているところを見て確かめて、歌詞の言葉をなぞって聴いているうちに、記憶する前に流れて消えてしまった。
聴きたかった曲をいくつも聴けたこと。
Words For Maryのサビの
「月から天使たちが微笑みながら降りてくる」
のワンフレーズ、ずっと聴きたかったのが聴けた、ような記憶があるんですけど、記憶違いだったらすみません。
■2日目の記憶とライブレポート(9/5@渋谷wwwx)
前の日の教訓を生かし、ライブ会場にノートを持ち込むということをする。
するべきではないとは思って控えてきた(文字書く間に、ステージ見てろって話だとは思う)のだが、憶えておきたいことが多すぎる。目にしたこと、気付いたこと。
というわけで、前置きが長くなりましたが、2日目のライブレポートを書きます。
*
ステージ奥には、モチーフとなる三本線とツアータイトルの布が下げられている。きちんと小さく折りたたまれていた折り目が残っていて、延期になった間保管されていた時間を思わせる。
開演時間を少し過ぎて、客席の照明が落ち、メンバーたちが姿を現す。
1曲目は「SHINE」
パーツごとの音の安定感が際立つ。
ギターのコードからメロディー弾きへの転換が印象的だった。
大きく優しく響くギターが、歌を全く邪魔していない。
祈るように声が伸びる。マイクスタンドがある。途中でドラムの傍らに置きに行く。
ギターソロの時、配信のカメラがヨシツグさんの手元をがっちり撮っていたのが印象に残る。
深海のような静かな青い空気。はるか上空から光が差し込んでくる景色を思い描いたけれど、それは「いっしゅんのきらめきに」という歌詞が導いたものなのかもしれない。
2曲目は「碧い涙」
曲が変わると、空気が変わる。会場の中の雰囲気が一変する。
解放感。明るさ。
演奏の安定感がすごい。マイクスタンドはなしのまま。
「それだけが、僕らの未来さ」
Aメロのアルペジオ。レバーをひっかけたまま弾かれるギターソロ。伸びやか。
終わりの鮮やかさ。
MC
「距離を超えて、共鳴して、素晴らしい一日に」
誰が言ったかメモしてないけど、多分ヒロフミさん。
3曲目は「メロディー」
イントロギターの鮮やかさ。ファンのテンションが一段階上がる。
ベースが柔らかくて強い。
空中に線を描くようなギター。
この上なく鮮やかなのに、全く耳が痛くない。
4曲目は2020年にリリースされた新曲から「three stories」
「見えない指先 その手を伸ばして」のフレーズが印象的。
トリッキーなイントロギター。青→赤→白とライトの色が変わる。
透明感と重厚さ。ドラムとベースの相性の良さが際立つように思う。
ルナさんは手元を見て真剣。ヒロフミさんは前かがみになり、覗き込むような歌い方。
【追記】
この日の前日の演奏が後日Youtubeに上げられました!
5曲目はリハでも耳にした「Notice」
数えきれないほど聴いた曲だから、知っているフレーズと目の前で発される音をひとつずつ一致させることに必死になってしまう。
イントロの刻み付けるような厳しさ。
前かがみになり、下を見て、懺悔するような歌い方。耳を傾けるほどに、丁寧に弾いているのが分かる演奏。
サビの「罪深く」で、無意識に手を差し伸べたい衝動に駆られる。
サビに入った瞬間、照明が強く降り注ぐ。涙腺が緩みかけるのを感じる。
私の人生の中にずっといてくれたこの曲は、この人たちの作った曲なんだなということを噛みしめて感謝を覚えた。
MC
何を言ったかはメモし忘れ
6曲目は「Not Saved Yet」
楽器の二人がステージ際まで前に出る。
素晴らしすぎるイントロが音像として浮かぶ。
ベースの存在感。ギターの水面のような揺らめくバランスがすごい。
「I’m not saved」というコーラスをするルナさんとヨシツグさん。前を見て、客の一人一人を見ているのが分かる。
間奏がまた美しい。切替の鮮やかさ。
ずっと続いてほしい時間だと思った。
【追記】
後日、この日のNot saved yetがYoutubeに上がりました!
この日の演奏が再び見られると思っていなかったので、驚いています。
本当にありがとうございました!!!!!
7曲目は新曲のミニアルバムから「100年の幻想」
赤いライトの下、キュアーっぽい不穏さに始まった曲。
ルナさんがベースを刻んでいる。ギターはサビで青いライトの下で解放感に包まれる。
静と動という言葉が浮かぶ。クールな熱さかもしれない。対極にあるものが共存するという印象。
音の圧。水中みたいだと思う。
【追記】
この日の演奏がYoutubeに追加されました!
8曲目は、「and I'll」
ギターのフワーッという音からフェードイン。シューゲイズと呼ばれる音楽を思わせるギターの揺らぎと透明感。魔法使いの本領発揮という感じ。ヨシツグさん、すごい偉大な魔法使いだなって改めて思う。ハウリングすれすれで絶対ハウリングさせない響き。
ルナさんのベースは、脈動みたいだなと思う。肉体を生命として成立させるのは、脈動があるからだということを聞きながら考えていた。
紫色のライトの下で、ギターのまばゆさと。バスドラとベースのユニゾンを息をのんで見守る。
MCルナさん
「曲を作った時のこととか、演ってきた曲たち。30周年をとても感謝しています。
だけど、コロナのせいだと分かっているけど、チケット売れてる半分しかお客来てない。配信も届いていない。これだと続けたくても続けていかれへん。そのうち見に行くとか思ってる人は、そのうちがあると思うなよ。次の保証なんて何もないからな」
そのうちチャンスがあれば見に行こうと思って、今回まで見に来ることがなかった私に刺さる。
同じように「そのうち見に行こう」と思って先延ばしにしているバンドは、見られないまま終わってしまう可能性があるということも。
9曲目は「Staying and Walking」
ルナさんの言葉にショックを受けたまま、頭を切り替えられず聞くことになってしまう。
さっきの言葉に重ねられる決意のような曲順だと思う。
「僕たちは歩く 行く先もなく」
歩く道を照らす光のような、導くようなギター。音が変わる鮮やかさ。
水中の光みたいな。
10曲目は「I mean What I Say」
「道なき道を」「いびつな自由を」断片的に届く言葉が残っていく。
ライトが明滅する下で激しく響くバスドラ、印象的なギターリフが繰り返される。表情を付ける。サイレンみたいな左右にうねるギターソロ。
これ、今どきの若いバンギャがお客ならヘドバン曲だなあと思いながら聴いていた。
11曲目に続いたのは「L.E.S.S.O.N」
うず巻くようなイントロ。サイレンのような響き。楽器二人が前に出る。音が主体の曲だと理解する。これもヘドバンしたら気持ちがいい曲だと思う。
お客さんは誰もしていないけど。90年代のバンドシーンは今みたいなヘドバンやらフリやらは存在しなくて、手を差し伸べるばかりだったなあと遠い目になる。(私はその当時行きたくてもライブに行かせてもらえなかったので)
12曲目は「Dear Song」
また雰囲気が変わる。ギターの音一つで風景が変わる。景色が見える。
積み上げてきた歴史、見てきた記憶を確かめているような曲だと思った。
この曲をやる演者にとっても、曲を通して時間を重ねたお客にとっても。大切に大切にされてきた曲なのだということが、ライブを見ているだけで分かる。
「過ぎ去った日々は取り戻せず、僕は流れゆく時を感じる」
サビのところで涙腺に来るのを感じる。客席は手を差し伸べている。
ロマンチックな音色。ルナさんめっちゃ刻むやん。
叫ぶルナさん。ほほえみくちずさむヨシツグさん。
いつの間にかマイクスタンドを戻して使っているヒロフミさん。
ロマンチックだとうっとりしていると聞き流してしまいそうだが、音のピントの合い方が尋常じゃない。現実なのだということをそんな点でもハッとした。
曲が終わり、ふと目を上げると、メンバーたちは「ありがとう~」と言いながら下手にはけていった。本編が終わったことをここで初めて理解する。
アンコールと声を上げる人は居なかった。コロナだから。
ただ、客席のほぼ全員がアンコールを待つ拍手を続けていた。
どんなライブでも、アンコールを人任せにして談笑している人たちは目につくものだが、この二日間、下手でも上手でもそんなお客は一人もみなかった。これは凄いことだと思う。
姿を現したヒロフミさんが
「ルナみたいな強気なことは言われへん。みんなが元気であればいいです。
どんな形でも薄くでも繋がっていければ、それが力になるから。
『あいつら頑張ってるんやな』って思い出してもらえれば」
と先ほどのルナさんの言葉をフォロー。
アンコール1曲目は「Come on loser」
イントロのドラム。ギターの太い響き。ドドッドッドドと鳴るベース。
音が力強い。色が濃い。音の輪郭が見えやすい。明確で、確かめやすい。
レバーをひっかけながら弾くギターじゃないみたいな音。圧倒的な立体感。
繊細で正確で、表情のあるドラム。
【追記】
こちらも後日、この前日の演奏がYoutubeに追加されました!
音の安定感と、彼らのゆるぎない存在感が分かる映像だと思います。
アップロード本当にありがとうございました。
アンコール2曲目は「Touch or Don’t Touch You know」
青いライトの下で揺らめく水のような。多重和音のギター。ベースがメロディーを弾く。表情個性が見える曲だと思った。
直接滝に打たれているような音、水面を見上げるような光。
MCルナさん。
「来月頭に大阪で、懐かしのミューズホールやる。その次、11/27渋谷のストリームホールでワンマンやるから。この次はないかも」
さっきの怒りと悔しさをこぼしてしまったMCに被せるような次回の予告。
「ひとつになりましょう」の言葉で始められたアンコール3曲目は「In your dream」
全てを肯定するようなイントロギター。ギターの表情が分かりやすい曲だと思う。
客席を煽るルナさん。サビで手を差し伸べる客席。
光があふれる。夢の輪郭を描くギターソロ。微笑んで見回すヨシツグさん。
こんなに甘い音のギターは聞いたことがないかもしれないと思う。
「どうせ引き裂かれるのなら 夢の間に この感じぬ時に」
「僕はあなたと死にたい」
アンコール4曲目は「In a void space」
シンバルとギター、バスドラとベース。確かめるように弾いているように見える。
ルナさんのコーラス。
演奏の途中で挟まれる滲みの気配もない空白。
耳鳴りみたいな、鼓動みたいな曲だと思う。
*
長くなりましたが以上です。
あんまり参考にならない、私の極個人的な記憶のメモですが、アインスフィアめちゃくちゃ格好いいので、それが誰かに伝わると嬉しいです。
演奏の描く景色で、こんなに感動すること、今まで見てきたバンドであまり例がないです。
興味を持ったら、YouTubeで曲を聴いてみて、11/27(土)に渋谷に行くと、後悔しない景色を見られると思います。
ライブを見る趣味のある友人全員に見せたいもの。チケット代おごるから、この日空けておいて!と。
最後に、私が一番好きな曲貼っておきます。
大阪の配信では聴けるといいな~~~~!
*
読んでくださった方には伝わっているかと思うんですけど、何分混乱していたため、記憶違い、曲目違い、あると思います。間違い気付いた人、すぐ直すので、そっと教えてください。。。(わざとじゃないです)
■現在のアインスフィアを見られるチャンス
同ツアーの大阪公演も終わり、予定されているライブは
11/27(土)渋谷ストリームホール のみとなりました。
「これで最後、を売りにするのではないけど、
いつまで続くか分からないということは事実。
ただ、決まっているライブはここひとつだけ。見たい人は来てください」というルナさんの言葉にある通り
「色んな人に影響を与えたアインスフィアという伝説のバンドが、
過去一番、格好よく存在している現在の姿」を
見ていただけたらと思います。
https://eins-vier.wixsite.com/eins-vier/live
今回の公演の中で聴いたいくつものフレーズの中から、「after」の中の
「素直に信じるということは、疑うことよりも勇気がいる」
という一節が、ずっと頭の中で回っています。
あと、「Words For Mary」の
「偶然は必然より、仕組まれた定めだから」
という一節も。
このフレーズは、1日目の帰り道にもずっと頭を離れなかったのを思い出しました。
大阪公演の記事はこちらに書きました。よろしければ。