私が旅に出る理由
執筆を依頼された、福島民報「民報サロン」の記事をアーカイブとして、noteにも残すことにしました。2020年6月21日分です。一部段落構成は記事から変更しています。
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私は旅が大好きです。これまでに二十カ国以上を訪れましたが、改めて考えてみると、私が旅好きな理由は主に二つあるように思います。
一つは純粋に好奇心が満たされるからです。私は歴史や文化が好きで、旅先では自分の知らない未知の世界を知ることが楽しく、遺跡や美術館につい長居をしてしまいます。
また、単に観光するだけでなく、旅先の現地の人と会話をしたり、地域のローカルな食文化や慣習を体験することで、お国柄や地域柄を知るようにしています。実際に現地の人と話すことで、その場所に対するイメージが変わることがあり、リアルな暮らしを垣間見ることが、自分なりの旅の楽しみ方になっています。
もう一つの理由は、旅に出ると、自分自身を客観的に見つめ直すことができるからです。これは私が特に一人旅を好む理由でもあります。
旅とは日常を離れて、自分の知らない場所に行くことであり、旅先での自分は仕事の立場や肩書きもなければ、親しい人との繋がりもない、言わば「裸の自分」です。
現地で会った人には一から自己紹介しなければならない上に、海外では、日本人同士で通じる常識が通じないことも多々あります。一人旅は心細く寂しいものだろうと思われるかもしれませんが、私は海外で初めて一人旅をして以来、その魅力にすっかりはまってしまいました。
一人旅をすることになったのは、大学在学中のイギリス留学の間に訪れたスペインでした。マドリードでの宿泊先として、安価なゲストハウスの相部屋を初めて一人で予約しました。
海外で五人の知らない人と同じ部屋に泊まるのは不安でしたが、実際に体験してみると、ゲストハウスという場所には、たくさんのかけがえのない出会いや刺激があることに気が付きました。
この時は、同室だったアメリカの学生と友達になったり、JICA青年海外協力隊のOGと飲みに出かけたり、カナダから一人で来ていた陶芸家の女性とは一緒に隣町に一日観光にも出かけました。
「ハロー。あなたはどこから来たの?」
この一言から始まるゲストハウスのスタッフやお客さんとのフレンドリーな会話は、当時の私にはとても新鮮でした。
出身地や旅の目的、普段は何をしているのか…そんな他愛もない話題から、お互いの国の文化について教えあったり、政治や社会の話を聞くのが、とにかく刺激的で楽しかったことを覚えています。
同時に会話の中で、私自身について話すよう求められたことは、自分のルーツや考え方について振り返るきっかけになりました。外国人から日本について質問されても、当時は上手く答えられず、未熟な自分を恥じたこともありましたが、それ以上に、日常生活では関わることのない多様な人々や価値観との出会いが、その旅路だけでなく、時にその後の人生をも豊かにしてくれることを知りました。
それからというもの、旅は私にとってますます欠かせないものとなり、今では悩んだ時には決まって、一人旅に出たくなります。「裸の自分」と向き合い、多様な文化や価値観に触れることで、本当に自分が大切にしたいものがいつも見えてきます。