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猫の話

「フリック操作に慣れなくて、拙い文章になったら申し訳ない。まだ指が慣れない。文章を読み書きする習慣も今までなかったから、とりあえず下手でも書き通せればいいかなと思う。書く練習として。物好きな人に読んでもらえれば幸いだと思う。

長いこと生きてきたが、恥ずかしながら最近初めてスマートフォンというものを触った。こんなに面白いものだとは知らなかった。ツイッターもYouTubeも。知ってはいたし目にしていたが、自分には関係ないものだと避けてきた。一旦理解すると流行っているだけあって良いもので、今では時間のある限りYouTubeでいろんな動画を見ている。かわいい猫の動画が一番お気に入りだけど、ジャンル問わずいろいろ見ている。

でだ、YouTubeと言えば。
最近、変な動画を見たのだ。その話をしようと思う。

グループYouTuberの動画。メンバーは男が6人と、猫が1匹。誰かに飼われているというわけじゃなく、外で過ごすこともあり、それぞれの家に行くこともある。いわゆる野良猫と家猫の間のような暮らしをしていた。

その動画には、『猫の目線で世界を見よう!』という見出しがついていた。猫の背中にビデオカメラを括りつけて外を歩かせれば、猫が見ている景色を追体験できるんじゃないか、という企画。
動画内で、重いカメラを猫に載せたらかわいそうだ、と言ってくれるメンバーもいたが、実際には負担にならないくらい小さくて軽いカメラだった。

メンバーは猫にカメラを括りつけて、外へ出した。猫はこうしてみるといかにもか弱そうで、小さくて、確かに愛しい感じがする。歩き出した猫を見送ったところで、一旦動画がカットされた。

次のシーンでは、時間が飛んで、玄関先にビデオカメラだけが転がっている映像が流れていた。メンバーがそれを見つけて、『ねえ見てくださいよこれ』『さっき玄関開けてみたら、あいつはまだ帰ってきてないんだけど、ビデオカメラだけ置いてあって』『自分でカメラ外してどっか行ったのかな、それともカメラだけ勝手に帰ってきた? わけわからん』と話していた。

メンバー同士で『こわいね、何があったんだろう』『ちょっとVTRを見てみましょう』と会話があって、ビデオカメラから回収した映像が再生される。

カメラは家の前から始まり、住宅街を日陰に沿って歩いていく。画角の下端には猫の灰色の後頭部が移っており、細かく揃った毛としなやかな耳が、ふわふわと揺れている。毛づくろいのしづらい箇所だからあまり綺麗なものではないが。一歩歩くごとに視界もゆらりと揺れて、こうして見ていると酔いそうになる。

その後どこを通ったっけか。映像を見ると、商店街に差し掛かる。小さな女の子に駆け寄られて走って逃げたり、お店を通るときにおじさんおばさんから食べ物を貰ったりしている。

商店街を抜けると、ガードレールの日陰に沿って歩き始めた。遠くに山が見える。

だんだん険しく怪しくなってくる道を、どうしてか恐れもせずに進んでいく。気づけば日もやや落ちて、出発したとき青かった空はいま赤く滲んでいる。

山に入り、じめじめとしてそうな土の上を歩く。涼しそうではある。入り組んだ道の中で、草や枝がカメラにぶつかってバリバリと音を立て、視界が緑に防がれてはまた晴れる。カメラのレンズに土や葉の破片がついて汚れても、どうしてか灰色の毛並みは綺麗に輝いて見える。

やがて大きな枝に引っかかり、視界がぐるりと回転した。カメラが落ちたのである。背中が軽くなったのに気づいて後に戻り、手でカメラを叩いたり頭で押したりしてみるが、どうにもならない。なんとなく背負っていかねばならないのはわかっていても実際どうにもならんので、また歩き始めた。カメラは倒れたまま地面の茶色い土を映していて、その視界の端で灰色の姿がどこかへ歩いて行った。

ここでメンバーが言う。『じゃあこのカメラって、ここで外れてたってこと?』『こっから誰が持って帰ってきた……?』

動きのない画面を見つめるメンバーたち。しばらく編集で早送りされて、動きがあった。カメラの視界が突然ぐるりと回り、また同じように歩き始めたのである。一歩進むごとにまた上下に揺れる。ただしさっきと違って灰色の毛並みは見えないのと、視界はさっきより遥かに高い位置にある。ちょうど人間の目の位置がこのあたりなんじゃないかと思う。カメラは誰か人間が手に持っているか、もしくは人間の視界をそのまま映しているかのように、ずんずんと歩いていく。ただしカメラを持っているとすればそれが誰なのかはわからない。知らない親切なおじさんが拾ってくれたんだろうか。ではなぜ撮影してくれているんだろうか。


メンバーも『えっ何何何』『誰? こわすぎる』と怯えている。面白がってもいるが、けっこう本当に戸惑っている。映像は続く。

カメラの持ち主は、何者かわからないが、山を登り続けた。しばらく上って、ずいぶん高いところに来たと思ったら、大きな大きな木があった。壁のように太い幹があり、その真ん中にちょうど猫一匹ぶんくらいの空洞というか穴が空いており、そこにさっき消えた猫が眠っているのが写された。カメラは猫をズームして、穏やかそうな寝顔が画面一面に映る。猫も寝息を立てるしいびきをかくもので、ぐるるるるる、と気持ちよさそうに眠っている。誰が敷いたか、身体の下にはまだ落ちたばかりの新しい葉っぱが布団のようになっていた。こうしてみると異常な光景である。

メンバーも『えっ、これ何?』と戸惑う声と、『カメラめっちゃズームしてくれるやん』『かわいいー!』と無邪気に楽しむ声とがあり、困惑しながらも楽しんでいる。こんな異常事態にあっても人間にとって猫は癒しである。

寝ている猫から離れ、カメラの持ち主は山を下り始めた。来た時と同じ道を引き返して、山道を下り、ガードレールに沿って歩き、商店街を抜け、住宅街を進む。辺りは青空が広がっていた。昼から撮って夕方になったのを見たがいつのまに夜を越えたのか、録画時間は5時間くらいだからそんなに経ってないはずだが、なぜか昼くらいの時間になっている。

そして家の前に着くころ、いつ変わったのか気づかなかったが、目線の高さが地面すれすれになっていた。歩いている間に徐々に変わったのか? 動画を巻き戻して見て見たが、どこで変わったのかわからなかった。森にいたときは人間の目線の高さくらいだったのが、いつの間にか猫の目線を過ぎてほとんど地面に置いてあるのと変わらないくらいの高さにまで落ちている。

そして家の前で動きを止めると、カメラは完全に地面に置かれた状態になった。

カメラが止まってから数分後、家のドアが開き、そこから例の灰色の猫が姿を現した。カメラに近づいて匂いを嗅ぎ、周りをぐるぐると二周して、興味をなくすとどこかへ去って行った。

カメラの視界に動きがないまま数分経つと、玄関が空き、メンバーの『……え?』という声がした。一度玄関が閉まった後少ししてまた開き、『ねえ見てくださいよこれ』『さっき玄関開けてみたら、あいつはまだ帰ってきてないんだけど…………』と、話す声が流れる。ここでカメラが発見されたということだ。

VTRは終わり、メンバーのトークになる。

『何、なんかヤバくなかった?』
『ヤバい、なんもわからん。何から言えばいいのか』
『怖い。怪奇現象撮っちゃったんじゃない』
『けっこー本気で怖いんだけど』
『まずカメラ誰が持って帰ってきた?』
『宙に浮いてたんじゃないか』
『俺らの猫、ご神木で神様みたいになってなかった? 今もあそこにいるってこと?』
『でも最後にこの家から出てくるとこ見たぞ』
『その間に帰ってきてたってこと? お前見た? 帰ってきたとこ』
『見てない。あれからカメラ見つけるまで玄関開けてないし、いつ帰って来てたのかもわからなかった』
『ていうか居たか? 今日カメラ背負わせて出して、それから一回も見てないぞ』
『あの後どこ行った? いまどこにいるんだ』
『ちょっと一回探したほうがいいんじゃないか。あの山にいるかもしれないし』

ということで、猫を探すことになった。

6人いるので手分けして、この家、山、歩いた道、いろいろ探し回るVTRが流れる。

カットと早送りで捜索の様子が流れる中、『見つけた!』と声がした。なぜか、メンバーの一人の家の、押し入れの中に閉じ込められていたのだ。最初に撮影のために出た家とは別の家である。押し入れの奥で泣く声がして、心細そうに救出された。抱きかかえて帰ろうとすると、道中で勝手に降りて、家のほうに走り出した。

走って猫を追いかけるも、追い付かず、とりあえず彼は他の五人にラインを送る。見つけたから来てくれ、もしくは勝手に家に帰ってるかもしれん。すると返信はこうだ。『さっき見つけて、最初の家に置いてきたぞ』『いや、今見つけて抱きかかえてるとこだぞ』見ると、二人からそれぞれ『これが見つけたときの写真だ』と別々の画像が送られてきている。確かに本物である。じゃあ自分がさっき押し入れから助け出したのは何? 幻覚? 別の猫と間違えたのか? 混乱したまま、帰路につく。

また6人集合して、メンバーの一人が抱きかかえたまま猫を持って帰ってきた。他にも二人別々の場所で『見つけた』メンバーがいて、いや本当にいたんだって、と弁明する。誰も彼も混乱していて、わけがわからない。

『みなさん、山へは近づかないようにしましょう』
『あと動物で遊ばないようにしましょう』
『いやお前が無事でよかった』
と猫が撫でられて、
『また次回!』
と動画が終わった。

コメント欄は阿鼻叫喚で、本当に怖がる人、出来の悪いファンタジーだと言う人、猫がかわいそうだと言う人、いろいろいる。もう何か月も前の動画なので新しいコメントはついていないし、そんなに伸びている動画でもなくファンしか見てないようなので、あまり世間的には話題になっていないらしい。

まあそんなもんだろうなと思う。

何でこの話をしたかというと、さすがにそろそろ教えたほうがいいんじゃないかという気分になってきたためである。隠し事をずっと隠しているのは気分が悪い。なんとなく。

自分が人間のようにものを考えられるようになったのは、どうもこの出来事がきっかけのように思える。動画の投稿時期を見るとちょうどそのあたりである。

もったいぶらずに言うか、いやせっかくだから世界で自分しか言えないセリフを言っておくか。つまりこういうことだ。


吾輩は猫である。名前はまだない。


いつ人間のような知性を持ったのかとんと見当がつかぬ。何でも6人組の家を行き来したり、街でニャーニャー鳴いて魚や肉を貰っていたことだけは記憶している。

とまあそんなところである。肉球でもタッチパネルは触れるし、この小さな頭でも漱石は読めるらしい。どうしてこんなことになったのか、あの日変な機械を背負わされて外を歩いた記憶が最後で、森の中ですやすや眠り、目が覚めたときにはまた家の中におり、人の言葉が少しずつわかるようになっていた。それからまだ変わらず猫のふりをして過ごしているが、何だか誰かに話したほうがいいような気がしている。タッチパネルの操作は出来ても、喉は喋れるようにはできていないので鳴き声がニャーからニャイとかナオーンに変わるくらいでこちらからは話せない。

始めはこの文章をnoteにでも書いて世界に公開しようかと思ったが、先に誰か信頼できる人に相談したほうが良い気もするので、一旦家主の知り合いのメールアドレスに送ってみようと思う。

どうもフィクションだと特殊能力を持った人が世界にバレると解剖されるとか人体実験されるとかを恐れているようだけど、こちとら猫なので、まあ酷い目には遭うまい。古来から人間は猫の家来と決まっている。吾輩どうしていいかわからんので、何かよい手立てを考えてくれ。誰かよく知らんが、丸海てらむという者、後は頼んだ。念のため送った履歴も消しておくしまだしばらく猫のふりをして暮らしているので、良い手が思い浮かんだら迎えに来てくれ。」


今朝起きると、上記の文章がスマホのメールに届いていた。

自分には6人組でYouTubeをやっている友人がおり、彼らがちょうど灰色の猫を飼っているので、そこから思いついて自分かその友人が書いたんだろうと思う。

文章の感じを見るとその友人というよりは自分の文体に近いから、たぶん昨晩友人の家に泊まったときに寝ぼけながら自分でこのいたずらを思いつき、友人のスマホから自分に送ったんだと思う。たぶん。記憶はないがそれが一番話の筋が通る。

昨日ちょうど、初めて酒を呑んだのだ。けっこう酔って、途中から記憶がない。人を驚かせるのが好きなのでこういうこともやりかねない。酔った割には文章がまともだなと思うが。

自分へのいたずらで済ませるにはちょっともったいないかなと思うので、せっかくなので投稿してみる。支離滅裂な話ですみません。

……本当に自分の作り話だと言い切れる自信もないが。

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