ストイック・ワーケーション
その頃私は、やってもやっても終わらない仕事と閉塞感いっぱいの体に張り付いた空気に慢性的に飽和状態だった。
「もう、何か無理だ…」
手帳を見る。
「ここしかない」
意を決したのは「ワーケーション」。仕事と旅をセットにするというやつだ。
物理的にリフレッシュしないと永遠に何も終わる気がしなくなっていた私は、進まない仕事の打開策として、仕事もできてリフレッシュもできる避難場所を必死で探した。こういう時ライターという仕事は、ワーケーションに向いている。
そんなに移動に時間をかけるのも勿体無いけど、知らない景色の場所で、電車で行けるところは…
脳内Googleフル回転…
…(ぐるぐる)
……(ぐるぐる)
「山形県鶴岡市」!
そう、そこには一度行ってみたかったホテルがある。
そのホテルの名は「スイデンテラス」。その名の通り、水田の真ん中にある素敵なホテルだ。
…お米の国に生まれ育って暮らしている私にとって、水田は全く珍しくはない、ええ、1mmも(笑)。
でも、元々面白いホテルが好きで、しばしばリノベしたホテルや個性的なゲストハウスを好んで泊まってきた身としては、あのホテルの空間は超絶魅力的だった(山形に詳しい友人に「山形でおすすめのワーケーションスポットは?」と相談した時も名前が上がった)。
打ち合わせも取材も入っていない「書くだけの日」を3日間キープして、そのタイミングにちょうど空室もあり、2泊3日猛ダッシュで飛び乗れ「特急いなほ」!
夕方過ぎにホテルに着いたら…の前に、駅からホテルまでのタクシーのおじちゃんのフレンドリーな話しっぷりに、鶴岡高感度既に爆上がり。
そして着いたら…はい、最高!水田のど真ん中に浮き立つ、木をふんだんに使った伸びやかなホテル(…お米の国人としては、「農業用地にホテルって建てられるんだ!」とか気になった)。空間が気持ち良すぎる!広いテラスとか、ヨガしたい(普段全然しないけど)!客室に入っても、シンプルだけどデザインが行き届いた内装に、一人ではしゃいで、とりあえずあちこちの引き出しを一通り開けてみる。
素敵な世界観に心鷲掴みのところ、必死で見失いかけた“本来の目的”の裾を摘んで我を取り戻し、そっから書きものにひたすら没頭、没頭、ぼっと…
時計の針は21:30。
「忘れてた…晩ごはん」
ホテルのレストランのディナーは、ワーケーション目的の人間が一人でサクッと食べるにはあまりにも勿体無い豪華さで、では外で食べるかというと…店みんな閉まってるし、コンビニ遠いし…
……汗
何か食べるものはないかな、と気分転換も兼ねて、物販コーナーへ。
ここはコーナーの設えも、置いているお土産のデザインもまっこと美しい。
右から左へと棚を移動し視線を移しながら…ストップ。目に留まるレトルト「グリーンカレーリゾット」。
確かハッスルして部屋のあちこちをみたときに読んだファイルに「お部屋にレンジはないので、温めが必要な場合は、フロントにお声がけください」とあった。
…これ……温めてもらえないかな…。。。
正直すんごく悩んだ。絶対そのために売ってるもんじゃないし、「いや、レストランで食べようよ」って思われるんじゃないかとか…一人で高速大葛藤。
だがしかし、空腹との戦い。背に腹は変えられない。空腹の勝利。
フロントの呼び鈴を押し、恐る恐るスタッフさんに「これ…温めてもらうことできますか?」と相談したら、躊躇ないOKスマイル。神様!
申し訳ないな…と思いながら、待つこと数分。
なんと…あっためたレトルトパックと一緒にお盆の上に登場したのは、器とスプーン!
ホスピタリティィィィィィィィィィィィィィィイ!
ただでさえ惚れ始めていたところに、完全にロックオンした瞬間だった。
観光要素0で過ごした2泊3日のストイック・ワーケーション。でも本当にホテルのデザインもホスピタリティも素晴らしく、おかげで仕事もかなり片付いたり、空間で過ごすことそのものがリフレッシュになったので、目的は十分果たせて満足度150%。
「ワーケーションしよう」と思って意図的にやったのは初めてだったけど、すんごくよかった。
ちなみに二日目の晩ごはんも同じような感じで食べ損ね、まだスーパーが空いている時間だったので、スーパーのお寿司(別添えの醤油もらい損ねた)を買う。
世界に誇る食文化創造都市・鶴岡での食事がレトルトとスーパーの(醤油抜き)お寿司…(美味しかったけど)。
遠くないうちに、今度はもう少しゆっくり過ごしに、北へ行こう。