海なく、河も、川もなき街には未だひと雨も降らぬ
海なく、河も、川もなき街には未だひと雨も降らぬ。靄に包まれ、蒼くあるべき空は透らず。
多少なりとも黄味がかりし街路樹は、ながらく掃除する者なき空き家が如く埃被り、季の移りて色変はれど、鮮やかなる形容など能はず。木の葉揺らす風もまた駆け抜け行くも、清々しき心地良さをも感じられぬ。
喜怒哀楽などの情感失ふと、人もかように趣きも風流も失ふものかなと思ひつ眺め居る。
今の吾にこの景色似て相応しきものにあらんや?
思はず、覚えずに居るは、思ひたくなき、また覚えたくなきことあるゆゑなれど、そのことに気付けば日々やり過ぐことさへ難くならん。
雨降らば色また戻るか?
雨降らば街、冬の色を粧はむ。色の乏しき冬の色を。
冬の間は枯れ落ち、色全き失ふならば、木々が如く春、吾を呼び起こし来るまで眠りたし。