【GIVEN BY THE FLAMES】ホラーとメタルが好きなあなたへ
タイトルを見て興味を持った諸兄は、まずはこのビデオを再生して欲しい。
R.I.P
サムネイルの画面に映る本物の悪魔みたいな風貌のボーカルが、このバンドのフロントマンであるWillianである。
この存在の説得力に圧倒された人は、メタルコアに親しんでこなかったとしても、きっと彼らが音楽で描くものを好きになると思う。
廃墟に迷い込んだバンドメンバー5人が、悪霊やらお化けやらに遭遇して逃げ回るこのMV、MVでホラー映画をやろうとしていて、もうそこで大好きなんですけど、化け物役(特に先述の悪魔みたいなWillian)が逃げ惑う5人のうちの一人(キャップを被ってる人)として、一人二役しているところも本当に好い。
ビデオの最後に含まれているオフショットで、青年たちの素顔も垣間見えるところもとても好いです。
◇
彼らを知ったのは2か月ほど前になる。
別のバンドを見に行ったライブイベントの対バンで見かけた。
正直私は、普段から目当て以外の出演者に全く期待していないので、対バン相手の彼らを始めから真剣に見ていたとは言い難い。
ファンの人たちの視界を遮らない壁際に寄って、期待せずに見ていたところ、ボーカルの人の存在感に圧倒されて釘付けになっていることに気付く。
長身で痩躯のボーカルは、腰まで垂れた長い髪を振り乱し、悪魔のように叫んでいた。
耳鳴りのように世界を閉ざすディストーションの強い2台のギター。
均整が取れつつ、鼓動のような重さをもって世界を刻んでいくバスドラム。
演奏中も薄暗いステージの上で、差し込んだ光に彼らの姿が逆光に浮かぶ。
彼らの音楽ジャンルは「ゴシックメタルコア」だという。
私はこれまで、メロディーと歌詞とギターリフを頼りに音楽と接してきたので、彼らのようなほとんどメロディーがなく圧倒的なリズム刻みながらシャウトを重ねるハードコアの類の音楽の正しい受け取り方や流儀を全く知らないということに気付く。
ただ、激しくも均整が取れたリズムは、初見の棒立ちで見ていた私を、いつの間にか頷くようにその渦に飲み込む力があったと言える。
メロディーもほとんどなく、ギターもカッティングが中心で象徴的なギターリフやソロもほとんどない。
ただ圧倒的な音と、ステージ中央で悪魔のように吠えるボーカルの存在感。
それが、初めて見た時の印象だった。
「バンド名憶えて帰ろ」そう思ったことを記憶している。
その後、彼らのライブに二度足を運んで、Youtubeに上がっている曲を一通り聴いて、激しいだけではない彼らの荘厳さや悲しみの気配を含んだ音作りに「私がホラーに求めていたものだ」と膝を打った。
PURGING NIGHT
ホラーにもいろいろある。
私は怖い話が好きで、ホラー小説や、映画を見ては、これまで幾度となく落胆してきた。
グロ描写が見たいのではない。追いかけまわされるストレスも嫌いだ。
お化け屋敷のように驚かされるのも嫌いだし、刃物も嫌いだ。
愚かな人間が簡単に残虐に殺される様を見るというのも別に趣味ではない。
荘厳さや神々しさ、世界観が見たかったのかもしれない。
悪魔の化身のような殺人鬼モンスターは洋画ホラーにつきものだが、彼らの存在感や絶対性、その神のような概念に畏怖を抱きたかったのだと気づく。
(本当に余談だが、私が今まで一番怖いと思ったのは、ゲーム「クロックタワー」のシザーマンである。シザーマンに見つかったらゆっくりと近付いて来られ、巨大なハサミで殺される。戦うこともやっつけることもできない設計で、何とか回避しながらクリアを目指すゲームなのだが、私はシザーマンの気配に怯えて、隠れて息を殺し、そのままゲームオーバーしかしたことがない)
日本は、目に見えない概念(都市伝説や怖い話)が、日常と紐づく怖さが強い。
欧米は、肉体を持った殺人鬼・モンスターを、現実的な死の恐怖として描くものが多い。
それは宗教観に基づく価値観として自然な話ではある。
キリスト教の定めるところの「悪魔」は、日本で暮らす私にとって縁遠い概念ではあるが、聖書によると悪魔というものは元は天使だったということから、美しい風貌をしているんだろうなと思う。
話が逸れて恐縮だが、私がホラーに求めるのは、「悪魔とされる存在感の絶対性」と荘厳さ、世界観なんだと思う。
「悪魔と聖人をこれだけ体現するWillianの存在感を、ホラーというものが好きな人に知られてほしいな」と思ったのが、この記事を書こうと思った動機である。
あと多分、ホラーとロック・メタルは親和性が高い。
PURGING NIGHTは直訳で「浄化の夜」だが、映画「the PURGE」から来るスラングで「犯罪が許される夜」とされるのかもしれない。もっと言うと「浄化」という名の「皆殺し」なのかなと個人的には受け止めている。
この曲の、絶対的なものを前にした時のような荘厳さと、内包する諦めたような悲しみと叫び。
ギターのDiekeyのリードボーカルによるメロディー。
つぶやくように発声されるWillianの祈りのような言葉。
世界を塗りつぶすような圧倒的な音像。
メタルコアを聴きなれていない私にとって、最初に耳に馴染んだのは「PURGING NIGHT」だったと付記しておく。
ステージの上に、演奏を通じた映画のような幻を見る。
BRING ME BACK
音の厚みを楽しむなら、BRING ME BACKが好いかもしれない。
今更言うが、これだけ均整の取れた重厚さを体現する彼らの演奏力はバチバチに高い。
自然にうなずくようなリズムに飲み込まれる楽しさ。
RONOVE
疾走感のあるギターリフが象徴的なRONOVEも、立体的な音作りを楽しめる。
畳みかけるバスドラと差し挟まれる清らかなコーラスの対比が美しい。
SIREN
明快なホラーの歌詞で大好き。
重厚な音作りの強弱付けの転調の鮮やかさと、音の見せ方がとても上手だと思う。
象徴的なリードギターやコーラスも素敵。音の挿入がいちいちめちゃセンスいい。