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【ジャンプ+】埋もれてはならぬ怪作、ハイパーインフレーションを読んでくれ

ハイパーインフレーションという漫画の話をしたい。アプリ「ジャンプ+」で去年まで連載されていた、デスノートばりの頭脳バトルを銀魂くらいのギャグ密度で繰り広げつつ、中世の歴史雑学と経済史・貨幣史を無限に摂取できるというすごい漫画である。あとショタもいる。

この記事では、ハイパーインフレーションのすごいところをずらずら並べていくことで「なんてこった、こりゃあ読まねば!」という気にさせることを目標としていきます。読む気になったらこんな記事すっとばして上記リンクからさっそくぜひ。1~10話まではいつでも無料、11話以降はアプリからなら動画見たりとかポイントとかで読めるのでそれでどうにか。単行本もあります。

ちなみに冒頭数話ぶんくらいのネタバレをちょっと含むかも。

すごいところ1:やたら詳しい

舞台は架空の世界なんだけど、限りなく中世ヨーロッパに似ている。と言ってもRPGとかなろう系とかでよくある中世ファンタジーではなく、国名とか人が違うだけでかなり現実の中世に近い。架空世界なんだけど、時代考証がしっかりしているというか。

例えば以下は奴隷船と海上保険について話しているシーン。奴隷船は以下のようにぎっしり奴隷を敷き詰めて運び、しかも奴隷には「財産」として保険をかけることができるのだ……という話をしている。

作者はなんでこんなこと知ってるんだ (7話より)

もうやたらと詳しい。奴隷を人じゃなく荷物と見て、食糧も水もほとんど与えず、病気でバッタバッタ死ぬのも構わず劣悪な環境で運んでいくのだ、という話をまた別のコマでしている。実際奴隷船はそういうもんだったらしい。へええ、とこの漫画で初めて知った。

もうこの話だけでちょっと面白い。で作者が中世オタクなのか博識なのか何なのか知らないけど、漫画の至るところでこれくらいの密度の豆知識なんだか雑学なんだか歴史なんだかわからん面白史実エピソードが展開されている。貨幣の偽造ってどうやるのか、その対策は? 経済とは、インフレとは何か? 私掠船ってのがあるらしい、普通の船とか奴隷船とは何が違うのか? 大量の偽札を「使わずに使う」、その真の用途とは?

メインのストーリーを補完するように随所でいろいろ語られるんだけど、それが全部面白い。難しい話をしているはずなんだけど語り口も絵もわかりやすくてすらすら入ってくる。これはもう教養本に片足突っ込んでると言っても良いくらい。自分まで頭良くなった気分になれておすすめです。

すごいところ2:文脈で笑わせてくる

この漫画、10話くらいまではけっこうシリアスで真面目なんだけど、だんだんシュールなシーンが増えてくる。
例えば以下は「同じ奴隷仲間だと思っていた男が、もしかしたら敵国の人間かもしれない」と疑っている場面。

疑惑、思い返せば……(11話より)
着こなしが自然すぎる!!(迫真)(モデル立ち)(敵国の兵士から奪って初めて着た服とは思えない絶妙なこなれ感)(ヒラヒラネクタイで差を付けろ)

いやギャグではないというか、誰もふざけてるわけじゃないんだけど、なんかこうおもろいというか。説明が難しい。
なんだろう、真面目でシリアスな展開が前フリになっている。見てよ右下、主人公の顔を。全然彼は真面目なんであります。

こういうシーンがいっぱいあります。

8話より。敵のボスに取引を持ち掛ける主人公(右)、取引に応じないよう訴える側近(左メガネ)、だだっ子に引っ張られるパパみたいになっているボス(中央)。

これとか。命のかかった駆け引きをやってるんだぞと言いたくなる。
なんか後半のシーンほどこういう成分が濃くなっていく印象がある。筆が乗っているのか。

世界観は結構シリアスで、人はバンバン死ぬし暴力は当たり前のように降り注ぐし脅迫も嘘も頭脳戦の手ごまの一つとして常用される、けっこうシビアな世界なんだけど、なんかこうほんのりギャグテイストなおかげで気楽に読める良さがある。

何て言えばいいんだろう。この漫画のギャグ要素、全部好きなんだよな。

すごいところ3:ルール無用、知略と暴虐の頭脳バトル

頭脳バトルがまじでアツいです。

頭脳バトルといえばオリジナルのゲームをやるものが多い。カイジのEカード、ライアーゲームの少数決など。それはそれで好きである。

ハイパーインフレーションの世界は一味違う。この世界にルールなどない。ゲームじゃないのだ。警察もいて法律もあるが、暴力は振るわれるし脅迫も起きる、買収だってする。いくら相手を論破してもぶん殴られてロープで縛られたら負けである。
というか頭脳バトルに暴力って本来タブーなのだ。何故って殴ったら全部解決してしまう。いくらゲームに負けようが机をひっくり返して相手をボコボコにして金貨をぶん取ってしまえば一円も損しない。
大抵の頭脳バトル漫画ではそれを担保する存在がいる。例えば超強い用心棒がいるとか、事務局とか運営みたいなやつが敗者をちゃんとボコしてくれるとか、アカギvs鷲頭だったら鷲頭のプライドがそんな暴力は許さないとか、ダービー兄vs承太郎だったら初手で承太郎にオラオラされたらゲームしてくれないので素性を隠してポルナレフの魂を人質にしてからゲームスタートしたとか(これだって承太郎が『損切りってやつだぜ』とか言ってポルナレフを諦めてダービーを殴ってればポーカー勝負無視して突破できてたのだ、どうせ行きずりの元敵の知らねえフランス人だしとか言って)。

ともかく頭脳バトル漫画に暴力は存在できない。はずなのだ。本来。そして暴力を振るって良いなら頭脳バトルをする必要もない。

ところがハイパーインフレーションではむしろ暴力がメインである。こいつは銃を持ってるから逆らえないなとか、見張りが何人に対して動ける奴隷が何人用意できれば反乱が成功するなとか、こいつとはこういう利害関係にあるからこれが脅しとして機能して、だからこれくらい言うことを聞かせられるな、みたいな計算をずっとしている。これはすごいことである。こういう漫画は初めて読んだ。
頭脳バトルをするなら暴力はナシ、もしくは暴力で勝ってるなら何も考えなくて良い、というのが普通の漫画である。ハイパーインフレーションは違う、「どうやって暴力で勝つか?」がメインの頭脳戦である。まじですごい。書いててようやく気付いた。暴力とか脅迫とかの野蛮な要素を、無視するわけでもない、かといって便利な万能解決策とするのでもない、ただ自然にそこにあるものとして描いている。これってすごいことです。人数、利害関係、武器、立場、権力、人脈、信仰心、金、腕力。全てを計算に入れて、持てるものを使って戦う。あまりにリアルでシビアな頭脳戦。良きです。

18話より。非力で孤独な主人公でも脅しが通用する相手だからこそ対等に協力できる、というすごいシーン。読んだときけっこう衝撃だった。「脅す」と「協力する」が息をするように同居する漫画

とにかくアツいです。みんな頭良すぎる。


さいごに

全58話、短めながら密度がすごくて大満足の漫画です。
あとLINEスタンプもあります。名シーン集で、めちゃめちゃ納得の「わかってる」チョイスなんだけどスタンプとしての実用性がやばいくらい無い。思い出のシーンがトンチキセリフばっかでいつ使うねんと。

あと作者の方はほぼほぼこれが初作品らしい。すごすぎ。

コミックス一巻のリンクも貼っとくか。買っても僕には一円も入らないけど、買った人は読んだら知人に貸してあげてください。

ではこんなところで。ご読了ありがとうございました。


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