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パングラムにおける仮名46文字Tier表について
こんにちは。まるうちと申します。
言葉遊びが好きで、主に、パングラムや回文を作って日々遊んでいます。
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パングラムとは、ある言語における全ての文字を、できるだけ重複が少ないように使用して作った文のことです。
The quick brown fox jumps over the lazy dogという英文があります。
これは、アルファベット26文字を全て使用し、なおかつ可能な限り文字の重複を少なくしたパングラムとして有名です。
その中でも、完全パングラムとは、全ての文字が重複せず、一度しか使用されないパングラムを指します。
私は、この完全パングラムを作るのが好きなのですが、作り続けるうちに、
使われやすい文字と、余りやすい文字の傾向があることに気がつきました。
そこで、この文字に関するTier表を作り、全ての文字について、
なぜ使いやすいのか、なぜ使いにくいのかを解説するというのがこの記事の趣旨です。
そして、完成したTier表をもとに、これまで私が作った作品を例に交えながら、完全パングラムを作るためのコツについてもお話できればと思います。
(以下、パングラムという表記は、完全パングラムを指すものとします)
まず、日本語でパングラムを作る際には、いくつかの文字テーブルが存在します。
(例)
・47文字
「ゐ」「ゑ」あり、「ん」なし。いろはにほへと、で始まるいろは歌が特に有名かと思います。
・48文字
上に「ん」を加えた旧仮名48文字や、「ゐ」「ゑ」を除き「っ」「ー」を加えた新仮名48文字。それぞれ、IRH48やkiz48という名称でルールが考案されています。
参考URL : https://irh48kiz48.jimdofree.com
・46文字
現代仮名46文字を使用。
今回は、私が最も多く着手してきた、現代仮名46文字のパングラムにフォーカスしてお話していきます。
加えて、Tierの高い、低いを以下のように定義します。
Tierが高い
→意図的に使用しなくても消費されやすい文字。また、余っても消費しやすく汎用性が高い文字。
Tierが低い
→意図的に使用しないと余りやすい文字。また、余った時に消費が難しい文字。
したがって、本記事タイトルである
「パングラムにおける仮名46文字Tier表について」
をより具体的に表記すると、
「現代仮名46文字を使用した完全パングラムにおける、文字の使いやすさに着目した現代仮名46文字Tier表について」
という具合になります。
本記事では、私が勝手に定義したルールの範疇で、勝手に文字を格付けしていきます。
そのため、もしあなたのお気に入りの仮名文字が低いTierに置かれていたとしても、どうかご容赦ください。
前置きが長くなりましたが、本題に入っていきます。
まず結論として、私の私見モリモリで考えた現代仮名46文字Tier表は以下の通りです。
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いかがでしょうか?
予想通りの文字もあれば、以外なところに位置している文字もあるかもしれません。
同Tier内での左右の順番については、可能な限り考えてはみましたが、1-2個程度であればそこまで大きな差はありません。
ここで注目していただきたいのが、TierCについてです。
「えろ」があります。
興奮しますね。
それでは順に解説していきます。
なお、TierBとCでは、実際の作品も併せて掲載しています。
TierS
か
名詞や動詞など、作成の過程で成り行きで消費されることが多い。
余っても、雪降る→雪が降る などで雑に組み込める。
い
美しい、優しい、黒い、など、あらゆる形容詞の源。
の
この、その、あの、どの、で使えるのが強い。
「花の幹」のように、AのB、として勝手になくなる。
は
俺、ジャイアン → 俺はジャイアン
時満ちて→時は満ちて
便利でしょう?
う
買う、問う、舞うなど、動詞を入れようとすれば自ずと使われる。
る
上に同じく、売る、切る、去るなど。
つ、て
売る→売って、切る→切って、去る→去って、の変換が便利。
促音の「っ」として勝手に使われる印象。
また、チャリで行く、など、何かの手段を表そうとすれば自ずと消費される。
を
髪切る→髪を切る、愛する君→君を愛する、のように組み込める。
そのため、入れられる箇所の候補がいくつかある時には、見た目の文字数調整に使うことも。
ただし、(滅多にないが)組み込める余地がない場合、組み込めるように文をアレンジしなければならないので大変。
た
自由→自由だ、のように、名詞の後にくっつける処理が便利。
TierA
に
比較的余りやすい「へ」と互換性があり、必要に応じて使い分けられるのがグッド。
山に登る⇄山へ登る
し、す
落とし⇄落とす、化し⇄化す、の互換性があり、片方が既に使われていてもカバーができる。
ん
余ってしまった場合、魅せる→魅せん、許さぬ→許さん、などの変換が必要。
しかし経験上、言葉の一部として勝手に使用されることが多い印象。
き、く
咲き⇄咲く、空き⇄空く、の互換性。
よ
〜だよ、〜わよ、が便利な使い方。
その他、せよ、走れよ、としたり、
幸せ→幸せだ→幸せだよ、などとできる。
と
君と僕、のように使えれば特に困ることはない。
も
僕も行く、などのように、何かと同じ事柄がある時には使える。
そうじゃない場合にたまに余る程度。
さ
さあ行こう、とかで使うことが多かったような気がする。
余りやすい「そ」と併せて、誘う、誘われ、なんかも使いやすい。
余った場合は、探偵→探偵さ、などで雑に処理が可能。
ら、れ
塗られ、攻められ、など、受け身を作る時は2つで1つ。
子供→子供ら、や、光あれ、幸あれ、などで使える。
そのような形が作れるならば問題ないが、「れ」は単品だと処理に困るので注意。
TierB
り
先で紹介した、売る→売り、切る→切り、の変換でいけることもあるが、余った時に「理」とできずに困った経験があったためこの辺にした。
〜なり という使い方での登場もいくつかあった。
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な
小さな子供、や、つぶらなひとみ、など、どんなものかを説明するために使えれば特に処理には困らない。
経験上、余った時は、悩む、悩み、で使うことがあった。
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ま
間(ま)、と一文字で使うことはテーマ的にいままでなかった。
止(や)まない、止(や)まぬの他、招(まね)く、が便利。
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み
身、で使えはするものの、気がつくと余ることが少なくなかった印象。
見えぬ、笑み、道、導く、に何回も助けられてきたのでこれからもお世話になります。
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ひ
日、で使おうとすると自ずと「〜の日」「〜な日」となるが、の、な、をセットで使わなければならないのがきつい。
〜曜日、として導入する場合はその心配はない。
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け
やはり困ったら、行け、描け、紡げ、と命令形にしてしまうのが無難に強い。
叫ぶ、叫べ、負けぬ、が使いやすく、これまでの作品にも何回か登場させてきた。
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こ
子、や、子供、で使うこともできるが、そうすると結構テーマが限られる印象。
汎用性が高いところだと、声、込め、こぼす、など。
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あ
実は意外と余りやすい。
一文字で処理できない都合、自ずとテーマに合った表現を用意する必要がある。
というか、あ、で終わる言葉が少ない。
だから、あ、で始まる言葉を回文に組み込もうとしてもうまくいかないことが多かったりする。

わ
忘れる、忘れぬ、には幾度となく救われてきた。
汎用性が高いところだと、笑い、我(われ)ら、幸せ、など。

お
都合よく、尾、とできるテーマに着手したことはない。
過去の創作を振り返ってみても処理に困ったことが多い。
青、炎、頬(ほお)、音、遠く、が使いやすい。

せ
〜だぜ、や、〜せぬ、と使うのが最も便利。
もちろん、背、で使えるならそれも良し。
これまでの作品では、合わせて、示せ、ゼロ、風(かぜ)、などで登場させてきた。

む
無理、無二、無論、など、無と一文字で使えない場合には無で始まる言葉にすることが多い。
胸、望む、求む、生む、も使いやすい。

TierC
へ
空へ、のように、(目的とする場所など) + へ で使えれば何の問題もないのだが、そう出来ない場合はとにかく処理に困る。
下手(へた)、術(すべ)、部屋など、無理にでも何か言葉を引っ張ってきて消費する他ないパターンもある。

や
「へ」と同じく、犬や猫、川や海、のように使えればいいが、余るとまあ大変。
そして何と言っても、(名詞など) + や として関西弁にする処理が非常に便利である。
あとは、闇、無闇、悩む、悩みが使いやすい。
あるいは、艶めかしや、美しや、と、詠嘆に使う処理もある。

ふ
成り行きで作ってると気がついたら余ってるパターンが多い。
季節をパングラムに盛り込む場合、他の3つよりも圧倒的に冬(ふゆ)が便利なので、寒い日をテーマにする時には真っ先に導入していいレベル。
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え
故(ゆえ)、はかなり重宝する。
あとは、燃(萌)え、知恵、とか。
テーマ的に「絵」と一文字で使えるならそれに越したことはない。

ろ
燃えろ、生きろ、など、私の作品に命令形の表現が多くなってしまうのはだいたいこいつのせい。
そのあたりに変化を出すために、まず真っ先に「ろ」を含む表現をテーマに組み込めないか考えることすらある。
驚き、広げ、おぼろ、なんかが使いやすい。

そ
余ると本当にどうしようもないが、一応、我嵐ぞ?、などとして使うことは可能。
汎用性の高い「の」を消費することになるが、その、としてしまうのがとても便利。
あとは、空、添え、誘われ、が使いやすい。

め
「目」で使えるか否かで処理の難易度がずいぶん変わってくる。
使いやすいところだと、雨、込め、染め、さめぬ、など。

ち
「血」や「地」で使えるかどうか。
これまで着手してきた限りでは使えないケースが多く、処理に苦戦しやすい。
必要によっては、ちゃ、ちゅ、ちょ、の表現が使えないか検討する。
使いやすいところだと、町(まち)、の他、(名詞) + 達(たち) で複数にするなど。

ほ
テーマに海や船が登場するなら、帆(ほ)として処理するのが一番楽。
余りやすい「ろ」と併せて、テーマにまったく合わないのに、滅(ほろ)ぶ、滅(ほろ)べ、としたくなることが幾度となくあった。
本当、本気、星、の他、この後の「ね」と組み合わせて、骨、とするのが便利。
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ね
これを含めて、この後の「ぬ」「ゆ」が個人的に考える使いにくい文字ワースト3。
ダメ→ダメね、虹色→虹色ね、という処理が最も使いやすいが、変化をつけたい場合には「ね」を含む表現をまず検討する。
胸、熱、願い、眠りの他、〜よね?などが使いやすいところ。
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ぬ
「ろ」のせいで命令形が多くなるならば、これは打消しを伴う表現が多くなる原因。
真っ先に「ぬ」を含む表現を考えても何も思いつかず打消しで使わざるを得ないことがあるが、それはもうしゃーなし。
濡れる、塗る、塗り絵、温もり、犬、布など、テーマに沿っていて使える表現がないか、作り始めの段階から考えておくといい。

ゆ
「湯」として登場させられるならハッピー。
そうじゃなければとにかく処理しにくい。
便利なのは、行(ゆ)け、行(ゆ)こう、としてしまうこと。
文字の余り具合によって、行(い)く、行(い)こう、と使い分けしよう。
夢(ゆめ)、はそのあまりの汎用性の高さから私の作品にも度々登場。
変化を出すために、夢禁止縛りを考えてしまうレベル。
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文字についての解説は以上になります。
この表をもとに、パングラムを作るコツについてお話していきます。
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意識すべきことは、可能な限りTierの低い文字を優先して使用することです。
さらに言えば、Tierの低い文字の構成割合が多い言葉は、完成させる上で価値が高いです。
例えば、テーマに沿っているならば、是非、船(ふね)を使いたい、と考えます。

他にも、綻ぶ(ほころふ)や、ボロ船(ほろふね)などを使えると、後の展開がより楽になるかもしれません。
この観点で圧倒的に汎用性が高くて使いやすい単語は、
「夢(ゆめ)」
「胸(むね)
「眠り(ねむり)、眠れぬ(ねむれぬ)」
などです。

いろはにほへとから始まるいろは歌も、浅き夢見し、と、夢に関して言及しています。
採用してみると、完成に役立つかもしれません。
また、このTierの低い文字から使用する手法を逆手に取り、
「このフレーズは文字被りがなくて、なおかつTierの低い文字も消化できるから、パングラムを作りやすいのでは?」
という気づきからアプローチすることもできます。
(例)

「文字被りない!しかも、夢(ゆめ)、ねえ、を消費可能!これはいける」
↓

(例)
「昼飯をランチ、夕飯をゆうげ、と表現すると、ち、ゆ、け、が使えるなあ。せや!」
↓

と言った具合です。
こういったアンテナを常に張り巡らせておくと、創作のきっかけを見つけやすいです。
余談になりますが、TierCに注目してください。
「えろ」があります。
私見ですが、Tierの低い単語を無理なく導入できるという点において、パングラムと下ネタは相性がいいと考えています。
私がパングラムを始めたきっかけは、ポケモン実況者であるランドセルさんのパングラムでした。
内容はあまりにもセンシティブなため割愛しますが、そういった言葉たちがパングラムにうまく組み込みやすいことに、ある程度作り慣れてから気づきました。
ランドセルさんの作品に感銘を受け、
「私にも出来るかな?」
と、100円ショップでかるたを購入して作ったのが始まりです。
現在は、スマートフォンのアプリを使用し、暇があれば指一本で気軽に制作しています。
最後に。
以下は、この記事の投稿日の1週間くらい前に、私がクレジットカードの不正利用被害に遭ったことをネタに制作したものです。
朝早くに、勝手にSteamに大量に課金されたことが発覚し、ずいぶんと驚きました。

創作の流れとしては、まず、む、を消費するため、Steam(すちいむ)かゲーム(げえむ)を使うのは確定。
ここでは、ち、を消費できるSteamを採用しました。
Tierが低い文字たちをまとめて消費できる、許せぬ(ゆるせぬ)も確定。
ややぶっきらぼうに、やってねえ、という表現を用いることで、や、ね、え を消費。
残りは文章として無理がないように、文字を組み立てていきます。
完成した作品は、犯人を呼びつけて怒る他、臓物を抉ってそれを海に捨てるというストーリーになっています。
しかしながら、これは、創作開始時点では夢想だにしておらず、成り行きでそうなったものです。
個人的な見解として、パングラムを作っていて一番面白いのは、7-8割完成した後、余った文字をうまくテーマに沿わせていくフェイズにあると考えています。
余った文字たちがストーリーを紡げないと判断したら、作った文字列の一部を崩して作り直し、再び余った文字たちで、何か作れないか検討する。
パングラムは、ひたすらこれの繰り返しです。
これを何度も繰り返すうちに、いつしか、余った文字たちが秩序を持ち出し、自分でも予想しなかった姿を見せてくれることがあります。
その時、目の前の世界が、ほんの一瞬だけ、異様にパッと明るく感じられる感覚。
私は、その感覚に魅せられ、いまもなお、パングラムを作り続けているのだと思います。
この記事が、みなさんがパングラムを創作する上での一助となれましたら幸いです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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